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18話:7番街の鍛冶屋

 <中央街アルファティナ>

 その街はサービスを開始して1周年を迎えたばかりのこの世界で、文字通り中心に存在している。


 ゲーム世界ならではの中世の印象を強く与えてくる石造りの<アルファティナ城>が中央に建ち、その周囲には各生産職のギルド本部が並ぶ。

 そうやって形成されている街の中央が<アルファティナ1番街>。

 その1番街を中心にして2時方向に2番街。そのまま時計回りに円を描いて7番街までがこのアルファティナの街だった。


「終わったぁ……」


 その1番街のアルファティナ城門脇にある豪奢なアーチからジェーノ、遅れてエーティスが姿を現す。


「まさかあの部屋でラストだったなんてね」


 車折に送り出された2人がドアをくぐると、そこにはエリア脱出用のアーチ。

 先を急いでいた2人だったが、<婚パチ☆ジョイント>は合計3部屋の挑戦から構成されていて、ビート君の部屋が最後だった。


「結局あの部屋で終わりだったのか。いやぁ先が見えないから焦った焦った」


「ふふ。でもなんとか間に合ったね」


 エーティスがメニューを開くと、そこには<婚活ポイント:95P>の表示。


「ああ」


 ジェーノもメニューを開き、そのまま指を滑らせてデイリークエストの画面を開く。


 そして2人は同時に『パートナーとダンジョン、もしくはイベントエリアをクリアする』の<完了>に指で触れる。

 クエストが完了されると報酬である多少のお金と経験値が表示されるが、2人はその数字には目もくれずに次に来るはずの大事な数字を待つ。

 そしてついに2つの数字に続き、求めていた婚活ポイント+5の文字が表示されると、それを確認した2人は顔を見合わせる。


「これで凍結は回避できたんだよな……?」


「そのはずだけど……」


 確認のためにジェーノがメニューを最初の画面に戻すと、婚活ポイントの欄には『100P』の表示。


「うん。しっかり100になったね」


「なってるな」


 そう言ったものの、それによって何かが変わったわけでもないため2人は素直に喜べずにいた。


「もし凍結されるとしたらあと20分くらいだけど、もしかしてその時が来るまでこのもどかしさを味わってなきゃいけないのか?」


「うっ。それはちょっとキツいかもね……」


 苦い顔を浮かべているジェーノとエーティスだったが、そんな2人の元に急に<メール>が届く。

 そのタイミングから同じことを推察した2人はすぐにそのメールを開いて内容を確認する。


「えー、ジェーノ様へ。以前よりお知らせいたしておりました<アカウント凍結>につきまして。ジェーノ様の凍結回避措置の規定とさせて頂いていた、『月内でリセットされる婚活ポイントを100ポイントまで集める』という目標ですが、本日19時33分に達成を確認しました。そのためこのメールの送付をもってジェーノ様の凍結が回避されたことをご報告させて頂きます……」


 お互いにメールの文章を読み上げた2人は、静かにそのメールを閉じて――。


「おっしゃあああああああああああああ!」

「やったああああああああああああああ!」


 人の往来を気にもせず両手を上げて全力で喜びを表現していた。

 2人は上げた両手をそのままパチンと合わせて『へーい!』という掛け声とともにハイタッチをする。


「あー、ほんとよかった!」


「ふふっ。最初は凍結でもいいかなーなんて思ってたけど、やっぱりいざ回避するとすごく嬉しいね!」


 喜びのあまりじっとして居られない2人は思い思いのアクションでひとしきり嬉しさを表現するが、暫くすると周りの通行人の視線に気づいて大人しくなる。


「……んんっんー」

「……ごほん」


 わざとらしく咳払いをした2人は動きを止めたついでにそのままお互いの距離も開け始める。

 さっきまでのイベントエリア内ではお互いを「相棒」と呼び合ってかなり近い距離で息を合わせていた2人だったが、周りの視線によって戦闘から日常に意識が引き戻されるなり、すぐさまお互いに体の中のフカイのムシが騒いだようだった。


「あー、エーティスってまだ時間ある?」


「うん。おかげさまであと20分だったのが、今日ところはあと1時間にまで伸びたね」


「そいつはよかった。じゃあ忘れないうちに使いに行くか。()()()を」


 それでも出会った当初よりは随分と進歩したらしく、冗談交じりの言葉を交わすとジェーノはエーティスを連れて北西の道、<7番街通り>へと向かう。




 


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【tips:ロケーション】


『アルファティナ7番街』

 中央の1番街から北西10時方向へと伸びる<7番街通り>周辺の地域が<7番街>です。

 木造建築による建物が多く、そのほとんどが低い造りとなっています。

 元からNPCによる商店が比較的に多く並ぶ場所でしたが、現在はユーザー達も多くの店を構える『商店街』とも呼べるロケーションとなっています。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――






「本当にこんなところにいるの?」

 

「いるんだよ、こんなところにな」


 さっきまでいた1番街から歩いて10分。活気と人と物とで溢れかえった7番街通りを進んで更に10分。私はジェーノの先導で街の外側寄りの裏路地へと来ていた。

 ここまでくるとさっきの大通りを埋め尽くしていた人通りは殆どなく、床に布を敷いてその上に商品を並べた露店とそれを見るわずかなお客さんしか居ない。


「ほら、着いた」


「本当だ……」


 そんな薄暗い路地を進んだ先にその小さな看板はあった。


 <鍛冶屋『リム&エボニー』>


 大きめの建物と建物の間にある隙間。そのスペースに不揃いの木材で掘っ建てられたような小屋が建っており、その看板はそんな小屋の前に置かれていた。


「本当にこんなところに居るんだね、鍛冶屋……本当に鍛冶屋?」


 一瞬だけ私の中で納得しかけた違和感だったが、やっぱり飲み込めずに思わず口から出てしまう。


「本当に鍛冶屋。そこ(看板)に書いてあるし」


「いやだって、鍛冶屋って小さいながらも通り沿いに自分のお店を持つか、鍛冶屋ギルドから個人に斡旋されるのが普通じゃないの?」


 登録料を払う代わりに信頼と実績を得る機会が増えるギルド斡旋。そしてそこで得た信頼と実績で自分のお店を持って経営していくのが鍛冶屋の『普通』だということぐらいは私でも知っていた。


「ああ、それが普通だけど、別に『普通』が『絶対』じゃなくたっていいだろ?」


「そう言われると……何も言えないけど」


 違和感はあったけれど、別に文句があったわけじゃないから「そういうもの」だと言われたら私は素直に受け入れるしかない。


「とりあえず入るか。普通じゃないのは外観だけじゃないし」


「え?」


 せっかく今の状況を受け入れたところで新しく気になることを言われた気がしたけれど、とりあえずジェーノに続いて小屋の入り口をくぐる。


「「熱っ」」


 入り口と思われる隙間にかかっていた布をくぐって店内に入ると、そこには肌で質量を感じるんじゃないというほどの熱気が立ち込めていた。


「鍛冶屋ってこんなに暑いものだった?」

 

「いや、確かに久々だから俺もキッツイけど、ここは仕事してるとこうなるんだよ」


 そう言うジェーノの顔にもすぐに汗がにじんできていた。

 多分、私の顔も同じようなことになっている、ということは確認しなくてもなんとなく分かってしまう。


 そんな茹だる様な暑さの中でも一際に熱を発している場所を感じ、そこに目を向けるとそこには大きな炉。


「ここに炉があるって……どういうこと」


「鍛冶屋……だからかな」


 ジェーノがもっともなことを言うけれど、私が言いたいのはそんなことじゃない。

 なんで目の前のカウンターを越えたその先、店舗の中に直で鍛冶に使う炉があるのかということだった。


「普通はワンルームで鍛冶屋なんてしないでしょ……」


「まぁ、……『普通』じゃないからな」


 7番街の、それも裏路地にある時点でなんとなく分かってはいたけれど、こんなに分かりやすく『普通じゃない』光景を見るなんて……。


 何とも言えないやるせなさとあまりの熱に頭が茹だりそうになったその時、炉が煌々と光る音の中からその声は聞こえてきた。


「あれ、お客さんだ。いらっしゃい鍛冶屋『リム&エボニー』へようこそ!ってあれ、フカイ組の長じゃん」


「いらっしゃいませ……。あ、本当」


 活発で元気そうな女の子と、落ち着いている女の子の2人がカウンターの向こう側から姿を現す。

 揃って小柄な見た目の2人はチューブトップに煤けたグレーの作業ズボン。

 そして頭の上には謎のウサミミ。


 そんな2人を見た瞬間、私の意識はさらに遠のいていった。

本当はもう少し区切りの良いところまで書きたかったのですが、投稿ペースの関係でこの位置で一旦切らせてもらいました。

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