14話:婚パチ☆ジョイント ―ネズミの部屋:後編―
俺とエーティスのアバターが入れ換わってから10分。
俺たちは思ったより苦戦していた。
「もしかしたら白竜より時間かかってるかもしれないな……」
「うう……ごめんジェーノ」
「いや、悪い。そういうつもりで言ったわけじゃないんだが……」
思わず出た独り言がエーティスに届いてしまったようだ。
「本当に面目無い……」
「いや、追い詰めきれない俺にも責任はあるし、気にしないでくれって」
それに女の子座りをしている自分のアバターに謝られるのはなんかこう、何とも言えない気分になる。
「とりあえずここには誘導出来たんだし、またアタックしてみようぜ」
広い部屋の一角を落ちている木箱やフェンスを並べて作ったバリケードで囲んだこの三角形。この中に鍵ネズミを追い込むことには成功していた。
ちなみに本当はここに追い込むついでに1発、追い込んだ先で1発の計2発で終わらせるはずだったが、エーティスが使いなれない俺のアバターで顔面スライディングを決めたので追い込むだけに留まっている。
「……そうだね。凍結まで余裕があるってわけでもなさそうだし、頑張らないと!」
エーティスが奮起して立ち上がる。
実際、凍結までは残り2時間程度。この婚パチ……イベントエリアがどれくらいの長さか把握出来ていない今の状況では『もう2時間』なのか『まだ2時間』なのかすら判断出来ない。
でも問題がシンプルなら答えも単純。
「ああ、頑張るぞ。それがいま俺達の出来る最善だ」
手に馴染んできた剣の柄を握り、再び動き出す、
「居た!」
バリケードの入り口を閉じ、鍵ネズミの捜索を始めて少し。二手に分かれていたエーティスの声が聞こえる。
「そこか!」
聞こえた声を頼りに走ると、鍵ネズミとそれを追うエーティスを発見。
「そのまま走れ!なんとか挟んでみる!」
「了解!」
数メートル先の道を直進で横切っていく1人と1匹を追いかけるために手近な木箱を蹴って金属コンテナへと飛び乗り、そのまま障害物の上を進んでいく。
「次のコンテナにブチ当たったらネズミを左側に誘導してくれ!」
「やるだけやってみるけど、ダメだったらごめんねー!」
そんなことを言いつつもエーティスはやや右寄りにネズミを追い始めていた。
「その時はその時だ!」
今はエーティスを信じて真っ直ぐに飛び進む。
「……今、めっちゃ頑張ってるなぁ」
今までこのゲームをプレイしてきて、過去にこれほど全力で何かを追いかけまわしたことなんてあっただろうか。
ていうか推奨レベル10のくせにレベル70台後半の俺達でこれだけ手こずるってことは、確実にユーザーのレベルに比例してネズミの速度も上がってるんだろうな。
そんなことを考えながらいくつかの木箱とコンテナを越えていると、目標のコンテナにネズミとエーティスが差し掛かろうとしていた。
頼むぞ、相棒。
「――ここだ!<縮地>!」
エーティスはコンテナを前にして一瞬だけ動きを止めたネズミの右側へと跳ぶ。
ほんと、ここでさっき失敗したスキルを持ってくるんだからスゴイ奴だ。
「半分は勢いだったけど、お前とパートナーになってよかったよ」
今度は転ばずに綺麗に跳び込んだエーティス。そしてそれによって進路を左へと変えた鍵ネズミを狙って剣を手に飛び降りる。
相棒があれだけキメてくれたんだ、俺が外すわけにはいかないよな。
『1』
頭上からピンポイントで鍵ネズミを突き抜く。
っち、ついでに鍵そのものを狙ったけどやっぱり物理的にははがせないか。
攻撃を受けた鍵ネズミは再び走って逃げだす。
けどそれをすぐに追いかけることはしない。
そんなことより伝えたいことがある。
「なぁエーティス、実は隠してたことが1つあるんだ」
「え、今?このタイミングで?」
すぐにでもネズミに追い討ちをかけようとしていたエーティスに怪訝な顔をされる。
「もう『相棒』にくだらない出し惜しみはしないって、ここに約束する」
今ネズミを追うことも訝しむこともやめてしっかり俺の話を聞くことにしてくれた相棒に、俺も誠実でいないとな。
「だから黙ってたこと怒らないでくれよ?」
俺の言葉に最後にもう一度だけ怪訝な顔を浮かべたエーティスに背を向けて、逃げていくネズミの背を捉える。
「<ウインド・ソード>」
剣に風を纏わせる。
「<ヘヴィ・ソード>」
そして鈍色を光らせる。
普通ならこれでエンチャントは上書きされ、最初の<ウインド・ソード>はまったくの無駄になる。
「貫け」
けど、あるスキルがこのルールを変えて、再び剣へ風を呼び戻す。
「<疾風突き>」
逃げるネズミを追うのは俺じゃない。
FAスキルによって突き出された剣。切っ先から緑のオーラがその形を持ったまま鍵ネズミへと突き抜けていく。
『1』
そしてその一撃を持ってこの追いかけっこは終わった。
これがエーティスにまだ隠していたコンボ。
俺のエーティスに対する不信の顕れだったモノ。




