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11話:婚パチ☆ジョイント ―ハートの部屋:前編―

「……」


「……」


 無事にパートナーを獲得し、ポイズンテイスティングを後にしたジェーノとエーティス。

 同じ目的を持つ同志としてパートナーを組んだ2人は再び動き出そうとしている自分たちの冒険ライフのため、凍結ラインを越えるための残り20ポイントを稼ぎにイベントゲートへ来ていた。


 そしてイベントゲートへ辿り着いたはずの2人は――遠い目をしたまま立ちすくんでいた。






「あれ、2人とも止まったわよ。どうしたのかしら?」

 

 コーヒーの入ったマグを傾けていた仁科だったが、立ち止まったアダムとイヴを見て今度は首を傾ける。


「……さぁ?」


 見当は付くが、仁科のプライドのために黙っておこう。

 本人はほぼピンク一色でハートが乱舞しまくってる看板に、妙に丸いフォントで<婚パチ☆ジョイント>とデカデカと書かれていることに対して思うとこは何もないようだし。


『行くか……』


『うん……』


 死地へ赴く戦士の顔をした2人がゲートをくぐっていく。


「ふふふ。私のイベント、楽しんでね」


 少なくとも今俺の見ているこの場面(イベント)は割と楽しめそうだと思った。






「行くか……」


「うん……」


 製作サイドの正気を疑うゲートをエーティスと共にくぐると、視界が白い光で塗りつぶされる。

 思わず目を瞑った瞬間に、そういえばイベントゲートを使うのは初めてだった。なんてことを思い出す。


 そして次に目を開いたとき、目の前には赤とピンクの空間が広がっていた。


「どっかの部屋の中か?」


 色使いからして趣味嗜好は変わっていないようだが、「室内」という枠組みが出来たおかげでさっきのゲートに比べれば少しはマシなデザインになっていた。


「そうみたい。前に女の子のフレンドから聞いたことあるけど、いくつかの部屋を順番に攻略しながら先に進んで出口を目指すらしいの。で、その部屋ごとに2人で協力する必要があるんだって」


 腕をクロスさせて筋を伸ばしながらエーティスがざっくりと概要を説明してくれる。


「ははーん、なるほど。まさしくパートナーの仲を深めるためのイベントってわけか」


 こっちも軽くジャンプを繰り返し、ワンツーからの上段回し蹴りのシャドーをして体の感覚を戦闘モードに切り替えていく。


「でも初心者カップルのためのイベントエリアってだけあって推奨はレベル10だったな」


 体を馴染ませるとクイックインベントリの10枠に8枠までいつものアイテム群をセット。ついでに通常インベントリから酔い醒ましを使おうと思ったが、ちょうど時間が来たのかほろ酔いが醒めてくる。

 ゲームの中の酔いは時間で管理されてる分、便利といえば便利だが、気分で引き摺れないことに若干の味気無さを感じる。

 

「うーん、それなんだけど。いろんな意味でレベルはほとんど関係ないって話を聞いたんだよね」


「いろんな意味ねぇ……」


 素直にレベルは関係ないと言われれば『じゃあどんなことが待ってるんだ?』と心が躍っていたと思うが、推奨レベル10とハードルが低いのにも関わらずレベルは関係ないと言われれば『一体どんなことをしてくる気だ?』と身構えるのが普通だ。


「ま、うだうだ考えても分からないもんは分からないか」


「そうそう。今はとりあえずこの世界で明日を迎えるために先へ進まないとね」


 エーティスはそう言って目の前のハート型の両開き扉へ手をかける。


 ガタッ。


「……あれ?」


 ガタタタタッ。


 押しても引いてもスライドしても、そのドアは開かなかった。






『ふんぬううううううううう!』


「頑張ってるなぁ、アダム。あのドアってどうやって開けるんだっけ?」


 コーヒーのおかわりから帰ってきた製作者様に訊いてみる。


「どうやってって……。別に普通に2人で両側を持てば押しても引いても開くはずだけど?」


「さいですか」


 どうやら俺の()()はアダムよりのようだ。


『グフッ!?』

『ヘブッ!?』


 そんなことを考えているといつの間にかドアが開いていて、アダムとイヴの姿が消えていた。


 ステルスドローンからダンジョン内の管理カメラに映像を切り替えると、次の部屋の手前側の壁にドア共々顔面から激突している2人を発見。

 どうやら仁科が思っていたのとは少しニュアンスが違ったようだが、2人で協力してドアを開けたらしい。この場合は力を合わせるという表現よりかは「筋力値を合わせようとした」と言った方が妥当か。

 

 結果的に2人で手をかけたから扉は開いたが、近接キャラだけあって筋力にそこそこ能力値を振っているのが災いしてそのままヘアピンカーブの軌道で入室することになったようだ。






「いたい……」

「ってぇ……」


 実際には痛くないはずだけど相応の衝撃は来るし、気持ちの問題は別。

 現実だったら顔がフラットになっているレベルの勢いだったはずだし。


「いちいちドアも二人で開けろってか」


「そしたらすんなり開くってことね……」


 ぶつけた鼻を抑えているせいで私もジェーノも鼻声になっていた。


 そのまま雨が降る前の猫より顔をこすってから立ち上がる。


「うん?なんだろ、あれ」


 さっきより広い部屋の中央に何か赤とピンクのモノが浮いている。


「あれ?」


 私に続いて立ち上がったジェーノも同じものを発見したらしい。


「ハートか、あれ?」


「そうみたい」


 少し近づくと浮いているハートにターゲットリングが表示され、敵だということは判明する。


 一応抜刀してゆっくりと距離を詰めるが、リングの色が白のまま変わらない。どうやら攻撃性のあるエネミーではないらしい。

 そのまま近くで確認すると、中央を境に赤とピンクに色の分かれたハートに表情と羽が付いているだけのシンプルなデザインの敵だった。


「襲ってこないってことは……」


 ゆっくりと歩いてきたジェーノはハートをしげしげと見つめると、優しく手に取る。


 そしてハートの両端を掴むと――。


「ふん!」


 全力で引っ張り始めた。


「いやいやいやいやいや!」


 あまりの行動に思わず止めに入る。


「急に何してるの!?」


「ん?いやわざわざ攻撃してこないんなら何かギミックあるかなーって」


「それで最初にやるのがハートを真ん中から引き裂くって!ここは仮にもカップルのためのイベントエリアなんだからね!」


「ああー、じゃあ違うか」


 ジェーノはハートを手放す。

 ハートちゃんはすごく悲しい顔で泣いていた。少なくともともスタートの段階で食傷気味にされたハートに対して「ちゃん」を付けたくなるくらいには可哀そうだった。


「うーんだとすると……。エーティスって筋力どれくらい?」


「え?えーと純白コンビ倒してレベル上がった時のポイントは速力に振ったから……」


 空中にメニューを表示して確認する。


「49かな」


「はい、どうも。で、俺が53だから……丁度いいか。エーティス、そのハートにデコピンしてみてくれ」


「この子に追い打ちをかけるの……?」


 思わずハートちゃんを抱きしめてジェーノから距離を取る。


「さっきのは悪かったって!でも凍結まで時間に余裕もないんだからどんどん試していかないと」


「時間が無いのは……そうだけど。何を試すの?」


「どういうギミックかってことをな。とりあえず俺がさっき掴んだのに攻撃行動してこないからただの敵じゃない。更に攻撃できるように敵モンスター扱いってことはそのギミックには攻撃は必要だと仮定。その結果1つ案が浮かんだ」


 人差し指を立てて1を表すジェーノ。


「うんうん」


「んでそれを試すのに最低限デコピンくらいは必要なんだよ」


 立てていた指でデコピンを空撃ちする。


「この子に、デコピン」


 私の手の中でニュートラルの表情なのか笑顔を浮かべるハートちゃん。


 ……。


「私には、出来ない!」


「……はぁ。じゃあ汚れ仕事はフカイの長で男の俺がやりますよーっと」


 ジェーノはデコピンの指を作るとそれをハートちゃん。ではなく私に向けてくる。


「へ?」

「てい」


 ズビシッ。


「ぁいた!」


 私がおでこをさすっているうちにジェーノはハートちゃんを回収する。

 そしてジェーノが再びハートちゃんに指を構えると「悪いけど、今度は止めてくれるなよ?」と言ってハートちゃんにデコピンを放つ。


『1』


 ハートちゃんの上にダメージが表示される。


「んで、次は……<合気集脈>」


 ジェーノが格闘のAA(オート・アクション)スキルを発動して強制的に胸の前で合掌を組むポーズを取る。

 確かあれは単純に攻撃力と防御力を上げるスキルだったはずだ。


「とりあえずこれで。ほらよっと」


 ジェーノは自分にバフをかけると、さっきと同じようにハートちゃんにデコピンをする。


『1』


 ダメージ表示は変わらず1のまま。


「推奨レベル10なのにそれなりにランク上げてるバフでダメージ変わらずってことは、ギミックとして固定で1ダメージってことか」


 ジェーノがハートちゃん私に返してくれる。


「ああ、ハートちゃんごめんね……」


 ハートちゃんがデコピンを食らった部分をさすってあげる。


「心配するのは別にいいけど、そのハートちゃんのHPゲージ見てみ?」


「ゲージ?」


 ハートちゃんの頭上に浮かぶHPゲージを見てみると、全然減ってないことを表す緑色。

 しかも合計2ダメージとはいえ肉眼で分かる範囲では減っているようには見えなかった。


「もしかして通常の攻撃はひとつも効いてないないカンジ?」


「だろうな。さっきからどこを見ても入ってきたドア以外は見当たらないし、やっぱりそのハートには何らかの特別なギミックがある。で、それを攻略する必要があるってことだ」


 特別なギミック……。

 

 手元のハートちゃんを見ていると、一番最近の記憶(主にこの部屋に入るため)から1つ予想が浮かぶ。


「「同時に攻撃」」


 どうやらジェーノも同じ考えだったらしく、綺麗にハモってしまった。

今回のタイトルに「―前編―」とついていますが、ここからかかる話数によっては

『―起―』になったりするかもしれません。


ファイトだ自分。


2018 4/15

『―起―』にはなりませんでしたが各話の文章量から鑑みた結果、章のタイトルを『――前編――』から『婚パチ☆ジョイント ―ハートの部屋:前編―』に変更しました。これに伴い、関連する後続の章の名前も変更されています。


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