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10話:バックヤード・ランウェイ

一方、ローニアの撤退していったバックヤードでは倫理観が失われようとしていた。





「私的にはあのままジェーノさんの膝の上待機でゴリ押しでもよかったと思います。そりゃあもう<不動の構え>の如く」


「それは流石に本人がドン引くかな」


「まぁ、あのままエーティスちゃんに持っていかれるくらいなら、その作戦もナシじゃないかもね?」


「鬼畜が過ぎますよーエリーさーん」


 会話の誘導成功に気を抜いてエーティスに手痛いカウンターをもらってしまった私に、二人から強い風が吹きつけられていた。


「まぁまぁ、とりあえず今は次どうするかですよ」


「ていうか、また増えてるし」


場を仕切り直した長身の女性はフェミルナさん。

ウェーブのついた髪で顔の左側を隠していて、耳元で光る金のピアスが特徴的。

そしてこの店の経営者でもある。


「元凶が言うのもなんですが、普通のお店なら怒りません?」


「全くもってその通りですが、ここはオンラインゲームの中で、尚且つ運営お墨付きの特等酒場というわけでもありませんし。構いませんよ。それに……」


そこでフェミルナさんはいつも浮かべている微小を深めると――。


「時間割の利益より価値のある催しなら、止めません」


 そう言って妖しく笑い、左の前髪を後ろに流す。


 このフェミルナという女性は、ある意味ではお金の絶対価値を自分の中で定めている人だった。


「人の一大決心を催しにしないでくださーい」


「ほらほら、また話がずれてますよ!」


今度はまっきーが話を戻す。


「今は<ロケットバード作戦>のおかげで有耶無耶になりましたけど、状況は相手に傾いてるんですから、なんとかしないとですよ!」


「なんとかって言っても……なんとかなるかなぁ」


「策が尽きる前に弱気にならないの。状況を打破するにはまずその状況を理解するところからですよ」


この店のトップに立つ人らしく、場をまとめ始めるフェミルナさん。


「現状、作戦は効果があったけど、最終的な成功にはならなかった感じですね」


「むしろカウンターをもらった感じだよねぇ」


「それは申し訳ないかなぁ……」


当初の作戦通り話を逸らすことには成功したけれど、最終的には原点回帰された挙句、より相手同士を意識させてしまう結果になってしまった。


 けどその状態がジェーノとエーティスに効果をもたらすよりも先に、エリーが(絞めようとしていた)オールダーチキンを腰の入ったサイドスローで投げ込んできてくれたおかげで空気がカオスに。それによってなんとか場の雰囲気を完全破壊することには成功。

 

そして今に至る。


「うーん……相手はターゲットと同じくフカイ組。しかも同じ戦闘狂っぽい雰囲気」


「尚且つどうやら二人で難関クエストをクリアしてきた様子ですしねぇ……」


「ぶっちゃけもうリーチかかっちゃってますよねー」


 ならもうトドメ刺してくれないかな。

 気づけば乙女の一大決心から敗残兵の玉砕特攻みたいな雰囲気になってきた気がしてるし。


「「「うーん……」」」


そんな私の気持ちを知ってか知らずか、3人は私から離れた位置で頭を突き合わせながら何やら悩んでいる。


少しの間そのままだったが、(申し訳ないことに、こちらと違って真面目な)調理班がチキンの調理を終わらせたところで丁度3人の会議も終わったらしく、元の位置へと近づいてくる。


「情報を引き出せばヤブヘビ」

と、まっきー。


「アピールすればカウンター」

と、フェミルナさん。


「じゃあもう告白(特攻)だね♪」

と、今年1番の笑顔でエリー。


「作戦は!?状況をどうこうとか言ってたじゃん!言ってたじゃん!」


 会議の末に顔を上げた3人は本当に玉砕特攻を私に命じてきた。


「時間も余裕もないし、これしかないと思います!」


 握りこぶしを作って全力で言ってくるまっきー。

 後輩なら少しは手加減してほしい。


「無理だって!無理無理!どうしてそうなるかな!?」


「どうせ最後には告白するんだから大丈夫だよぉ」


 エリーは笑顔のまま言ってくるが、もうサムズアップが手榴弾のレバーを跳ね上げているようにしか見えない。


「そりゃその予定だったけどさ!そのための手順とか作戦だったんじゃないのかな!?」


「その手順もライバル登場で崩壊、作戦は失敗。だから告白するしかない、はい論破です!」


「いつも優しくしてるからってつけあがるなよ後輩ィ!」


「痛い痛い痛い痛い痛いですってー!」


 生意気な後輩のこめかみをグーで挟んで持ち上げる。

 ちなみにこのゲームは触覚と衝撃はあっても、痛みにまでは届かないように設定されている。だから悔しいことにまっきーは別に痛みを感じていない。


「でも行くしかないですよ、ニアちゃん」


「うっ」


 フェミルナさんに真面目なトーンで言われると事実として私にのしかかってくる。


「ほらほら、行くしかないんだよ。ニアちゃん!」


「ぐぬぬぬ……」


 状況を盾に親友がすごくいい笑顔で後押ししてくる。ちくしょう。


 もういい。いいよ。やってやる……!


「……分かったよ……()ってくるよ……」


「「「……」」」


 口から洩れた声は自分で思ったより小さくて低かったが、妙に響いてバックヤードに一瞬の静寂が満ちる。

 そして3人は顔を見合わせると、それぞれ爆発する。


「よっしゃー!ファイトですよニアちゃん先輩!」


 一瞬の沈黙を全力で破って、何故かシャドーボクシングで応援の気持ちを表現してくるまっきー。


「もうこの後は店員型NPC配置してバイトはおしまいにしましょう。高いお酒と……キツいお酒も用意しておきましょうか」


 なんでフェミルナさんがキツいお酒まで用意しようとしてるのかは考えないようにしよう。


「ニアちゃん……」


 さっきまでノリノリだった親友が優しい笑顔で私を見ている。


「エリー……」


 言葉にしなくても伝わる思いがその笑顔から伝わってくる気がした。


「この際どっちに転んでも私的には美味しいから、気張らずにファイトだよっ」


 やっぱり気がしただけだった。


 はぁ、まぁいいや。

 決めたんならぱぱっと終わらせよう。


「行ってくるよ……エリー」


 親友の肩に手を置く。


「ニアちゃん……」


「……この大型バイクとアウトドア大好きガサツ系黒髪ワンレンロング女ぁ!」


 でもとりあえず仕返しはしておこう。


「余計なこと言ったニアちゃんはオロロンライン引き摺りまわしちゃおうかな!」


「わあああああ!ガトリングはここじゃダメって前にも言ったじゃないですか先輩!」


 捨て台詞に現実のエリーを店員みんなにバラしてから走り出す。

 調理班の用意してくれた料理を引っ掴んでからバックヤードの防音スキルの外に出るまでの間、後ろから「ニアちゃんは現実でカナカナ言う癖がうるさいんだよ!キャラ作りか!?それともヒグラシか!?」とか聞こえてきたが、もう色々と振り返るワケにはいかない。


 ちなみに語尾に「かな」が付きやすいのは学生時代の友人の癖が移っただけだ。

 そしてキャラ作りどうこうはエリーが言っちゃいけないと思う。






「おまたせー。オールダーチキンのレッグとグレートキンキの炙りでーす」


「待ってましたー」


 ローニアがメインの料理を持ってくると二人は(表面上は)さっきまでの状況を感じさせず、白騎士との戦闘での復習談義を中断して料理を受け取る。


「はい、メインと一緒にお酒もね」


 そう言ってローニアは先ほど二人が頼んだものと同じビールと日本酒を置く。


「サービスいいんだね」


「あははー、普段はこんなことしないよ。これはさっきの鶏のお詫び。だからお金もサービスね」


「流石、やっぱり趣味酒場は特等酒場と違って人情派だな」


「うちは趣味って公言してるからいいけど、他の特等目指してる酒場で趣味って言ったらダメだからねー」


「知ってるよ。それにどうせクエスト受付のための特等酒場とここしか来ないから大丈夫だ」


「にしし、御贔屓どうもー。ところで何それ?」


 そう言って笑っていたローニアだったが、ジェーノとエーティスの二人ともが持っている色違いの宝箱に気づく。

 ジェーノが水色、エーティスが赤色のものを持っている。


「クリアしてきたレアクエストの戦利品」


 二人はこの宝箱を取り出した際に戦闘でのことを思い出して、さっきまで戦闘のおさらいをしていた。


「へー。アイテム結晶になるわけじゃないんだ」


 戦闘をしないローニアは当然レアクエストに参加したことがないので、宝箱でアイテムがドロップするのを見たのは初めてだった。


「アイテム結晶は割った瞬間にパーティー全員にアイテムが配られるけど、レアクエストとかレイドボス、一部のレアモンスターなんかはこうやって宝箱でドロップして、中身がそれぞれ個別のアイテムになってるんだ」


 口にチキンをくわえながら、手のひら大より少し大きいその宝箱をその場で軽く投げてポンポンと弄ぶジェーノ。


「あ、そうだ。ドロップといえばさっきローニアに訊きそびれたんだけど、普通のモンスターは倒したらアイテム結晶になるはずなのに死んだふりとか出来るの?」


 エーティスはさっきの鶏騒動、<ロケットバード作戦>の時にローニアが言っていた言葉を思い出す。


「うん、食材になるモンスターに対して<鮮度保持>スキルを発動してから相手のHPを0にすれば、瀕死……っていうのかな?もう動かないんだけど、アイテム結晶にならない状態に出来るんだ」


「なるほど。生活系のスキルにも色々あるのね」


 疑問が解消されてすっきりとしたエーティスは酒をちびり。


「はは、まぁ俺たちみたいなのにはあんまし関係ないもんなぁ」


「そうね」


 そう言って笑いあうジェーノとエーティスにローニアは内心、うぐぐ……。と漏らすが、背水の陣ともいえる心持ちで臨んでいることもあって決心が揺らぐことは無かった。


「ねぇ、その宝箱、開けないの?」


 話を途切れさせないために話題を繋げるローニア。


「あー…ああ。開けたいんだけど、さ」


「うん。私もちょっと、ね」


「む?」


 何とも言えない苦笑を浮かべて宝箱の留め具に指をかけようとしない二人。

 二人は声を掛け合ったわけでもないが、お互いに開けるのを躊躇っていた。理由さえ一緒だというのに。


「<純白の一対>で宝箱がドロップしたってことはかなりのものが入ってるハズなんだが……だからこそな」


 レアクエストは報酬が美味しいというのは副産物のようなもので、モンスターからのドロップ品が一番の目玉ともいえる。そしてジェーノがエーティスと合流する前に食べていたローニア特製弁当の<アイテムドロップ確率増加:大>の効果のおかげかどうかは定かではないが、運良くジェーノは白竜から、エーティスは白騎士から宝箱をドロップした。

 

 このゲームで戦闘と冒険を楽しんでいる2人としてはかなり嬉しいことではあったのだが、それは永久凍結を目前にしていなければだろう。

 中身に価値があればあるほど、まさしく宝の持ち腐れになってしまうのだから。


「……ねぇジェーノ」


「ん?」


 そしてジェーノと長い付き合いから、ローニアは思いつく。


「それ、せっかくだから開けたら?どうせ宝箱のまま終わらせるぐらいだったら、最後に中だけ見ちゃおうよ」


「……そうだな。箱のままじゃ何にもならないけど、素材とかだったら最後の晩餐を豪華にする程度の金にはなってくれるか」


「そうだよ!」


 ローニアは焚き付けることにしたのだ。


「よーし、そのお金でうちの店に貢献してね!」


 言葉とは裏腹に彼女は金目の物が出ることには期待していない。

 出てきてほしいのは、彼にとって価値のあるモノ。


「ここで使い切ろうと思ったら全メニュー2周くらいはかかりそうだな」


 ローニアが焚き付けようとしているのは、彼の未練。


 ジェーノが慣れた手つきで宝箱を開け放つ。


「「さぁ、何が出るかな!」」


 中には箱に収まるギリギリのサイズの、目玉があった。


「「……」」


 ローニアは数秒の沈黙の後、しゃがみ込んでうずくまる。

 完全にハズしたと思ったのだ。

 しかし、ジェーノの沈黙は違った。


「……うおおおおお!マジか、<白竜の瞳>かよ!」


 このアイテムこそジェーノが求めると同時に、手に入らないだろうと諦めていたアイテムだった。


「え、え?なんかすごいアイテムなの、この目玉?」


「ああ、今まで一番欲しくて、このタイミングで一番欲しくなかったアイテムだ」


 ジェーノとしては一番迷惑な結果で、ローニアにとっては最高の結果。


「一番の……アイテム」


 それを理解したローニアは最後の手を打つ。


「……ジェーノってさ、今日で最終凍結なんだよね……もうこのゲームに未練はないかな?」


「ん?それは……いっぱいあるな。<それは天地の裁き>の攻略もしたいし、レアリティ8以上の食材を使った料理も食べてない。それにダンジョンの第一発見者になって名前付けるとかもやってないしなぁ」


 ジェーノは宝箱から目玉を取り出して掲げると「これだって未練だ。もしかしたら一番の」と言って宝箱の代わりに投げて弄ぶ。


「だ、だったらさ……そのー……」


 言い淀む彼女の中にバックヤードで待つ友人たちの顔は浮かばない。

 あるのは自分との葛藤だけ。

 そして自分に誓った決心を持ってその一歩を踏み出す。


「……だったら私と……組まない?」


 ついにジェーノへと伝えられた言葉。


 けれどそれは――。


 ――ローニアの言葉ではなかった。

 

 ジェーノの未練を焚き付け、そこから生まれた可能性に自分を刷り込ませる。

 その作戦は上手くいった。

 だからそこで彼女はまた忘れてしまっていた。先ほど痛感したばかりの自分の()()()を。


 自分とジェーノのことで頭がいっぱいになり、どうしてもう1つの宝箱が開けられていなかったのかを考えられなかったのだ。

 そしてもう1人の宝箱の持ち主に、ジェーノとの運命を教えてしまった。


「同じフカイ組で、同じ戦闘バカで……それでジェーノは今日で永久凍結なんでしょ?」


「ああ、悪い。気にすると思って隠してた。けど別に無理して俺と組まなくていいよ。お前も運命とか好きなロマンチストだろ?」


 ジェーノはエーティスの提案を『気遣い』だと思って遠慮する。

 が、それは違う。


「私も今日で永久凍結なんだ」


 ローニアの心身がともに凍り付く。


「私としてはもう運命として十分だよ。だからこれは私からのお願い」


 エーティスはその言葉をもう一度口にする(突きつける)


「まだ諦めきれない者同士、パートナーになってください」




 ――ヒグラシの夏は、終わった。






――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【tips:酒場】


『特等酒場について』

この<マリッジ・エッジ>において重要な施設となっている「酒場」の中でも店舗の規模や集客能力が特に秀でていると判断された酒場は『特等酒場』となります。特等酒場は特殊な権限や店舗能力を持つようになり、NPCやプレイヤーからの各種クエストが掲示される『クエスト掲示板』が設置されます。


やっと序章というか、ひと段落ついた感じですね。

次回からまた戦闘書けるはず……。

もうしばらく鍵括弧は見たくないです。


2018 4/23

【tips】を追加しました。


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