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狐幻丸、ここに!  作者: 赤き狐
第一幕【最強の忍】
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開戦 壱

「我が殿からの伝令である、心して聞くが良い」

 使者は仰々しく告げると、文を読み始めた。

「我が軍門にくだるか、滅ぶか、二つに一つ。選べ」

「…………………………」

 それだけだった。

 交渉の余地など無い。

「期限は明日まで。よくよく考える事だ」

 それだけ告げると使者は去っていった。


「と…殿……!?」

「……おのれ、うつけめ……!」

 忠守は拳を床に打ち付けた。

 こんな忠守を見るのは初めてだった。

「再三にわたる話し合いの要請に応えぬばかりか、有無を言わせぬ降伏勧告……しかも明日までなどと……!!」

 既にうつけの軍は国境に陣を構えていた。

 はなっから戦をするつもりで来ているのだ。逃げる事すらかなわない。

「民は……?」

「はっ……陣をしかれる前におおよそ避難してはおりますが……わずかに残った者はもう……」

「……むう、本来ならば城に匿うべきなのだが……」

 うつけの大軍勢相手に守りきる自信はとても無い。

 であれば、城は袋小路も同然。城ごと焼き討ちにあう可能性も有るのだ。

「そちらは火具鎚の者達に任せよう」

 忍であれば抜け道も知っている筈だ。大々的な逃走は無理だろうが、少数ならば何とかなるだろう。

「殿…殿も……」

「言うな国重」

「しかし……!」

「この国を戦火にさらすばかりか民を守りきれずにおめおめ逃げ延びるなど……先代達に申し訳が立たぬわ」

「………………………っ」

「そのような顔をするな国重」

「……っ、しかしっ!」

「穹だけでも逃がすことができた……それで十分だ」

 本当に満足げな笑顔だった。

「殿……」

「それに、案外うつけの軍は見かけ倒しかもしれんぞ? わしらが勝ってしまうかもしれんしなぁ?」

 忠守は豪快に笑ってみせた。

 ソレが家臣を鼓舞するための強がりであることは誰の目にも明らかであった。

 だが……

「ふっ……そうですなぁ! この国重、老体に鞭打ち、うつけの若僧供に目にもの見せてやりますかな!!」

 国重も笑った。

「これこれ、あまり無理しますとまたぎっくり腰になりますぞ?」

「左様、ここは我等『若い』衆に任せて、茶でも飲んでいてくだされ」

「なんじゃと!? 誰だ!? 今言ったのはー!?」

「はっはっはっ!!」

 火楽の陣営には笑いが溢れていた。

 逃れられない滅びを前にしながら、しかし彼等には悲壮感など無かった。



「なりませぬ!!」

「ええーい!! 放さぬか!!」

 火具鎚の里に匿われた穹姫は荒れていた。

「放せと言うておるだろうがぁ!!」

「げふぅ!!」

 と言うか暴れていた。

「妾だけ逃げるなど、風見家の名折れじゃ!!」

「姫には生きてほしい、殿の御命令にございます!!」

「ふざけるな!! 妾とて風見家の生まれなれば、国と共に滅ぶ覚悟はできておるのじゃ!!」

「そのような事を軽々しく口にしてはなりませぬ!!」

「やかましい! 離せぇ……っ!! ……へぶぁっ!?」

 急に手を離され、穹姫は顔面から地面に突っ込んだ。

「きゅっ急に離す奴があるかぁ!!」

 穹姫は激昂した……が、狐幻丸は穹姫を見ていなかった。

 何処か遠くを見て……と言うか感じている。

 その表情はいつぞやの戦いの時と同じような……いや、あの時よりも険しく、殺気立っていく。

「こげん……まる?」

 さすがの穹姫もその表情から何かを察したのか、おっかなびっくり話しかけてみる。

「姫、どうか屋敷に戻ってくだされ」

「あ、う、分かっ……た」

 その凄みに気圧され、穹姫は怒りも忘れて素直に従った。

「かたじけない……誰か、姫を頼むでござる」

 一人付け人を呼ぶと、狐幻丸は音も無く何処かへ行ってしまった。



「……っ!?」

 いち速く駆けつけたのはやはり狐幻丸だった。

「結界を抜けてきたでござるか…」

 目の前……里の入り口には見慣れぬ集団がいた。

「うつけの忍……か?」

「左様……我等は『饗談(きょうだん)』」

 堂々と名乗った。

 だが、こいつ等が名乗ったのは綺羅のような武士道とかではない。


 死人に口無し。


 此処で我等を全滅させるという宣言の様なものだった。

「饗談……か、諜報が主だと聞いていたが…」

「間違いでは無い……が、諜報中に戦闘になる事も無いでは無いからな。現に、今も情報収集に来ただけだったのだが……こうも早く気取られるとはな」

 ざっと見た感じでも二十人はいた。これだけの人数で諜報に来ただけとは到底思えない。

「あわよくば、そのまま里を落とす腹だったのでござろう?」

「……ふ」

 その笑みを狐幻丸は肯定と受け取った。

「だが、そう易々と……ここを通す訳にはいかぬでござるよ」

 狐幻丸は構えた。

「貴様一人で我等を相手にするつもりか?」

 饗談も臨戦態勢に入った。

「なに……すぐに応援も駆けつけるだろうし、そうでなくとも……」

 ……キン──と、小太刀を抜いた。

「お主等程度なら訳は無いさ」




「兄貴!?」

 少し遅れて狸鼓達が到着した。

 が、どうやら出番は無さそうだった。

「くっ……これ程……とは」

 狐幻丸を中心に、辺りには十数人の饗談達が倒れ伏していた。

「さすが兄貴……」

 饗談達も決して弱い訳ではない。何よりこの人数。

 一人一人が並の忍だったとしても二十人を一度に相手にできる者などそうはいないのだ。

 ……が、狐幻丸は最強と謳われている火具鎚忍軍の中でも次期当主とも噂されている忍だ。

「相手が悪かったでござるな」

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