16話:婚パチ☆ジョイント ―最後の部屋:後編―
『ウッギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
<挑発>の効果によってジェーノを(白目を剥いてはいるが)両目で捉えたビート君改め、ビートデス。
そのビートデスは標的としたジェーノとその隣にいるエーティスめがけてビビッドな右腕を振り下ろす。
「しっかし、ファンキーな歌手のPVに出てきそうな見た目だよな、ほんと!」
「こういうのって原宿kawaii系って言うんだっけ!?」
2人はそれぞれ距離を取るようにして左右へと回避。
まだ<挑発>の効果の残っているビートデスはジェーノを狙って今度は左腕を振り下ろす。
「分からん!そうなのか!?」
「いや、私も詳しくは知らないけど!」
自身を狙ってきた攻撃をジェーノがバック転で回避すると、さっきまで立っていた場所に巨大な腕が突き刺さる。
「っぶねー」
攻撃の衝撃で飛んで来た『さっきまで床だった細かい破片』をジェーノが腕で防御してやり過ごしていると、彼の目の前で地面に埋まっていた極彩色の腕が蠢く。
「!ジェーノ、危ない!」
「っ!?」
飛んできた破片と自らの腕で視界が塞がれていたジェーノはエーティスの声に咄嗟に身を固めて防御姿勢をとる。
その瞬間、彼の目の前でビートデスの腕に針のような突起物が大量に出現。そして爆ぜるかのように瞬時に膨張する。
「っぐう!」
突き出された無数のトゲの内、数本がジェーノの体へ直撃する。
ジェーノはダメージを受けると同時にその衝撃のままに転がって退避。
「大丈夫!?」
エーティスはビートデスの動きに気を付けながらジェーノの元へと走り寄る。
「いやぁ、結構なヤツもらったかも」
ジェーノがダメージを確認するために視線を左上に持っていくと普段は隠れているHPゲージが視界に表示される。
「うお、マジかよ。今ので1/5持っていかれたぞ!」
「うわぁ。それは本当にレベル10じゃなさそうだね」
苦笑を浮かべたエーティスが差し出した手を借りてジェーノが立ち上がる。
「それどころか適正、もしくはそれよりちょい上くらいの強さかもな」
虚空に手をかざしてクイックインベントリを開くと、そこからライフポーションを取り出して一息に飲み干す。
「っぷはー!クロース装備の後衛タイプなら2確、ビルドによってはワンパンで落ちるレベルの火力か……」
「レベル70ダンジョンのボスと同等くらいってところかな」
「ああ、それもパワータイプのな」
今までの経験から大まかに敵の強さを割り出すと2人は武器を構え直し、ビート君だったものを見据える。
「エーティスはこのモンスター見たことあるか?ちなみに俺はない」
巨大なハートの胴体から同じ長さの不定形な四肢が生え、色も含めて異形と言う他ないビートデス。
そんな見た目でありながら2足歩行を保っていることがその不気味さを助長していた。
「私も。ていうかこんなの居たら噂になってるんじゃない?」
ジェーノは「それもそうか」と言って笑う。
「さて、パワータイプの大型モンスターなら行動パターンを把握してから戦いたいところだが、あんまり悠長にも構えてられないし、なによりこんな見た目でパターンがあるのかも怪しいんだよな」
「さっきの腕ボーン!のこと考えるとちょっとね……」
『ウッギイイイイイイイイイイイイイイイイ!』
エーティスがそこまで言ったところで再びビートデスが左腕を振り降ろしてくる。
2人はさっきの攻撃を踏まえて充分な距離を取って回避。そして膨張によるトゲ攻撃を免れると、そのトゲが萎んでいくところを見計らってジェーノが飛び込む。
「<疾風二連脚>!」
白竜に打ったダブルバックキックではなく通常の空中二連回し蹴りをその腕に打ち込み、着地すると右の拳で<閃拳>、そして拳を引くと同時に今度は左の拳で<焼塵剛拳>。
『ギイイイイイイイイイイイイ!』
ジェーノの連続攻撃に対してビートデスはその腕で地面を削るようにして薙ぎ払い、ジェーノを狙う。
その攻撃範囲の広さに横軸での回避が無理だと判断したジェーノはその場で跳躍して攻撃を避けようとするが、その空中を狙われる。
『ウギャアアアアアアアアアアア!』
空中で無防備となっていたジェーノ目掛けてビートデスの右腕が放たれる。
「っちぃ!狙ってくるのかよ!」
無論ここまでレベルを上げてきたジェーノはジャンプによる回避の持つ危険を理解していたが、大振りな攻撃と知性の無さそうな見た目から『隙を狙った追撃』はしてこないんじゃないかと予想して上空への回避を選択してしまい、そんな戦闘経験者の動きを想定していた制作者の思惑通りにビートデスの右腕がジェーノを打ち据える。
「<不動の構え>!」
攻撃が当たる寸前、スキルによって被ダメージとノックバックを軽減したジェーノは空中で姿勢を建て直すとなんとか地面に着地する。
「おいおい、相当やらしいじゃねえの」
ビートデスに目をやると、その足元にエーティスが見える。
「今度は私の番!」
飛び出す前に発動していた<マジック・ソード>により青く光る剣でビートデスの右足へと<疾風突き>を繰り出すエーティス。
そのまま右袈裟斬り、そして同じ太刀筋を逆袈裟で斬り上げ、勢いのままに右転回からの左袈裟斬り。
事前情報のない敵が何をしてきても対応できるように、行動が限定されるオート・アクションスキルを避けて連撃を放ち続ける。
『ギイイィ!』
連撃によって<挑発>の効果が切れたビートデスは攻撃を食らっていた右足を持ち上げてエーティスを踏み潰そうとしてくるが、エーティスは後方へ飛び退いてそれを躱すと再び攻撃を仕掛ける。
「はぁ!」
右から左、左から右へ角度の浅い×の字斬りを放つと今度はそれ以上の連撃を許さずに足を持ち上げるビートデス。
再びバックステップで距離を取ろうとしたエーティスだったが、落ちてくる足の軌道を見るために顔を上げたところでその異変に気付く。
「へぇあ!?」
さっきまで柱のようだったビートデスの棒状の足先が、エーティスの頭上で何倍にも面積を広げていたのだ。
「エーティス、走れ!」
離れた場所に居たジェーノから見れば、それは人の足が小さな虫を踏み潰すようだった。
「う、嘘でしょ?」
バックステップのために正対したままだったエーティスはクルリと反転して走りだす。
「ちょ、待った待った待った待った待ったあああああああああ!」
かなりのスピードで落下してくる足裏から逃げるため、それが作る影から外へ向けて全力で走る。
「どっせええええい!」
エーティスは白騎士の時と同様、普段のキャラからかけ離れた掛け声と共に安全圏へと脱出。そしてすぐに背後から大音量で『バァン!』という接地音が響き、猛烈な風圧がエーティスを叩く。
「ふぅー。なんとかセーフみたい……?」
うつ伏せのまま風を凌いだエーティスは顔を上げて立ち上がる。
「エーティス!またトゲボーン!が来るかもしれないぞ!」
「そうだった!」
ジェーノからの助言で即座にバックステップで距離を取ったエーティスだったが、予想とは違って肥大化していた右足は段々と元のサイズに戻っていった。
「流石に巨大化からは撃ってこないみたいだね……」
腕をクロスして防御姿勢を取っていたエーティスが構えを解く。
そして自分のさっきまでしていたポーズの違和感に気づく。
「……あれ?」
普段は右手に握った剣とその剣の腹を左手で抑えることで防御していたことを思い出したエーティスは、何も握っていない両手を見下ろしたあとに腰の鞘をぱんぱんと叩く。
「……剣どこおおおおおおお!?」
「おいおいまたかよ」
エーティスは即座に自分が走ってきたルートを目で追うが、そこに剣が落ちている様子はなかった。
「あ、エーティス!あれ!」
「え?」
エーティスがジェーノの指さす先を見つめるとそこにはさっきまで自分を圧し潰そうとしていたビートレスの右足と、その足の中間部分に刺さる自分の剣があった。
「取り込まれちゃってる!?」
エーティスが走り出した際に落とした剣をビートレスの右足が踏み潰し、収縮をする際に一緒に取り込んでしまっていた。
「うう、今日はスペアの剣の出番が多いなぁ……」
インベントリを開いてそこからスペアの剣を取り出して装備する。
「走りのフォームが理想的なのはいいけど、自分の武器は投げ捨てるなよ」
「以後気を付けます……」
弱気になりつつも武器を構えなおすエーティス。
「とりあえず今までの俺たちの攻撃でコイツのHPは……1/4削れたのか」
部屋の両端まで距離を取られてどちらを狙うか迷っていたビートデスをジェーノが睨むと、ターゲットリングの上にビートデスの残り体力が表示される。
「流石にパーティじゃなくてペアでの攻略だけあって火力はあってもHPは控え目みたいだね」
「よし、こうなったら2人同時に行って速攻で削り落とすか」
ジェーノが背中に背負っていたハンマーを構える。
「そうだね、回復ポーションとスキルのクールタイム的にもそれがいいかも」
エーティスもマジックポーションを飲んでMPを回復し、剣先をビートデスに向けて正眼に置く。
「いくぜ!」
「いくよ!」
同時に両端から走り出すジェーノとエーティス。
『ウッギイイイイイイイイイイイイイイイ!』
左右から迫る敵に対して両腕を振り下ろすビートデス。
その攻撃を2人はくぐり抜け、トゲが生じる前に範囲外へと走り抜けて標的の足元へ。
そして速度を保ったままほぼ同時にビートデスの足へと辿り着いた2人は再び連続攻撃を仕掛ける。
「<残影剣>!」
エーティスの姿が残像を残して掻き消え、ビートデスの足を挟んで反対側へと再び姿を現す。その瞬間、姿無き速度で通り抜けた標的の足に深く、鮮やかな切創が開く。
そしてそこから噴出したピンクの体液が床に落ちるよりも速く、もう一度エーティスの姿が消え、新たな傷とともに<残影剣>を発動した場所へと戻る。
かなりの深手にビートデスはその足でエーティスを潰そうとするが、エーティスは素早く退避。
そして反対の足では彼女の相棒が暴れ始める。
「お、生でそのスキル見るのは初めてだ!」
反対の足を狙うジェーノは全力疾走からの体を捻った跳躍、そこから遠心力と重力とを乗せたハンマーによる振り下ろしをビートデスの左足へと叩き込む。
「っらぁ!」
その一撃が相手の巨体全てに伝わるんじゃないとかいう衝撃を生むと、着地したジェーノは地面にヘッドを突き下ろしたハンマーを支えに、下・中・上と右足による3段キックを放つ。
最後の上段の蹴りは勢いのままに振り抜き、勢いを殺さぬままにハンマーの柄を握り替えて回転フルスイング。
「くらいやがれ!」
ドッゴオオオオオオ!という重々しい低音が響くと同時に僅かにビートデスがその巨体をよろめかせる。
「ひゃー、いったそ!」
そんなことを言いつつ、ビートデスに生まれた新たな隙を突いてエーティスはスキルを用いない連続攻撃。
「よし、あともうちょい!」
1/5になったビートデスのHPを見てハンマーを短く持つと素早く2連打を打ち込むジェーノだったが、そこでビートデスは左腕を振り下ろし、さっきジェーノへと使用した地を這う薙ぎ払いを放ってくる。
「今度はコイツのクールタイムも終わってるんだよ!」
迫りくる腕に対し、ジェーノはさっきのジャンプではなく<縮地>を発動して跳躍。
しかしそれは回避ではなく、接近。
「ココをぶん殴ったら相当効くハズだよなぁ!?」
自分を狙っていた腕は瞬時に眼下へ、そしてその目で捉えるはビート君だったハートの胴体。
「これで終わりだあああああああああ!」
柄を限界まで長く持ち、勢いのままに振りかぶったハンマーを体全身のバネを使って頭上から振り下ろす。
『ギイイイイイアアアアアアアアアアアアアアアア!」
予想通り足を殴っていた時よりも大きな手ごたえを感じたジェーノ。
しかし彼がビートデスのHPを確認すると、そのゲージはまだ少し残っていた。
「クソ!足りなかっ――」
『ウッギャアアアアアアアアアアアアアア!』
身動きの取れないまま落下していくジェーノをビートデスの右アッパーが捉える。
「っがぁ!」
「ジェーノ!」
ジェーノが<縮地>で跳躍した高さより上空まで打ち上げられると、それを巨大な左腕が叩き落す。
クールタイムにより<不動の構え>を発動できなかったジェーノはそのまま床へ激突。
「っぐぅ!こ、コイツ……!」
なんとか立ち上がろうとしたジェーノだったが、倒れたその体を左腕が殴りつけた勢いのままに押さえつけていた。
そして自分を見下ろすビート君の口元が開き、その中にエネルギーが集まっていくのが見えた。
「……おい、まさか!」
変貌を遂げる前のビート君のハートの弾とは明らかに比べ物にならないモノがそこから放たれようとしていた。
ジェーノのライフはこの時点で1/3。潔く攻撃を受けるには危険な数値だった。
「っ!どっち!?」
相棒のピンチにエーティスは選択を迫られていた。
瀕死のジェーノを助けに行けば巻き添えに、しかし助けなければ動きの読めない相手を1人で相手に。
そんな状況の中エーティスの下した選択は、前進。
相棒を助けることを選択した。
エーティスは真っ直ぐにビートデスの足へと走り込む。
助けるといっても彼女に回復魔法は使えない。なら彼女がジェーノを救う方法は1つ。
ビートデスの攻撃より早く、ビートデスを削りきる。
「はあああああああああ!」
剣を下段に構え一気に距離を詰めると、即座に距離を稼ぐことが出来る<疾風突き>で接敵。
けれど彼女はそこから連続攻撃は仕掛けなかった。
さっきまでのビートデスとの戦闘では足へのダメージは打撃が有効で、彼女の斬撃はそこまで効果的ではなかった。
だからこそジェーノは胴体であるハート部分のダメージの感覚を読み違えて落とせなかった。
それに気づいた彼女が目指すのはジェーノと同じハートの胴体。
有効ではあったが、ジェーノの打撃では足らなかった。
なら自分の剣なら。
その予想を胸に彼女は跳ぶ――。
――ハートデスの右足に刺さる自分の剣へ。
「これで!」
刺さっていた剣の柄にギリギリ届いた自分の左足に気合を込め、即座に跳躍。
そして彼女の刃は間合いに標的を捉える。
「どうだああああああああ!」
逆手に持ち替えた両手に渾身の力を込め、剣をそのハートに突き立てる。
次で婚パチ☆ジョイント完結です。




