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狐幻丸、ここに!  作者: 赤き狐
第一幕【最強の忍】
65/68

格の違い 壱

「っ……影縛り!」

 手裏剣等によって相手の影を地面に縫い付けて動きを封じる術。

「コレができるってことは、やっぱりテメェも……」

 阿綺はそんな非科学的な技を使う者達を知っている。


「忍か!?」


 そう、自分達『忍』だ。


 ソイツは何も答えなかったが、阿綺の降御雨の下に晒されて案の定無傷である事は、阿綺に確証を持たせるのに十分であった。


 阿綺達の衆は既に、所謂殺し屋などと呼ばれている有象無象の集団と比べても圧倒的な力を有していた。

 にも関わらず、衆の者は研鑽を辞めたりはしない。

 当たり前と言えば当たり前かもしれないが、それにしたって……である。

 何せ奴等は商売敵ですらないのだ。

 その気になればいつでも一掃できる。

 そんな奴等を相手に、日常生活を犠牲にしてまでこれ以上技を、身体を磨く事に意味は有るのかと思った者もいる。

 その度に長代理は、


「奴等は必ず現れる」


 と、言い続けてきた。

 阿綺とて、長代理を尊敬していたし、己を磨く事に疑問は抱かなかったとは言え、その言葉には懐疑的であった。


 自分達は既に最強である。敵などいない。


 そう思っていた所に現れたのがこの男だった。

 阿綺はようやく長代理が言っていた事を理解する。

(コイツだ……コイツ()こそ、俺達の『敵』だ!)

 忍の敵は忍だった。

 何故今まで遭遇する事がなかったのか?

 ソレはコイツ等が自分達以上に隠密に長けていたからに違いない。

 認め難い事だった。

 戦闘力においても情報力においても自分達以上の者がいてはいけないのだ。


(だが……)


 悔しいが、阿綺一人では勝ち目は無いし、任務が第一だ。

(佳苗は仕留めた。後は何とか切り抜けて月夜を……)

 チラっと佳苗の亡骸を確認した阿綺はソコで眼を疑った。

「…………あぁ!?」

 佳苗は奴に気絶させられ身動きができない状態だった。

 その状態で降御雨を喰らえば疑いようも無く佳苗は針ネズミの如き有様になる筈だ。

 にも関わらず。

 佳苗には一本たりとも針が刺さってはいないのだ。

 血の一滴はおろか、切り傷擦り傷の一つも確認できない。

「あ、有り得ねぇ!」

 いくら目の前の相手がとてつもない手練だったとしても、あの針の雨を数メートルも離れた位置から、しかも自らも傷一つ負わずに守りきるなんて事が可能なのか!? いや、できる筈が無い。


 一方、阿綺の敵の忍──狐幻丸は感心していた。

 先程も言った通り、狐幻丸と渡り合うにはまだ修行が足りないと言えるが、阿綺の動きの一つ一つ。使う技。

 その全てがこれまでこの時代で見てきた者達とは一線を画していたからだ。

 阿綺の動きには古来より脈々と受け継がれ、洗練されてきた重みと流麗さがあった。

(この者は……忍だ!)

 忍者(笑)ではない。

 本物の忍。


 この時代にも忍がいた。


 それは狐幻丸に一握の希望を抱かせた。

 捨てた筈の、過去への……


 だが、狐幻丸とて忍。

 己の感情よりも優先すべき事は理解している。

 改めて阿綺と向かい合う。

「ふむ……今の技、仕組みは単純なれど、確かに全てを躱し、その上でその者を守るのは骨でござるな」

 できない訳ではないらしい。

「ただ、今の場合……躱す必要すら無かったでござるが」

「どういう意味だ!?」

 自分の技が躱すまでもない取るに足らない技とでも!? 阿綺の狼狽と怒りを感じ取った狐幻丸は少し考えた後、指をパチンと鳴らした。


 余談ではあるが、この指パッチンはテレビで観た時からいつかやってみたいと思っていたのである。

(今がその時!)


 それはさておき──指を鳴らした直後、狐幻丸と倒れている佳苗の姿が大きく揺らいだ。

「!?」

 そして阿綺の見ている前で溶けるように消えてしまった。

「消え……幻術か!?」

 忍の使う術の一つに幻術というものがある。

 要は催眠術をかけて相手に無いモノを見せる術だ。

 阿綺も実際に喰らったことは無いのだが、知識としては頭にあった。

 そして、実際の狐幻丸達は阿綺が見ていた幻の数メートル先にいた。

「少し違うでござるが……」

 狐幻丸が使ったのは蜃気楼だ。

 熱によって光を屈折させ、阿綺から見た狐幻丸達までの距離にズレを生じさせたのである。

「くっ……いつかけられた!?」

 幻術をかけられたのだと誤認している阿綺は天穴針を手にする。

 幻術の最も簡単な解除方法は痛み等のショックを与えることである。

 意を決し、自分の腕に刺そうとした瞬間、

「あいや、待たれよ」

 狐幻丸はクナイを投げて阿綺の手の天穴針を弾いた。

「痛っ……何だ!? 幻術じゃ……ない!?」

 その痛みから、自分が幻術にかかっている訳ではないのだとすぐに気づいた阿綺だったが、ソレならば先程の幻は何なのか……と、新たな疑問が湧いてきて尚も混乱する。

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