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2話:対峙する一対

「グオオオオオオオオオオオ!」


 小高い山ほどある巨体を震わせて、白竜が呻く。

 ダメージにというよりは、驚きにだろう。


 何故なら白竜は自分が吐いた火球を自らの顔面に打ち返された経験などないからだ。


「どうも、貴女のヒーローになるかも。俺ですっと」


 頑張って婚活ポイントを稼ごうとしていた時に仲間と作った決め台詞を、少し気恥ずかしそうに言ったジェーノ。

 しかし彼が顔を背けながら言ったその台詞は、残念ながら放心したままの女剣士エーティスには届いていないようだった。


 一番に目を引く濡れ羽色のロングヘア、そして前髪に対して長めの揉み上げ。防具は黒いインナースーツに赤い軽量装甲を要所へ装備した軽装タイプ。


 ジェーノはその装備群を見ると、エーティスが自分と同じようなレベル帯だと判断する。


「……もしもーし。弾丸系の炎ブレスは何回でも打ち返せるけど、タックル来たら流石に諸共死ぬぞー」


 目の前で手を振る男に気づき、エーティスはようやく正気を取り戻す。


「っは!あ、ありがとう……。えーと、ジェ…ジェー…?」


 一瞬だけウィンドウ表示されていた名前を思い出そうとするエーティス。


「どういたしまして、ジェーノだ」


「ありがとうジェーノ。パーティに入れたってことは、貴方もこのクエストを?」


「ああ、そういうこと。まだ報酬が貰える段階で参加出来そうだったから助太刀にね」


「なるほどね。……えーと、じゃあさっきまでのも……見てた?」


 ばつが悪そうに()()()()エーティスに対して、ジェーノは頬を掻きながら「吹っ飛ばされてからの火球ブレスが見えたから咄嗟に参加しただけ」と答える。

 そんなジェーノにエーティスは『いい人なんだな』と思って少し笑みをこぼす。


「そういえばまだ私が名乗ってなかった。私はエーティス。よろしくね」


 エーティスの差し出した手をジェーノが握り返す。


「よろしく。エーティスね。覚えた」


 そのままジェーノが腕に力を入れてエーティスを立ち上がらせようとするが――。


 グイ。


「あれ……」


 エーティスの腰が持ち上がらず、二人揃って首を傾げる。


 グイグイ。


 そのままジェーノは何度か腕に力を込めるがエーティスの体はびくともしない。


「おい、もしかして……」


 ジェーノに嫌な予感が走る。


「腰……抜けちゃった♪」


「マジかああああああああ!」


「ヴオオオオオオオオオオ!」


 ジェーノの嘆きと同時に二人が存在を忘れかけていた白竜も吠え、一番危惧していたタックルを仕掛けてくる。


「ええい、永久凍結前の最終日にクエスト失敗してたまるかぁ!」


「え、ちょ、ちょっと!きゃあっ!」


 ジェーノは持っていたハンマーを背負うとエーティスの傍らにしゃがみ、そのままエーティスの背中と膝裏に腕を回す。


「ねぇこれってもしかしてー」


「この世界で最初で最後のお姫様抱っこだ。ちゃっかり許して、しっかり捕まっててくれよ!」


 ジェーノはエーティスを抱き抱え、走り出す。


「きゃあああああああ!」


「ヴオオオオオオオオ!」


 地面を伝わる大きな振動に白竜の攻撃力を足でひしひしと感じながらジェーノはなんとか突進をかわしきり、横目に確認すると二人がさっきまでいた木は白竜の突進により根からなぎ倒されていた。

 そしてそんな二人をめがけて飛んでくるのは白騎士。


「ほんとこのコンビネーションきっついな!」


 自分に対して真っ直ぐに走ってくる白騎士に対して、ジェーノも同じく真っ正面に向かっていく。


「ねえ!抱えられてる私が言うのも何だけど、両腕塞がってるのに大丈夫!?」


 先ほど自分を追いつめた相手に対して、武器の代わりに自分を抱えて向かっていくジェーノにエーティスは問う。


「じゃあ抱えられついでに白騎士についていくつかレクチャーするから聞いてくれ!」


 不安げに腕の中から見上げてくるエーティスに、ジェーノは言う。


「まず白騎士は極端なほど受け手のとしての性質が高い。安易な攻撃と武器を使ったカウンター程度じゃ通じないことが多い」


 その言葉にエーティスは先ほどの戦闘を思い出す。


「まぁ逆に余程の隙を見せるか、こちらからアクションを起こす。もしくはドラゴンから攻撃を仕掛けてこない限りはほとんど自分から攻撃をすることはないんだけど」


 そうジェーノが説明している間に両者の距離は詰まる。


「で、そんな白騎士だけど、分かりやすい弱点が一つ」


 白騎士は剣を握り直し、交錯の瞬間に備える。


「本当に大丈夫!?」


 目の前に迫る瞬間にエーティスは弱音をこぼすが、ジェーノは速度を上げる。


「大丈夫だ!」


 笑顔で自信満々に言い切るジェーノに今のところ何の説得材料も無い。しかしお互いの影が重なる瞬間、不思議とエーティスの中に不安は無かった。


「くぐるぞ!エーティスはアイツの足に決めてくれ!」


「え!?りょ、了解!」


 ジェーノからの急な注文だったが、エーティスはなんとか対応する。


「はぁ!」


 白騎士の横一文字の切り払いに対し、ジェーノはエーティスを抱えたままスライディング。

 白刃は二人の頭上スレスレを通り過ぎ、空を切る。


「えい!」


 その瞬間、エーティスはジェーノの腕の中で器用に白騎士へと足払いを放った。


「!」


 足払いは見事命中し、白騎士は大きくつんのめる。


 くぐり抜けたジェーノは足を地面に突き立てるようにしてスライディングの速度を自身の起きあがる力に変え、そのまま立ち上がり、反転。

 そして前のめりに倒れそうになっている白騎士の背中へ走り出す。


「「うおおおおおおおお!!」」


 白騎士は剣を地面へと突き立ててなんとか体制を保ち、振り返る。

 しかし振り返った白騎士の視界は、二人分の重さが乗ったジェーノの靴裏で埋まる。


 ドゴオオオオオオ!


 思ったより大きな音と土煙を上げて、白騎士が吹っ飛んでいく。


「ふぅー!綺麗に入ったなぁ」


 あまりにも全力すぎて二人は受け身も取れず共に地面に転がったが、その表情は晴れやかだった。


「ほんとね!すっごいスッキリした!」


 ジェーノの隣で土だらけになっているエーティスも笑顔を浮かべ、興奮気味。


「あんだけデタラメな攻撃だと白騎士は攻撃だと判断しづらくて、対応が遅れる」


「それが白騎士の弱点?」


「ああ。だからあんだけ無様にぶっ飛んだ」


 指差した先で白騎士は土まみれになりながらも、ガチャガチャと金属音を鳴らして立ち上がろうとしていた。

 

「うん、ぶっ飛んだね」


「……さて、そろそろやるか」


 ジェーノは立ち上がってジャケットについた砂を右手で払うと、隣に座るエーティスに左手を伸ばす。

 

「……もう怖くないだろ?」


「……うん!」


 エーティスは力強く頷き、手を取って立ち上がる。


「ここから――」


 立ち上がった白騎士に真っ直ぐ剣を向けてエーティスは宣言する。


「私の反撃開始!」


「おうともさ!」


 エーティスの剣とジェーノの拳がまっすぐに白騎士と白竜を捉える。


剣豪じゃないからお姫様を上に投げて戦えません。

白騎士たちとの戦闘が終了した辺りで投稿ペース落ちるかもしれません。

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