20話:先輩2人と新人2人
「ふぃー……」
休日の日課にしている朝のランニングでかいた汗をシャワーで洗い落とし、適当に髪を拭いて楽な格好に着替えるとPCデスクの前に座る。
電源を点けてPCが立ち上げ作業をしている間にデスク脇にある冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターを飲もうと思ったが、蓋を開けている間にPCは準備を完了させていた。
「やっぱり昔と比べて早くなったなぁ」
持ち主に水を飲む暇すら与えてくれないとは、機械も仕事熱心になったもんだ。
ボトルの半分ぐらいまで水を飲んでからソフトを起動してヘッドギアを被る。
「さて、じゃあ今日もあっちの世界で頑張りますかね」
意識が現実から仮想へとシフトし、<マリッジ・エッジ>へと接続される。
「さて、と」
こっちの世界へとログインすると、アルファティナの城門が視界に映る。
各エリアごとにログイン時のリスタート場所は決まっていて、アルファティナでログアウトした場合はマイハウスでも持っていない限りはこの場所からだ。
「あちらさんは来てるかな?」
メニューを開いてフレンドリストを確認するとユーザー2人のログインを確認出来たが、肝心の相棒の名前が無かった。
まだこっちに来てないんだろうか。
……いや、違った。
そういえばエーティスとはパートナーにはなったけど、フレンドになっていないんだった。
メニューを切り替えて<パートナー情報>を表示すると、しっかり相棒のログインも確認。
「磨墨酒場で待ってますっと」
エーティスに集合場所を送って、移動を開始。
街の中央であること、そしてイベントエリアへの入り口があることもあってなのか、赤煉瓦の敷かれた<1番街>の道は常に一定の人通りがある。まぁ、もちろんそのほとんどがカップルなんだけれども。
じわじわと名前も知らないピンク色のオーラを当てられつつも、各生産ギルドの様子をざっと確認しながら歩いて行き、北西部にある木造アーチに到着する。
「今の2番街はどんなカンジかね」
アーチには<アルファティナ2番街通り>の文字。
そのアーチを1歩くぐると、足元の色が赤から大きな石畳の灰色へ。
広がる景色も石造りで高い建物の多かった1番街から比べると、幾分低くて簡素な石造りに変わり、木造建築の割合も増える。
そして他に大きな特徴といえば、他の通りと比べて『特徴がない』ことが特徴と呼べるだろうか。
この前のリムとエボニーの居た7番街は『商店の多さ』が特色だが、この2番街はその時々で店の種類もかなり変わっていく。そのせいで2番街といえば目まぐるしく店が建ち替わる。というのが大体のユーザーの認識だろう。
おかげで変化が楽しめて暇潰しには持ってこいだけど。
そんな2番街通りで変わらずに残っているからこそなんだろうか。
特等酒場の一角を担う<磨墨酒場>は通りの中でいつも存在感を感じさせていた。
荒々しく毛筆で描かれた店名と、趣のある馬のキャラクターが目に付く看板を掲げた日本の大衆酒場然とした木製の外観。
サービス開始初期から2番街の景色を担っているその店の小さな瓦屋根の門をくぐると、今度は店の入り口の暖簾でも達筆で『磨墨酒場』の文字が出迎える。
個人的にはこの暖簾と横開きの扉がこの中世デザイン主体の世界の中で『日本の酒場』を1番に象徴しているように感じていた。
その扉をスライドさせて中へ入ると、狭い通路に座敷と卓とが人口密度を醸し出す。
視線だけで店内を見回しているとすぐに店員が近づいてくる。
「いらっしゃいませー!おひとり様ですか?」
「いや、待ち合わせをーっと。いたいた」
遠くから手を振る見知った顔に手を振り返すと、店員に軽く断ってからそのテーブル席へ向かう。
「久しぶりだね」
儚さを感じるほど白い肌に、紺色の長い髪。
そして控え目にレースが施されたエメラルドブルーのつば広の帽子とロングドレスに身を包んだ女性キャラが、深く落ち着いた声で再会を喜んでくれる。
「本当に凍結されたなかったんだな、ジェーノ」
その向かいに座っている赤い短髪の男はジョッキを持った手を上げる。
「久しぶり、ルミエラ。相変わらず彼氏さんは口が減らないようで」
「お前も大概だろっての」
待ち合わせていた2人組はルミエラとテディオス。
この世界で数少ない戦闘メイン勢で、俺が初めて会った時からすでにペアを組んでいた2人だった。
何度か一緒にパーティを組んで冒険をした関係で仲良くしている。
「うふふ。それがテディオスらしさよ」
「照れるなぁ」
「照れんな」
このそこそこのラブラブカップルはこのゲームを始めるなり、すぐに意気投合してカップルになったらしい。
一応このゲームにおいて2人のゴールは海外挙式の割引サービスまでポイントを貯めることで、今はそれを目指して愛とポイントを育み中だとか。
まぁそれもあるだろうけど、ゴールするまでの歩幅合わせの一面もあるのだろう。
色んな媒体で結婚への踏ん切りは大変だと聞くし。
「とりあえず座りなさいな」
「じゃあ失礼して」
壁際の席に座るルミエラのはす向かい、テディオスの隣に座ると即座にジョッキが生成される。
「改めて、凍結回避おめでとうジェーノ」
「よかったな。まだこのゲームを続けられて」
「ありがとさん。またこうやって会えて嬉しいよ」
この2人から祝われると、また改めて凍結を回避した実感がしみじみと湧いてくる。
「んで、今日は珍しくお前からダンジョンのお誘いだったよな?」
「ああ」
メニューからマップを開き、その枠部分をタップしてから机の上を2回タップするとマップ画面が机に投影される。
「昨日のうちに永久凍結をとりあえず回避したってことで仲のいい人たちに挨拶回りをしたんだが、その時にコーティから新ダンジョン発見の情報を貰ったんだ」
テディオス達のところにも行こうと思ったが、時間が合わなかったからメッセージだけ飛ばしておいた。
「コーティっていうと……情報屋か」
「魔法裁縫師もしくは魔縫師。本人は「情報屋」って呼ばれるの嫌がってるんだ」
「もう忘れたのかい?そのせいで前にあの子から情報を教えてもらえなかったのに」
「あの時は悪かったよ。けど大体みんな情報屋って呼んでるぜ?」
一部の魔法スキルと裁縫スキルを取得することで開放される隠しスキル<魔法裁縫>。
そのスキルを用いてクロース装備や軽装装備に特殊な強化や装飾を施すのが魔法裁縫師で、その中でも評判がいいのがコーティという女性ユーザーだった。
彼女が<情報屋>と呼ばれるようになるのには色々な理由が――。
「あ、いたいた。ジェーノ!」
店の入り口の方から聞こえた声に振り返ると、エーティスが来ていた。
「お、エーティスも来たか。おっす」
「おっす」
相棒と挨拶を交わすと、駆け寄ってきた相棒の隣に立ってテディオス達に紹介をする。
「一緒に永久凍結を回避してくれた相棒のエーティスだ」
「あ、どうも初めまして。エーティスです」
集合場所を伝えるついでに2人がいることを伝えていたおかげか、そつなく挨拶をするエーティス。
「初めまして、私はルミエラ。こっちにいる男、テディオスのパートナー兼恋人兼婚約者をやっているの」
ルミエラが補足の多い自己紹介をする。俺達に見せつけているんだろうか。
「次はオレだよな。ルミエラの紹介の通り、テディオスだ。ルミエラとは現実でもこっちでも仲良くラブラブさせてもらってる」
この2人は俺達のような駆け出し恋愛弱者にマウントをとってどうしようというのか。
まぁ、そうやってからかってくれる程度には俺達の凍結回避を祝ってくれているんだろうけど。
そうして、それぞれの自己紹介が終わるとルミエラが「エーティスちゃんはここ」と言って、相棒を自身の隣に座らせる。
「さーて、じゃあ全員揃ったってことでー」
とテディオス。
「ジェーノとエーティスへの質問タイ――」
「じゃなくて、ダンジョン攻略に向けての作戦会議な」
カップルで脱線しようとした流れをバッサリと切り捨てる。
「えー。何のために現地集合にしないでエーティスちゃんをここに呼んだと思ってるの?」
「会議を円滑にするためだよ」
そう言うとルミエラは「ぶーぶー」と分かりやすいブーイング。
艶やかなイメージのルミエラがやるとギャップがあって面白い。
「休日とはいえ時間は無限じゃないんだ。ただでさえ情報のほとんどない新ダンジョンなんだから余裕持っていかないと」
「おいおい、いくら元フカイ組とはいえお前はそんなに効率厨じゃなかっただろ?」
ぱっぱと会議を再開しようとした俺にテディオスが待ったをかける。
「そりゃあどっちかといえば俺はエンジョイ勢だけど」
「「だけど?」」
……はぁ。
「分かったよ。はい、2人ともこっち来てー。あ、エーティスはちょっと待っててくれ」
「え?う、うん」
人見知りを発動していたらしく、静かにしていたエーティスを残して入口近くの店内隅に移動。
そこで突発的に小会議を始める。
「はい、突然ですがわたくしジェーノのイメージと言えば?」
「フカイ組の長で」
うんうん。
「ボッチで」
「ソロな」
そこは即座に否定。
「んー、色恋には免疫なさそう?」
「はい、それ!」
ズビシッと正解者を指さす。
「だから今までも避けてきて、それが原因で永久凍結されそうになったわけなんだが……諦めてたとこで俺と同じような考えのエーティスに会えたんだ」
「お前と同じって……そんな女の子いるもんなんだなぁ」
「それには俺もエーティスも驚いてる」
本当に奇跡的な条件下で出会えたと思う。
「ジェーノと同じっていうことは、もしかしてエーティスちゃんも……?」
「ああ。永久凍結になりそうになってたんだ」
「すごく運命的じゃない。会うべくして会ったみたいな」
うっ……そういう言葉はモヤモヤする……。
でも、だからこそ……。
「そんなカンジで、はっきり言ってエーティス以外にパートナーは今後見つからないと思うし、探す気もない。だからあんましそっち方面の話をして気まずい空気になりたくないんだ」
俺がそう言うとテディオスとルミエラはお互いに目を合わせてから「りょーかい」「なるべく早く慣れてね」と言って肩を竦める。
「ま、それなら気長に待たせてもらおうかな」
「しないわけじゃないんだな……」
まぁ、今はこれでいいか。
とりあえずの承諾を得ると、またゾロゾロと席へ戻る。
「あれ?」
戻った席にはエーティスの姿がなかった。
「あれエーティスちゃんは?」
後ろからついてきていたルミエラも首を傾げる。
「何だ置いて行かれたのか?もう破局の危機――」
「せい!」
「はあ!」
「おうふっ!」
俺とルミエラの拳に前後から挟まれたテディオスが崩れ落ちる。
「俺達じゃなくてお前の危機だったな」
「うう、ジョークだよ……ジョーク……」
「あれ、どうしてテディオスさんが倒れてるの?」
倒れているテディオスから目線を上げると、そこには件のエーティスが居た。
「どこに行ってたんだ?」
「ごめん。まだ皆が戻ってこないと思ってリムとエボニーのところに行ってたんだ」
「マジか、いくら隣の通りとはいえこんな短時間でよく行って帰ってこれたな」
ていうか入口のすぐ隣で会議してたのに、一体いつの間に。
「いや、普通にワープ石だろ」
割と早めに復活したテディオスの言葉に呆気にとられる。
「……そうか。俺ももう貰えるようになったのか」
完全に失念していた。
そうか俺もパートナーの優遇を貰えるのか……。
「おいおい、本人が一番自覚してなかったんじゃないのか?」
「うるせー。こっちはまだパートナー出来てから丸1日経ってないんだぞ」
「ところでエーティスちゃんはなんで鍛冶屋さんに?」
勿論というか、カップル揃って戦闘メインだけあってルミエラも7番街の鍛冶屋を知っていた。
「ふふ。今すぐ自慢したいところですけど、せっかくダンジョンに行くんでそこでお披露目ってことで」
「分かった。期待しておくね。……なんだか私、待たされてばっかりだなぁ」
そんなことを言いながら俺とエーティスを見てくる。
いや、エーティスのはすぐ来るだろ。
俺の免疫はいつになるか俺にも分からないが。
「ある意味、ルミエラを待たせてるのはコイツな気もするけど」
「それはまぁ、確かにそうかも」
「おいおい、それは……」
完全に矛先を向けられたテディオスはたじろぐ。
「さ、さーて会議だ会議ー!」
意気揚々と準備を始めるテディオスだった。
とてつもなく更新遅れました。
その割に話に動きがあんまりありません。
次はダンジョン書けそうです。




