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狐幻丸、ここに!  作者: 赤き狐
第一幕【最強の忍】
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開戦 弐

「さて、残っているのはお主だけ……じっくり話を聞かせてもらうでござるよ」

 いつも通りの口調で淡々と言ってはいるが、ソレが何を意味するのか…忍に解らない筈はない。

「くっ……無念っ!!」

 饗談は持っていたクナイを大きく振りかぶると自分の心臓めがけて

「させるかってーの!」

 狸鼓が腕ごとクナイを蹴り飛ばした。

同時に狐幻丸は当て身を喰らわせ、饗談の意識を奪っていた。

「拙者はこいつを連れていく、後始末は頼むでござるよ」

 狸鼓達にその場を任せると、狐幻丸は気絶した饗談を担いで里の中心に戻った。



「起きろ」

 ドザンッ!! と、やや乱暴に饗談を地面に降ろした。

「む…ぅ……?」

 饗談は首だけを動かして辺りと現状を確認する。

 全身縄でぐるぐる巻きにされていて身動きができなかった。

「さあ、話してもらうでござるよ……目的は?」

「………………………」

 饗談は何も話さない。


ベキ


「…………………っっ!?」

 何の予告も無く、躊躇いも無く、狐幻丸は饗談の指をへし折った。

「目的は?」

「………………っ」

 しかし饗談は何も話さない。

 ため息と共に、狐幻丸がまた指を折ろうとした時、

「どうだい? 兄貴」

「……いや、まだ何も」

 狸鼓が戻ってきた。

「ただ……」

 何か違和感があった。

(おとなし過ぎる……?)

 こいつは自決までしようとしていた筈だ。

 口を割らせる為に猿ぐつわ等はしていないから、その気になれば舌を噛むことだってできなくはないのだ。

 にもかかわらず、だんまりを決め込んでいる。

 いや、そもそも……侍の切腹じゃあるまいし、忍があんなに仰々しく自決をしようとするだろうか?

(……まさか)

 狐幻丸が一つの可能性を危惧した次の瞬間…


「終わった……のか?」


 狐幻丸の声がしたからか……屋敷の戸が開き、おずおずと穹姫が顔を覗かせた。

「ひ……姫!? まだっ!!」

 狐幻丸が叫んだと同時、饗談はくわっ! と眼を見開いた。

「やはり此処かぁ!!」

 叫ぶと同時に、縛っていた縄が切り裂かれた。

 身体は一通り調べて武器の類いは没収していた筈だったが……

(カラクリの……腕!?)

 腕の一部が変形しており、中には刃が仕込まれていた。

「死ねぇ!!」

「くっ!!」

 一瞬出遅れた。


 油断していた。

 こいつ等の目的は諜報などではない、暗殺だったのだ。

 恐らくは城に姫がいない事を知ったのだろう。


(間に……合えっ!!)

 手裏剣では駄目だ絶命までに一瞬の間ができる。

 姫を守るには一瞬すら与えずに絶命させなければならない。

 だが……ソレをするには敵まではあまりに遠すぎた。

(姫……っ!!)


「だーかーらー……」


「!?」


 饗談の前に人影が割り込んだ。

「させるかってーの!!」

「狸鼓!?」

 狸鼓の方が姫に近かった為、狐幻丸より先に饗談の前に立つ事ができた。


 だが、


(狸鼓……丸腰か!?)

 咄嗟の事態の所為か、狸鼓は武器を持っていなかった。

 いくら狸鼓でも素手でこの男を取り押さえる事は難しい。

 しかし、狸鼓は躊躇うことなく両手を広げ、姫の盾となった。

「な……!?」

 いや、違う。

 これで良いのだ。

 主を守る為に自分の身を犠牲にするなど当たり前ではないか。

 これで狐幻丸は間に合い、姫は救える。

(仇はとるぞ……狸鼓っ!!)


「っこの……餓鬼ぃ!!」

 饗談もコレで失敗するであろう事を悟ったのだろう……

 怒りを露にし、せめてコイツだけでも道連れにしてやろうと殺意を降り下ろす。



「だ」




「え?」




「だめじゃあああああああああああああ!!!!」




 穹姫の叫びがこだました。


 そんな事は意にも介さず降り下ろされた饗談の刃は……しかし空を斬った。


「…………………っ!?」


 次の瞬間、饗談は追いついた狐幻丸の手加減も慈悲も一片の情も無い渾身の一撃を喰らい、地べたに倒れ伏していた。

 饗談には何故空振ったのかを疑問に思う隙も……ましてや自分の命が奪われた事すら解らぬままだった。

「はぁ…はぁ……」

 不測の事態に珍しく息を乱していた狐幻丸だったが、ハッとすると。

「姫……無事でござるか!?」

 穹姫に駆け寄った。

「あ…ああ、うむ、妾は…大事無いが……」

「よかったでござる……」

 ほっと胸を撫で下ろすと、

「狸鼓、もう良いでござるよ? 何をしたのかは解らぬが、お陰で姫は無事でござる」

 狸鼓を呼んだ。


「…………………………………………………狸鼓?」


 待てど暮らせど、狸鼓は姿を現さなかった。

 周りの者も辺りを探してみたが、誰一人として狸鼓の痕跡すら見つけることはできなかった。







「………狸…鼓?」










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