閑話:創った者たち
「あいつらはタイムアタックでもしてんのかねぇ」
このイベントエリアはどんなに遅くても2時間程度で終わるような設定だが、こいつらみたいに30分を切りそうなペースで攻略していくイカれたカップルはいない。
「ネズミを追っているときに時間の余裕がどうとか言ってたのが、私たちに対する煽りにしか聞こえないんだけど」
仁科が隣でボヤく。
「ははは、確かに。とはいえいくらこの2人が早いっつっても俺らの休憩時間中にクリアするのは無理だろうな」
デスクの上にある木枠のデジタル時計を確認すると、俺達の休憩時間にはあと5分程度の余裕しかなかった。
「ちょっと難しいでしょうね」
なんせ次の部屋には最後らしく『ボス』が配置されているんだ、ここまでの部屋より時間がかかるのは当然だし、あっさりとは……。
……待てよ。
「いや、あいつらならすぐだな」
深く考えずに今までのカップル達のデータを頭に浮かべていたが、こいつらにそれは通用しないんだった。
「……あー!そうだった!」
俺の発言に仁科も思い出したようだ。
最後の部屋だけは推奨レベルに準拠したただのボス戦だということを。
「あれじゃあ子供同士のかけっこにヌーの大移動がなだれ込んでくるみたいなものじゃない」
その光景を浮かべた後に、アダムとイヴがこれから入ろうとしている最後の部屋の末路を考えると――。
「まぁ、大体同じだな」
同じように走っていても、速度も規模も目的さえ違う存在がそこにあるものを蹂躙していくのだ。
絶対あのボスの製作者さんには見せられないよなぁ。
「んー?何かアダム達が揉め始めたわよ?」
「マジか」
言われてモニターを確認すると2人は向き合って何かを話し合っていた。
体が元に戻ったからすぐにでも次の部屋に進むかと思ったが、どうやらそうもいかないらしい。
「そんな暇あったらクリアするところを見せて欲しいんだけど」
2人のやり取りを確認するためにモニターを管理カメラからステルスドローンへ切り替えて近づく。
『ズルい』
聞こえてきたのはイヴの声。
『ズルいズルいズルいズルいズルい』
『う……』
イヴのじっとりとした連続攻撃に対し、アダムは申し訳なさそうに呻きながら甘んじてその攻撃を受けていた。
「「……」」
どうやらさっきまでの『鍵助』との追いかけっこの中でイヴが不満に思うことがあったらしい。
さっさとボスを倒すところまで見届けたいこっちとしては痴話喧嘩は違うときに見せてほしいんだが。
「何やってるんだよこいつらは……」
「それはこっちのセリフだ」
「「へ?」」
突然後ろから聞こえた声に仁科と同時に振り替えると、そこには同僚の<牧島>が居た。
「お前ら2人とも次は会議だろ。いつもより早めに切り上げた方がいいんじゃないか?」
わざわざ言葉尻を上げた疑問形で訊いて来るが『やれやれ』という表情からして、多分そうだと確信した上で言っているのだろう。
「そうだった!ちくしょう!」
勿論その通りなわけで、デスクの上から必要な資料と組み上げたデータを持って走り出す。
「仁科、ステルスドローン切っといて!」
「私も会議!」
仁科も自分のデスクへと走っていた。
「じゃあ牧島!」
振り返るとそこにはもう牧島は居なかった。
「あんにゃろー!」
モニターのことは諦めてモニタールームを飛び出す。
すまないアダム。俺たち以外のヤツにも見守られることになるかもしれん。
本郷と仁科が去っていった後のデスク。
そこには彼らがアダムとイヴと呼んでいるユーザー2人が映ったままになっていた。
「へぇ……アダム、いやジェーノ君か」
そのモニターをのぞき込む1人の男。
「彼にはいつも私のゲームを楽しんでもらってるなぁ」
穏やかに、そして満足そうに笑顔を浮かべた男は本郷のデスクに座ると、管理者システムを起動する。
「だから、これぐらいのお礼はしてもいよね?」
そう言って男は管理者システムから最上級権限を起動する。
今回は閑話にしては少しだけ長くなりました。
早く普通の戦闘とレギュラーメンバーが揃うところまで進めたいです。




