まずは町に向かうか
ブチッ!
ボクの首にアースウルフが噛みついたことで、首に嵌められてた首輪がちぎれ落ちた。
「ふっふっふ……」
思わずボクは含み笑いをしてしまった。これで、あいつらもボクが死んだと思ってくれるはずだからな。
首筋に食いついたままのアースウルフの腹部に右手を当てて呟く。
「……飛べ」
それだけで、風の塊が魔物を吹き呼ばした。アースウルフは空中で体勢を立て直して足から着地してるけど、これはボクの射程範囲内。
「切り裂け」
真空波が巻き起こり、アースウルフを切り刻んだ。あ、こうなると毛皮がボロボロ。まずった。
ま、まあ、今は生き延びるのが先決だしね。ボクは自分を納得させると、とりあえず着替えることにした。
「まったく。ボクにあんな重いの持たせるなんて、間違ってるったらありゃしない」
学ラン、マフラー、サングラス、手袋、革靴。こっちに来たときから身に付けていた服と、ついでにウィッグもはずして物置に収納する。
「……これもさ。普通は『空間収納』とか、『無限収納』とかって名称になりそうなもんだよね」
なぜか、名称『物置』だよ。まあ、この世界に来たときから持ってた能力で、こっちに来たときに持ってた荷物、全部こんなかに入ってくれてたんで助かったけどね。
お陰で、持ってた宝石を魔石に変換できたから高値で売れたし、そのお金で旅装も武器も買えたし。
綿のシャツの上に、丈夫な蒼い麻の外套。おなじく丈夫な薄茶色の麻のズボンに濃茶のブーツ。キツく編み上げていた白髪をゆるいみつあみにして、腰には小剣を左右に一振りずつ。
そして、空を見上げる。
「まあ、この世界に召喚されてよかったのは、アルビノのボクが、なんの対策もなしに日の下にいられるってことかな」
白髪、赤目、白い肌。生まれつきの遺伝子異常により、色素を持たずに生まれて、昼間出掛けるときは夏でも重装備ってけっこうきつかったからね。まあ、理解のある学校に通えてたのはよかったと思うけど。友人もできてたし。
……友人、か。あの二人はどうしてるだろう……。ボクのことを捜してるかな。特に、片方にはかなり執着されてたし。
まあ、そっちはいいとして。心配なのは、もう一人の方かな。なにしろ、ボクが飛ばされたとき、その場にいたから。もし、巻き込まれてこの世界に来てたり、それで危険な目にあってたりしたら……。ボクは自分を赦せないかも!
「とりあえず、町を目指そっか」
ここで考えてても始まらない。まずはさっきの騎士さんが言ってた、近くの町に行こう。
町までの通り道に、魔物も人も居ないのを能力で確認。さて、飛ばそっかな。……全力で走らずとも、町までは一分もかからないしね。