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狐幻丸、ここに!  作者: 赤き狐
第一幕【最強の忍】
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火具鎚忍軍 漆

 甘かった……(たぶん)何不自由無く生きてきた自分とはあまりにも住んでいる世界が違いすぎる。

 忍の世界がどのようなものなのか想像したことは何度もある。それはそれは厳しい世界を想像したのだ。

 だが、今の一戦はその全てを軽く凌駕してしまった。

 自分が今まで垣間見てきた忍の世界など、ほんの上澄みに過ぎなかったのだ。

 こんな自分が……傍にいたい等とは

「……おこがましいにも……程があるというものじゃ……」

 自嘲気味にこぼれたその言葉は誰の耳にも届くことはなかった。


「殺ったのか?」

「いや、生きてるでござろう」

 特に殺す気も無かったが手加減をしたつもりも無い、生きているのは敵忍がそれだけ強敵だったからだ。

「できればこのまま捕らえて尋問したいところでござるが……」

「!?」

 狐幻丸は不意に一本の木の上に視線を向け、

「そうさせてはくれぬでござろうなぁ?」

 尋ねた。

「え……あ!?」

 視線の先にはもう一人忍が立っていた。

「……いつの間に」

「お主はこの者の仲間でござるか?」

「ああ」

 もう一人の敵忍はあっさり認めた。

「だが、勘違いするな」

「?」

「お前達と事を構えるつもりは無い」

 敵忍は掌で制止をした。

「仕掛けてきておいて争う気は無い……と?」

「そうだ、今回の事はその馬鹿の独断だ」

 ごく自然に言い放った。

 今回の一騎討ちといい、恐らく普段からこの馬鹿は馬鹿みたいな行動をしているに違いない。

 まあ、それに付き合った狐幻丸も大概ではあるのだが。

「そんな馬鹿でも一応仲間なんでな、連れて帰らねばならないんだが」

「そうは行くか、貴様等はうつけの手の者だろ? ならば一人でも減らしておいた方が多少なりとも勝ち目は上がると言うものだ」

 先導忍は戦闘態勢に入るが、

「いや、我々はうつけとは何の関係も無い」

 敵忍は即座に否定した。

「あ?」

「関係無いのに何故戦いを挑んできたのでござるか?」

「何せ馬鹿なんでな……うつけが火楽に攻め入ると聞き、そのまま火楽が落とされれば火具鎚は滅びるだろうと……そうなっては最強の称号は永劫火具鎚の物になってしまう……ならばその前に戦っておきたい……と、飛び出して行ってしまったのだ」


「…………………………」


 先導忍も呆気にとられていた。

 想像以上にアレな奴だった。

 と、その隙をついて敵忍は馬鹿の傍に降り、馬鹿を抱える。

(速い──)

 呆気にとられていたとは言え、狐幻丸が一瞬見失ったほどだ。

 馬鹿を担いだまま、敵忍はもとの位置に戻る。

 人一人を抱えているとは思えぬ身のこなしだった。

(この者も相当な手練れでござるな)

「では、これにて失礼させてもらう」

 敵忍は立ち去ろうとしたが、

「待つでござる」

 狐幻丸が呼び止めた。

(……やはり避けられぬか)

 敵忍は身構える……が、

「その者の名を教えてはもらえぬか?」

 狐幻丸から発せられたのは意外な言葉だった。

「…………」

 忍がそう易々と名を明かすものではないし、何より当の本人は気絶しているのだが……

「一応、立ち合いは拙者の勝ちでござるからな、それぐらいは良かろう?」

「……飯綱(いづな)忍軍頭領『綺羅(きら)』」

「は!?」

「……火具鎚に加護を」

 それだけ告げると、敵忍は姿を消した。


「…………………………」


 後に残された忍二人はまたしても呆気にとられていた。


「あれが……頭領~!?」



 殿と姫を無事に送り届けた後、狐幻丸は親方に経緯を伝えていた。

「飯綱忍軍か……噂では聞いたことはあったが、相対するのは初めてだな」

「はっ、連れも含めてなかなかの手練れでござった」

「しかも『五行』まで使えたか」

「起源を辿れば案外我等と同じ流派やも知れませぬな?」

「ふむ……判った、今日はもう休んで良いぞ」

「承知したでござる」

 座ったまま深く一礼すると、狐幻丸は部屋を後にした。


「…………狸鼓」


 部屋を出てしばらく廊下を歩いていた狐幻丸は不意に天井に声をかける。

「…………………………」

 しばらくの静寂の後、

「ちぇっ……バレバレか」

 バツが悪そうに狸鼓が天井から降りてきた。

「盗み聞きとは趣味が悪いでござるよ」

「修行の一環だよ」

 悪びれもせず、狸鼓はケラケラと笑った。

「全く……親方にもバレバレでござったぞ?」

 狐幻丸もとくに咎めることなく狸鼓の頭をポスポス叩いた。

「…………なあ、兄貴」

「ん?」

「オレはいつ五行使えるようになるかな?」

「む……」

 こればかりは狐幻丸にも明確な答えは出せなかった。

 なにせ四十 五十を過ぎても使えない者もいれば……

「兄貴は十才だろ?」

「ああ、任務中でござったな……突然目覚めたでござるが」

 五行の覚醒には個人差があるのだ。

「オレはもう十三なのに……まだ」

「こればかりは焦っても仕方無いでござる」

 今度は優しく狸鼓の頭を撫でた。

「お主は同世代の中では優秀でござるよ」

「………ちぇ~」

 不満を漏らしながらも、狸鼓は何処と無く嬉しそうだった

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