3話:純白に朱を落とす
「反撃とは言ったけど、本当に私がこっちの相手でよかったのかな……じゃない!」
自分史上最高の啖呵を切ったのに早速弱腰になっている自分を頭を振って追い出し、体勢を建て直した白騎士に対して剣を正眼に構える。
いくらド派手なドロップキックをしたからといっても、白騎士にまともに入ったのはこの一撃のみ。けれど土まみれのせいか白騎士は少し追いこまれたようにも見えた。
「また合流できたら白騎士もHP低下で動きに変化あるか訊けるかな」
白騎士の後ろに見える白竜の背中。その奥にいるはずの仲間が残してくれた助言とともに、白騎士へと走り出す。
「<ヘヴィ・ソード>!」
剣にノックバック強化のエンチャントをする。
この刀身を鈍色に光らせる<ヘヴィ・ソード>というスキルは、様々な魔法を剣に付与する<魔法剣>スキルの初期スキルであり、各性質の魔法剣スキルのマスまでスキルツリーを伸ばすために取得しなくてはいけないスキル。
しかし、このスキルによるノックバックはそのスキルランクに対応した強さの敵までにしか発生せず、寧ろ修得ランクより高い強さを持つ相手を攻撃すると自分の武器に強い反動が来てしまう。
はっきり言って人気のないスキル。
もちろん私も初期ランクまでしか修得していない。
でもジェーノはこれを使えと言った。
「会ったばかりのプレイヤーを信じるのは難しいけど、そんな相手を信じようとしてる自分を信じるくらいは――」
白騎士のAIエンゲージに入ったのか白騎士もこちらへ走り出し、距離は一瞬で埋まる。
「してもいいよね!」
走りながら右下段に構えていた剣を白騎士に向けて逆袈裟に切り上げる。
しかし白騎士は私の剣を上から剣で打ち下ろし、そのまま手首を返して私の首を狙う。
驚くほど無駄のない、完璧で致命的なカウンター。
けれどその瞬間、私の剣は白騎士の剣の速度を超えていた。
打ち下ろされた瞬間に私の剣へと伝わる異常なまでの反動。しかしその『驚き』はジェーノの言葉をピースにして『閃き』へと変わる。
「例え反動が来たって!」
ヘヴィソードの反動によって強く弾かれた剣をそのまま弧を描くようにして頭上へ振り上げ、そのまま全力で白騎士めがけて振り下ろす。
「私の手の中にある限り、私の剣!」」
白騎士の純白の鎧に、縦一閃の鮮血が走る。
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【tips:ユーザーステータス】
『エーティスのステータス』
<レベル:76>
<HP:生命力> 532/532
<ST:持久力> 177/177
<MP:魔力> 134/134
<SP:精神力> 133/133
<筋力:49>
<技量:57>
<知力:40>
<意思:10>
<幸運:12>
<防御:22>
<速力:30>
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「やっぱり、綺麗な剣だな」
白騎士についに一発入れて流れを変えたエーティスは白騎士と一進一退の剣舞を繰り広げている。
その姿を確認したジェーノは拳を突き合わせて音を鳴らし、目の前の相手へと向けて伸ばした人差し指をクイクイと曲げて挑発をする。
「来いよ、白騎士のオマケドラゴンちゃん」
「グオオオオオオオオオオオオ!」
怒声と思しき咆哮を轟かせ、白竜はジェーノの<挑発>スキルによって突進をしかけてくる。
「行くぜー!」
ジェーノも背負っていたハンマーを構えて白竜へと真っ直ぐに走り出す。
そして衝突に備えて白竜が顎を引いて頭を突き出した瞬間、ジェーノは半歩だけ左に体を捌いてフルスイングをその頭にぶちかます。
「おらよ!」
しかし生物にとってのカバーすべき弱点であり、ドラゴンタイプのモンスターは武器としても使うこともあってその頭部はとても堅い。そのためジェーノのハンマーは強い手応えを生みつつも突進の衝撃も合わさって大きく弾き返される。
が、勿論それはエーティスに助言をしたこの男の筋書き通り。
「反動だからってマイナスじゃない。エネルギーである限り、それはプラスにもなる。ってなあ!」
ジェーノはそのまま体の向きを反転。白竜のタックルの威力を利用した本命の左フルスイングを自分のすぐ横を通り過ぎていく白竜の首へと叩き込む。
「どっせい!」
「グオオオオオオオオオオオオ!」
鱗の薄い首元へのダメージに白竜は声を上げながら体ごと首を曲げ、爪で地面を削りながら綺麗に横滑りをする。
しかしそのままドリフトの要領でジェーノへ顔と体を向けると、火球を口から放つ。
「おおっと!」
流石にフルスイングの後では火球を打ち返せず、ジェーノは横っ飛びに回避。
転がりながらハンマーを再び背負い、拳を構えて白竜へと走る。
「長引かせると、事故の確率は上がっちまうからな。ぱぱっと倒れてくれ!」
身を屈めて体術スキルの<縮地>を使って急速に白竜との間合いを詰め、相手のやや右側へ地を蹴って飛び、着地するやいなや再び跳躍して白竜の横っ面に<疾風二連脚>でダブルバックキック。
着地と同時に<閃拳>を蹴った場所と同じ位置に放ち、コンボと速度バフを稼ぐ。
連続攻撃に白竜はたまらず首をしならせてなぎ払いをしてくるが、ジェーノは上体まで屈めたダッキングで回避し、自分の頭上に白竜の首裏が来たところで体のバネを大きく使ったアッパーを喰らわせる。
「コレ、もらっていくぜ」
そしてアッパーで沈み込んだ拳を引き抜く際に、ドラゴンの象徴の一つである逆鱗を白竜の首元からむしり取る。
「――――ッ!ギャアアアアアアアアアアアアア!!!」
白竜が息と同時に周囲の音まで飲んだかのように一瞬の静寂が訪れた後、この山麓の全ての木々を揺らすほどの大叫声を上げる。
「っはぁ!」
この咆哮には強化バフの解除とスタン効果があり、このあと悶え苦しむ白竜に攻撃を畳み掛けるタイミングを潰されてしまうのだが、ジェーノは背中に背負ったハンマーの柄を握って<不動の構え>スキルを発動し、無効化。
そして白竜は翼や首を振り乱して暴れ回るが、腹の下は全くの安全地帯となる。そこにジェーノは滑り込んで連撃を打ち込む。
「<流気瀑布>」
両手を互い違いに擦り合わせ、腰だめに構えて力を集中させる。そこから光の奔流となった力を右の掌底に乗せて叩き込む。
「<焼塵剛拳>」
右手を素早く引き、戻る右手と送り出す左の掌をすり合わせて炎を生じ、渾身の左ストレート。
「<仙樹木端連掌>」
そのまま左肘、裏拳の連撃。
「<金剛天衝撃>」
引いた左手と撃ち出す右拳を擦らせ。煌めく光を纏った一撃。
「<合気集脈>」
最後に拳を打ち合わせ、全ての気を体の中心に集める。
特殊連撃を放っていた間の凛然とした雰囲気を全て内に閉じこめ、ジェーノはいつもの笑顔を浮かべる。
「やっぱり仲間が居るって、いいな」
普段は発動出来ない特殊連携を発動出来たことにジェーノは充足感を感じながら背中のハンマーを装備。
最大まで柄を長く持ち、体を限界まで引き絞る。
「じゃあな、白竜」
そして瞬間、全てを解き放つ。
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【tips:魔法剣スキル】
『ヘヴィ・ソード』
剣に衝撃の力を宿す魔法剣スキル。剣による攻撃にノックバックが付与されます。
ノックバックの性能はスキルレベルに準じます。強力な敵に対して効果を生むには相応のスキルレベルが要求されると同時に、スキルレベルが大きく足らない場合は剣が強く弾かれます。
――それは自らの剣気をその刀身へと移し込む剣技なり。
剣に力を宿す基本であり、その始まりであることを忘れることなかれ。
次回で戦闘が終わると思いますが、毎日更新も終わるかもです。
でも、なるべく頑張ります。
2018 4/12
文章の修正。【tips】を追加しました。
2018 4/23
【tips】を追加しました。