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17話:婚パチ☆ジョイントの終わり

「終わった……」


 激闘の跡が残る床の上で私は仰向けに倒れていた。

 ビート君だったモノにトドメの一撃をお見舞いし、無事に勝利。

 けど相手の消失エフェクトのままに地面へと落とされた私はしばらくそのままでいた。


「ああ、終わったな」


 顔を傾けて隣を見るが、声の主は見えない。

 まぁ、すぐ隣に出来た小規模クレーターの中央で寝ているはずだし、当然といえば当然。


「助かったよ、相棒」


「気にしないでよ、相棒」


 疲労感と達成感にまかせて横になっていると、目の前の空間にきらきらとした光のエフェクトが発生する。


「ん……」


 心なしか重く感じる両手を上げてそのエフェクトから現れるものを待ち構える。


 ポスン。


 軽い音を立てて私の手の中に小さな赤い箱が落ちて来る。ついさっき見たそれは純白コンビを倒した際に出てきたものと同じ、宝箱だった。


「いてっ」


 ゴスン。という音とともにジェーノの声が聞こえた。どうやらエフェクトに気づかないで顔面に宝箱が直撃したらしい。


「よっこいしょ」


 足を使った反動で上半身を起こすと、さっそく中身を確認する。


「第1のプレゼントは何だろう?」


 留め具を外して宝箱を開くと、中には少しだけ白く霞んだ綺麗なエメラルドカットの宝石のようなものが入っていた。


「結構重い」


 白い霞み以外は無色透明。手に取ってみると意外と大きく、ポケットティッシュよりやや小さい位の大きさだった。

 仰向けついでに持った石を部屋の照明に翳して輝きを楽しんでいると、クレーターの方からジェーノの足音が聞こえてくる。


「中身、なんだった?」


 所々擦り切れた格好でクレーターから出てきた私の相棒。ダメージのせいか足取りがダルそうだった。


「私のはこれだったけど」


 透かしていた宝石(と思われる石)をジェーノに見せる。


「これは……」


 ジェーノはそれをしげしげと見つめると感嘆を含んだ息を漏らす。


「……車折さん、随分と太っ腹だなぁ」


「これ、すごいアイテムなの?」


 今までこのゲームをプレイしてきたけど、こんなアイテムは見たことが無かった。


「まぁ、価値は選ぶアイテムだけどレアリティで言えば……9だ」


 そこまで言うと口に生命ポーションを咥えて自分の宝箱を開けるジェーノ。

 そういえばまだ回復してなかったんだっけ。


 でもそっか、この石がレアリティ9か……。

 改めて光に掲げてその見た目を確認する。


 ……ん?


「……9?」


ひゅう()はっははふ(だったはず)


 口に瓶を咥えたままのジェーノの宝箱からも同じレアリティ9の石が出てくる。


「私……レアリティ9のアイテムなんて初めて手に入れたんだけど……」


 あまりの驚きに即座に石を持っていた手を降ろして、両手で抱えてしまった。


「っぷはぁ。これは<補正結晶>って言って、武器の能力補正を強化出来る」


 回復したジェーノが私の隣に座るとメニューから装備性能を開き、能力補正の欄を指さす。


「俺のこのハンマー、今は<筋力>の威力補正値が『B』で<意志>も『B』になってるけど、本来なら<意志>は『C』なんだよ」


「へぇー。つまりこの<補正結晶>っていうのを使って<意志>による補正を『B』にしたってことね」


「ご名答」


 <意志>が上がりやすい拳スキルを取得しつつハンマーを使うのなら、この武器がジェーノに適しているのは間違いない。そしてさらに<意志>の補正がCからBになるとしたら、それはとても強力。

 それが<補正結晶>の力……。レアリティ9は伊達じゃない。


「すごいアイテムだね」


 私の持ってる武器達に使ったところを思い浮かべただけで夢が広がる。


「まぁ、その分だけ入手方法が大変でさ。今のところ最初の村から始まるバカみたいに長いお使いクエストをクリアした時にもらえる1つしか確認されてない」


 あ、私そのクエスト終わらせてない。


「だから市場での価値も常に超高額。それも()()()()()()()()()だからその値段ってだけで、本当に戦闘と冒険がメインのゲームだったら価格はこんなもんじゃないだろうな」


「確かに。性能より見た目の方が価格に大きく響く世界だからね。……ところで超高額ってどれくらい?」


 興味半分、怖いもの見たさ半分で訊いた私の言葉に、ジェーノは顎先を親指と人差し指で挟んで考える。

 

「確か最後に見たときは……220万」


「にひゃっ!?」


 思わず手元の石を見つめる。

 220万って……<純白の一対>レベルのレアクエストを5回はクリアしないと駄目な額だね……。


「現状、1人につき1つみたいなもんだしなぁ。生産職の割合が高いこのゲームでも高騰するのは仕方ないとは思う」


「それで、そんなアイテムを車折さんは私達にくれたワケ……。太っ腹だね」


「そういうワケだ。くれた理由はイマイチ分からないが、有効活用させてもらおう」


『活用してもらえるのは嬉しいけど、そのままそこで凍結にならないでね?』


「「うわあああああああああ!」」


 突如、背後から聞こえてきた声に2人で飛び上がる。


 そして宙に舞う、2つの補正結晶。






――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【tips:武器】


『背教の白槌』

 武器種:大槌

 基礎攻撃力:47

 重量:37


 能力補正:<筋力:B> <技量:-> <知力:-> <意志:B> <幸運:->

 必要数値:<筋力:28> <技量:-> <知力:-> <意志:18> <幸運:->

 

 教会装飾の美しい綺麗な白き大槌。

 その見た目はどこから見ても教会に属する武器だが、その装飾はよく見れば剣や防具など違う教会装備から用いられていて、信仰神の加護を受けていない。

 そしてこの白槌を使うものは教会の騎士には居なかったという。

 けれどこの白槌、それを扱った者を異端としてはならない。

 ここまでのことを成すほど、信心深いのだから。 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 

 



「うわっとっとっとっとおおおおおおおおおおお!」

「よっとっとっとっとっとおおおおおおおおおお!」


 驚いた瞬間に空中へ投げ出してしまった補正結晶。それを捕ろうと思って手を伸ばすと、咄嗟のことで上手くキャッチ出来ずにかなりデンジャラスなジャグリングをしてしまうが、最後になんとか頭から滑り込んでキャッチに成功する。


 ――が。


「よし、セー――」

「どっせええええええい!」

「ブッ!?」


 滑り込んでうつ伏せになっていた俺の上にもう1人のジャグラーが覆いかぶさってきた。どうやらエーティスもダイビングキャッチを敢行したらしい。

 

「おい、相棒。重い」


「おい、相棒。女子に重いって言うな」


『仲いいねぇ二人とも』


 俺の上に乗っていたエーティスが「だからフカイ組なんだよ……まったく」とかぶつぶつ言いながら降りる。

 お前もフカイ組だろうに。

 ちなみに重いのは軽装とはいえ装備にはプレートがいくつか付いているからであり、残念ながらそのせいで特に女性特有の柔らかさを感じたりもしなかった。


「で、車折さんは何用ですか?」


 辺りを見回しても俺とエーティス以外に動くものは見当たらない。どうやら何かの姿を借りているわけではなく、単純に声だけを届けているらしい。


『あれ?さっきと反応が違っていないかい?』


「いや、流石にさっきのヤツを相手するのに疲れまして」


 肉体的にも精神的にも。そのせいでさっきの驚きとか敬意とかはエーティスの剣よろしく、どこかへ投げ出してきてしまったようだ。


『そうそう、君たちのおかげで実装前にビートデスの実戦データがとれたよ。ありがとう』


 ビートデス……。ああ、さっきのビート君が変身したヤツだろうか。


「いえいえ、こっちも楽しませてもらいました。こんな敵は見たことないなぁ。と思ったらテスト中で実装してなかったんですね」


「まだ誰も戦ったことのない敵だったなら、もうちょっと動きを見てもよかったかもね」


 エーティスが冗談めかしてそんなことを言う。


「タンクが居ればそれもありだったな」


 俺とエーティスは火力と速度を重視している戦闘スタイルだから長引かせるとあっという間にピンチなってしまう。だから基本的には殺られる前に殺れを地(を高速)で行く必要があり、残念ながら実装前のテストボスと聞いていても2人だけでは時間をかけて戦うということは出来なかっただろう。


『楽しんでくれたのなら何より。プレゼントした甲斐があったものだよ』


 ん?


「……プレゼント?」


『うん。もちろんデータ収集のためでもあったけど、さっきまで変化球ばっかりの戦闘だったから2人にはこういうのもいいかと思ってね』


 思わずエーティスと顔を見合わせる。


「もしかして、さっきのキツ……センセーショナルなヤツが最初のプレゼントですか?」


 エーティスが恐る恐る訊くと、車折さんは『うん』とあっさり答える。


『あれ……もしかして嬉しくなかった?』


「いえ、そういうわけじゃないんですけど。ヒリつくような戦闘も出来ましたし。けど、もう片方のプレゼントがインパクトあったというか……いや、インパクトなら同じかそれ以上だったかも……?」


「流石に補正結晶なんてレアなアイテム貰ってしまったので、もう1つのプレゼントも勝手に期待してたんですよ」


 自分で言いながら混乱し始めた相棒の代わりに説明に入る。もちろんエーティスの言いたいことも分からないでもないが。


「だからさっきのグロ……センセーショナルな敵とのバトルは豪華なプレゼントを手に入れるための試練で、最初のプレゼントとは思っていなかったんです」


『なるほど。やっぱり私が最初にしっかり言っておけばよかったね』


「いえ、さっきも言ったようにバトル自体はとても楽しかったですし、プレゼントとしても嬉しかったです」


「もちろん私も楽しかったです。デザインはゴア……センセーショナルでしたけど」


 これは俺達の素直な気持ちだった。


『うん。ところでセンセーショナルが流行ってるの?2人の中で?」


「そういえば車折さんはそれだけを言いにわざわざ来てくれたんですか?」


『ファンからの熱いスルー。君の顔を覚えちゃうくらいにはゲームイベントとかでわざわざ私に声をかけてきてたハズなんだけどなぁ。まぁいいや。私がまた出てきた用件は今のお礼と、最初に言った忠告というか、アドバイスだけだよ』


「最初に言った……」


「忠告……?」


 そういえば最初に何か大事なことを言っていたような……。


『せっかくあげた補正結晶だけど、君たちのタイムリミットは大丈夫かな?って。私はデータ制作が仕事で管理部じゃないから詳しい凍結までの時間は知らないけど、あんまり時間無いんじゃないかと心配になってね』


 ……あっ。


「「あああああああああああああああああああ!」」


 思わず2人で声を上げると視線を右上に集中して視界に時間を表示する。


「あと30分もないぞ!」


「ジェーノ、あっちにドア!」


「あいよ!じゃあ車折さん、ほんとにありがとうございました!」


 虚空に向けてお礼を言うと部屋の出口へと走る。


『うん。2人もこれから頑張ってー!』


 車折さんの激励にサムズアップで答えるとエーティスと息を合わせて扉を開き、飛び込む。


『なんだ、30分もあるなら別に気にしなくても大丈夫だったかな?もうこの部屋で終わりだし。……このイベントエリアの名前、婚パチ☆ジョイント……だっけ?センスを疑うよね」


 あんな違う意味での『モンスター』を作った人間から聞き逃せない発言が2つくらいあった気がしたが、先を急ぐ俺にその言葉は届かなかった。


婚パチ☆ジョイント編終了です。

次の話までが大きく見ればプロローグの終わりのようなものになる予定です。

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