19話:1日の終わりと、日々の始まり
「じゃあ改めまして――」
『リム&エボニーにようこそー!』
仕事が一段落したということで、炉に点いていた火を落としてくれた鍛冶屋の少女2人が改めて自己紹介をしてくれる。
ちなみにジェーノは隣で「あー」とか言いながら、鞘越しに<フリーズ・ソード>が付与された私のスペア剣で涼み中。
「初めまして。エーティスです」
「よろしく、エーティスさんっ。私が姉のリムで」
「よろしく、エーティスさん。ボクが妹のエボニーです」
私の左右の手をそれぞれ両手で握ってくれるリムとエボニー。
ピンッとしたウサミミのリムは握っている左手を上下にブンブンと振ってきて、垂れウサミミのエボニーは右手を控え目に握ってくれる。
率直に2人とも可愛い。
オンラインゲームにおいて『見た目での可愛い』はそんなに信用できないけど、『見た目』だけに『表面上の付き合い』なら何の問題もなく可愛いと思える。
「で、本日は何用でー?」
「強化?結晶変質?それとも装飾ですか?」
私の手を離した2人は両手に仕事道具を持って注文を訊いてくる。
リムの手にはハンマーと火ばさみ。エボニーの手にはペンチとヤスリが握られていた。
それぞれ2人の仕事道具なんだろうか。
「とりあえず最初に武器制作の依頼だね。これを武器にしてほしいんだけど」
「どれでしょ?」
リムが広げた両手の上にインベントリから取り出した素材アイテムを乗せる。
受け取ったリムがそのアイテムをまじまじと見つめているとエボニーも近づいてきて、一緒に確認し始める。
「もしかしてこれって……白騎士の剣?」
「ボクにもそう見える……」
私の長かった今日という1日。その最初の戦利品、<白騎士の剣>。
「うん。それを使って剣を作ってほしいんだけど」
アイテム名に<剣>とは付いているけど、分類は素材アイテム。
だからまず鍛冶屋で武器にしてもらおうと思ったんだけど……。
「い、いいんですかい……?」
その鍛冶屋さんは変な言葉遣いになっていた。いや、鍛冶屋らしいといえばらしい喋り方の気もするけど。
「出来るんならお願いしたいんだけど」
「出来ます!」
食いぎみで反応したリムはビシッと敬礼付きで返事をする。
「よし、じゃあ考えるからちょっと待っててね」
隣で私の剣を抱き締めている相棒をむんずとひっ掴むと、リムから離れた位置へと誘導。
「わざわざ連れてきたってことは、ここは信頼出来るんだよね?」
「あー……」
小声で語りかけたけど、ゾンビほどの言葉しか返ってこない。
「もしもーし?」
「あー……」
……ガシッ。
「<フレイム・ソード>」
「あ”あ”あ”っつ!あっつい!死ぬ、死ぬわ!」
抱えてた剣に炎を付与するとジェーノは剣を放り出して地面を転がる。
「ごめん。『あー……』しか言わないからゾンビと間違えちゃった」
「自分の相棒とゾンビを見間違うかね普通……!」
「相棒の言葉を無視するかな普通」
ジェーノはしばらくゴロゴロと転がりながら消火活動をした後、石の床が一番冷たかったのか、うつ伏せのまま答える。
「信頼できるよ。ここは安くはないけど腕は確か。それだけなら他にも候補はあるけど、細かいデザインのセンスがいい」
「センス……どういうデザイン?」
「俺の使ってるこのグローブみたいに、リアル志向じゃなくてゲームゲームしてるやつが好みならここ一択」
そう言うとジェーノは腰に下げているグローブを「ほい」と投げ渡してくる。
鍵ネズミの部屋で体が入れ替わった時にも見ていたけど、あらためて相棒の武器を確認。
インナー部分は指出しタイプで黒色の薄い素材。手の甲から第2関節までを覆う装甲は白で、装甲の中心にはシルバーで細かい意匠が施してあった。
「うん、やっぱりゲームをプレイしてるんだから、こういうデザインを装備してこそだよね」
「流石相棒、分かってるな」
「じゃ、ジェーノと2人を信じて任せようかな」
そう決心してリムとエボニーの方を振り返ると、2人とも耳に手を当てて聞き耳を立てていた。
ちなみに当然というか、2人ともウサミミの方じゃなくて普通の耳の方に手を当てている。
「「あっ」」
私と目が合った2人は急に口笛を吹いたり、垂れ耳の手入れを始めたりして素知らぬフリをする。
「……ふふ。聞こえたかもしれないけど、武器の製作、お願いするね」
「……承りましたー!」
大きく頭を下げたリムは仕事場へと走り出す。
「あ、お代は15万Eですけど、大丈夫ですか?」
その場に残ったエボニーと商談。15万くらいなら安くはないけど全然払える額だった。
「うん。それくらいなら全然……ん?」
「どうした?15万くらいなら白騎士どもを倒した金で足りるだろ?」
「いや……エッジって……何?」
私の質問にジェーノが首を傾げる。
「何って、金だろ。Eって書いてエッジ。確かに普段はわざわざ呼ばないしクセで円って言っちゃうけど」
「知らなかった…。ずっとEでENだと思ってた……」
1年近くこのゲームをやっていたのに、ここにきて新事実が発覚した瞬間だった。
「……あー。ちなみに円だとしたらENじゃなくて、YENだけどな」
「……」
「……」
黙ってメニューを開くとそこからゲーム終了画面を表示し、ログアウトを選択。
「待て待て待て待て!」
<本当に終了しますか?>のシステムメッセージの『はい』を押そうとした私の腕をジェーノが掴む。
「離して!死ぬほど恥ずかしいから落ちる!私は!」
「誰にでもド忘れすることはあるから!気にするなって!」
「分かってくれてありがとう!でももう今日は落ちるうううううう!」
1年以上の間、2重に勘違いしていた事実が恥ずかしすぎて耐えられそうになかった。
いや円がYなのは知ってたよ!ただ意識しないで何となくEと勘違いしてただけで!
「落ちるなって!まだ補正結晶の方を頼んでないだろうが!」
「補正結晶……?」
そのまま相棒と攻防を繰り広げていると、エボニーが補正結晶という単語に反応する。
なんとなく嫌な予感を感じていると、エボニーの反応に対して相棒が悪い顔をしていることに気づく。
「エボニー!エーティスが補正結晶使った武器の変質頼むってさ!」
「本当ですか?」
「ええい!勝手に決め……うっ」
「……補正……結晶」
訂正しようとエボニーの方を見ると、その目はキラキラと輝いていた。
……なんて可愛い顔で見てくるんだ……。
「……はぁ、分かった。ジェーノ、もう手離して。落ち着いたから」
「とか言って離した瞬間にログアウトとかしないよな?」
「しないよ。というかよくよく考えたら……この状態の方が恥ずかしい」
いつの間にか相棒との距離がかなりとんでもないことになっていた。
「……すまん」
相棒も私との距離感に気づくと、素早く私の手を放して距離を取る。
「えほんっ……ってことで補正結晶も含めて武器の強化、お願いできるかな?」
「モチロンですっ」
両手を胸の前で握りしめて力強く答えてくれたエボニー。
「じゃあ補正結晶の方も頼むね。あと作ってもらう武器の性能について色々相談したいんだけど」
「そちらもモチロンですっ。どうぞ、こっちにっ……」
エボニーに連れられてカウンターの奥にある仕事場へと向かうと、リムが炉に火を点けて準備を始めていた。
「ジェーノ、ごめん。そういうことでこのまま2人と相談して今日はもうログアウトするね」
「あいよー。俺も最後にちょっと用事終わらせたら今日はもう落ちる。エーティスは次いつログインする?」
「今日は木曜だから……明後日のお昼ぐらいから居ると思う」
「了解。じゃあ明後日の昼にどっかダンジョン潜りに行こう」
肩を回しながらジェーノが笑顔を浮かべる。
「こっちも了解。あ、ジェーノ!」
そういえば一番大事なことを忘れてた。
「ん?」
「今日は本当にありがとう!これからよろしく!」
「ああ、こっちもありがとうな!」
こうして私の長い1日が終わって。
楽しい日々が始まりそうだった。
次回でまた話に動きがあると思います。




