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15話:婚パチ☆ジョイント ―最後の部屋:前編―

 やっとのことでネズミを倒して元の体を取り戻したと思った矢先。


「ズルいズルいズルいズルいズルい」


 肝心の相棒がこの調子だった。


「悪かったって。ていうか最初に『怒らないでくれ』って言っただろ」


「怒ってない」


 やっと『ズルい』以外の言葉を発してくれたエーティスだが、どうみても怒っている。


 そのままジト目にへの字口でこちらを見てくる相棒をどうしたもんかと考えていると、その相棒がわずかに口を開く。


「……妬いてる」


「ん?」


「ジェーノが色んなことに詳しいのは知ってたけど、剣を使ってる私より剣に詳しいのが悔しくて、妬いてるの」


 今度は同じ表情のまま頬を膨らませる。

 割りと可愛い。


「俺があの人の作ったゲームを今まで何本プレイしてきたと思ってるんだ」

「むぐ」


 言いながら相棒の頬に溜まった空気を片手で挟んで抜く。


「あにょひとって?」


 頬が萎むとそのまま喋り始めたので手を放す。


「<車折廉助(くるまざきれんすけ)>さん。このゲームを含めて色んなゲーム作った人。他のゲームだと<D・F・O>……じゃなくて」


 いかんいかん、危うく脱線するところだった。


「とにかく、俺は今までにあの人のゲームをほとんどプレイしてきた経験値があるんだっての。ほら、まだどんだけ続くか分からないんだ、とりあえず今は次の部屋行かないと」


「そうだったね」


 足元にしばらく放置されていたままだった鍵のアイテムをエーティスが拾うと、入り口とは反対側の壁に出口が現れる。

 そのまま今までと同じように2人で扉へ手をかけて開いていると、半分の辺りでドアが止まる。


「あれ?」


 何かのギミックだろうか。

 っは!もしやもう1匹居るのか?


 そう思って周りを見回すが、流石にそれはないようだった。

 けど、原因を発見。


「おい、エーティス?」


 相棒がドアを引く手に力を込めていなかった。


「……ねぇ。本当にもう隠しスキル知らない?」


 ……そういうことか。まったく、負けず嫌いめ。


「知らないよ。真空剣、さっきの風のヤツで最後だよ」


 そこまで言うとエーティスは取っ手を握る手に力をこめる。


「分かった。……まずは剣のことに関してジェーノに負けないようになるのを目標にする」


「おう」


 音を立ててドアが再び開かれていく。


 カップルだったら負けず嫌いじゃなくて、隠し事があったことを怒るのかね。


 そんなことを考えながら扉の先へ進んでいく。






――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【tips:隠しスキル】

『真空剣』

<ウインド・ソード>を発動した後に重ねて<ヘヴィ・ソード>を発動した武器を使用して、「風」に関連する攻撃スキルを発動した場合に武器へと付与される隠しスキル。

風によるダメージは<ウインド・ソード>のレベルによって決まり、風の刃が飛んでいくリーチは<ヘヴィ・ソード>のレベルによって決まります。

効果時間は2つのスキルの内、より短い方の効果時間が基本になります。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――






「さて、お次はどんな部屋かねっと」


「そろそろ普通に戦わせて欲しいんだけどね」


「確かに今まではどう考えても普通じゃなかったな」


 2度あることは3度というか、当然のように2人で開いたドア。


 その先に広がっていたのはだだっ広い空間と――。


「「……うっ」」


 そこに転がっているピンクのハート。


「またハート……」


 隣でエーティスがうんざりした顔をしている。

 多分、俺もしてる。


 改めて部屋の中央にあるハートを確認すると、それは最初の部屋にいたハートの分裂前より全然デカかった。

 縦と横にそれぞれ3mはあるだろうか。


「流石にアレは可愛くないかも」


 エーティスはサイズの問題らしいが、俺はイベントエリアの最初の看板の時点でしばらくハート自体を可愛いと思えそうにない。


「さて、今度は分裂しないよな?」


 気を取り直してハートを睨むとターゲットリングが表示される。どうやら攻撃は必要らしい。


「やってみないと分からないよね」


「それもそうだな」


 2人で近づいていくとハートがピクリと動きを見せる。


「「っ!」」


 即座にファイティングポーズを取ると、エーティスも剣を構えていた。


「……」


 ピクピクと断続的に動き始めたハートへ、ジリジリと距離を詰めていく。

 そのまま<縮地>で跳び込めるリーチまで来て再び様子を伺うと、ハートが突如として回転し始めた。


 そのまま突進して来て回転攻撃か、それとも何か遠距離攻撃を仕掛けてくるか!


 いくつかの行動をシミュレートしながら構えていると、回転をしていたハートが慣性を無視してピタっと止まる。そして止まったハートには最初の部屋と同じように顔が出来ていた。


 流れが動き始める。


 直感でそう感じ取ると、いつでも踏み込めるように足に力を込める。

 横目で確認すると、エーティスは腰を落として<疾風突き>へと即座に移行できるように構えていた。


 こっちの準備は万端だ。


 さぁ、何が出てくる!?


『ここまでお疲れ様。大変だったでしょう?』


 ハートから出てきたのは、労いの言葉だった。




 


『いやー前の2部屋は疲れたでしょ、勿論それぞれ別の意味で』


 突如として動き出したハートに労をねぎらわれたジェートとエーティスが面食らっていると、それを気にするでもなくハートは気さくに言葉を続ける。


「え……いや、はぁ?」


 あまりにも理解の及ばない状況にエーティスは言葉にならない声を漏して構えを解く。


『あーごめんごめん。いきなりすぎてビックリだよね。私はこの部屋の制作者で、自分で作ったこの<ビート君>を通してリアルタイムで君たちに話しかけさせてもらってるんだ』


「はぁ、リアルタイムで……。で、俺たちに何か?」


 運営サイドからの突如の接触に対してジェーノは体の構えは解いたものの、反対に気持ちのガードを強くする。


『そのことなんだけど、君はジェーノ君で間違いないよね?』


 質問に対して即座に質問で返すビート君。それも自分を名指しで呼ばれて更に警戒を高めるジェーノだったが、答えないと話が進まなそうだと思って「ああ」と返す。


『うんうん、やっぱりそうだよね。あの2人がアダムだイヴだなんて言ってたから心配だったんだよね』


 満足そうに笑みを浮かべて頷く、というよりは体全体を前後に揺するビート君。

 それに対して自分たちの別名を知らないジェーノとエーティスの2人は首を傾げていた。


『突然かもしれないけど、実は私から君たち2人にプレゼントを用意したんだ』


「「プレゼント?」」


『それも2つ』


 何一つ状況を飲み込めないでいたところに更なる要素が増えて困惑する2人。

 当然のように、彼らは自分たちがプレゼントをもらう理由に心当たりがないからだが。


『そう、プレゼント。私の作ったゲームをいつも楽しんでくれているジェーノ君と、そんな彼と一緒に新しく私のゲームを楽しんでくれるエーティスさんのためにね』


 理由が理解できずに「?」を頭に浮かべたままのエーティスに対し、ジェーノはソレに気づく。


「私が……創った?もしかして、あなたは――」


『さぁ、1つ目のプレゼントはこのビート君を倒した瞬間に分かるよ。それじゃ2つ目のプレゼント目指して頑張ってね!』


 ジェーノが言い終えるより先に制作者の言葉は終わる。


「車折さん!」


 ジェーノが呼びかけるがビート君からは表情が抜け落ち、ニュートラルな笑顔を浮かべたまま変化しない。

 もうそこから人の気配はしなかった。


「車折さんってさっき言ってた人?」


 エーティスに声をかけられて、ビート君の中に居た人に向けて伸ばしたままだった手を降ろすジェーノ。


「ああ、丁度さっき話してた人だ。けどなんだってそんな人が俺たちにわざわざコンタクト取ってきたんだ?」


「それは私にも全く分からない」


 2人して肩を竦めていると、ビート君が動きを見せる。

 頬と思われる部分を膨らませた表情へと変わり、ターゲットリングの色が白から赤へ。


「だよな。でも、せっかく敬愛してる人がプレゼントをくれるって言うんだし。是非もらってやろうぜ」


「そうだね」


 そんなことを話している2人に向けて、予備動作からのタックルを仕掛けるビート君。


「<フレイム・ソード>、<オーバースラッシュ>」

「<焼塵剛拳>」


 低空飛行で突進してきたビート君を炎を纏う攻撃で迎え撃つ2人。


「はぁ!」


 そのままジェーノはパンチコンビネーションからのキックでビート君に距離を取らせると、そこにエーティスが<疾風突き>の終わり際、体が伸びきる直前の最大のインパクトを合わせてくる。

 これだけでビート君のHPゲージの半分を持っていくが、スピードタイプの彼らは連撃を手を止めない。


 エーティスの攻撃によって生まれたビート君との間合いをジェーノが<縮地>で跳ぶ。

 そのジャンプ中を狙ってビート君が口からハートの弾を撃ち出すが、ジェーノはそこで右腕を引き絞る。


「<金剛天衝撃>!」


 拳が届くより先にハートの弾がジェーノへとヒットするが、<金剛天衝撃>の発動中に発生するハイパーアーマーによって怯むことなく煌めく拳をビート君へ叩きつける。

 それがトドメの一撃となったビート君はフラフラと不安定に飛んだ後に、部屋の中央へと落ちる。


「さーて、じゃあ最初のプレゼントとやらを貰おうかね」


 推奨レベル10のボスということもあり即席にしては上出来すぎる2人の連撃によって即座に倒されるビート君。

 そしてこのゲーム製作者<車折廉助>の1つ目のプレゼントが現れる。


「うん?」


 ビクッ。


 宝箱のドロップ、もしくはアイテム結晶が生えることを期待してビート君の倒れた姿を眺めていたエーティスは、その体が再び動き始めていることに気づく。


「ジェーノ。まだ続きそうだよ」


「まだプレゼントはお預けってことか」


 ジェーノもその姿を確認すると肩を回す。


 そのまま2人でビート君を眺めているとHPゲージが急速に回復を始める。

 最初の限界値を越えて。


「おい、もしかしてこれって」


 ジェーノが呟いた瞬間ビート君が再び浮き上がり、小刻みに振動を始める。

 そして徐々に強くなっていくその振動が最大に達した瞬間――。


『ウッギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』


 ビート君のハートの体を突き破って内側から極彩色の異形な手足が生え始める。


 元のハートを胴体としてアーティスティックなモンスターとなったビート君は奇声を上げながら手足を振り乱して暴れだす。


「うっはぁ、またこいつはすごい見た目だな!」


「本当にね!」


 ビート君のあまりの変化に驚きつつも、ここまで戦闘において不完全燃焼だった2人はうずうずとした心の逸りを感じていた。


「やっぱりモンスターってのはこうじゃないとな!」


「あんまり()()()()ばっかりなのも困るけど、倒す分にはこういうモンスターの方が気は楽かも」


 ジェーノとエーティスはそれぞれ武器を構えなおし、胸元からこちらを見下ろすビート君を睨む。


「この元……ビート君だっけ?この見た目で推奨レベル10だと思う?」


「さぁな。詳しいことは分からないけど、とりあえずこれが10だとは思いたくはない」


 拳を打ち合わせたポーズで格闘スキル<合気集脈>を発動して属性耐性と自身のスタミナ回復速度を上昇させたジェーノはビート君だったものに拳を向ける。


「けど、やっぱり最初からやることは変わってない」


「とにかく頑張ってクリアする?」


 口の端を上げながらの相棒の答えに頷くと、ジェーノは敵に向けていた正拳を裏返し、人差し指を伸ばす。


「来いよ、バケモノ」


 伸ばした指を曲げ、ジェーノの<挑発>とともに戦闘が始まる。

そんなに大きく展開が動いたわけでもないですが、気づいたら長くなっていたのでこちらも前後編に分けさせてもらいました。

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