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狐幻丸、ここに!  作者: 赤き狐
第一幕【最強の忍】
64/68

真の敵 拾壱

()った!)

 阿綺の脳裏には天穴針に貫かれ、膝から崩れ落ちるソイツの姿がハッキリとイメージできた。

(身体の能力の差が戦力の決定的な差では無いと言うことを……思い知れ!)

 マスクを付けた赤い誰かの台詞を彷彿とさせる言葉を阿綺は心の中で叫ぶ。

 男なら一度は言ってみたい台詞だろう。

 だが、事実。

 どんなに屈強な男だろうと、不意さえつければ子供でも殺すことは可能だ。

 強い力を持つ者が勝つのではない、弱くとも確実に当てられる者が勝つのだ。

「コレが例の針でござるか……だが」

 阿綺はギョッとした。

 ソイツの眼は、高速で……いや、音速と言っても過言ではない……飛来する針をしっかりと捉えていたのだから。

 そんなことができるのは衆の中でもトップ中のトップ……三〜四人しかいないだろう。

 しかも避けようともせず、ソイツはいつの間にか手にしていたクナイで容易く針を弾いた。

(かかった!)

 針に反応できていた事には驚いたが、実は正面に投げた針は囮である。

 まあ、当たるに越した事は無いが、阿綺の本命は別にあった。

 正面から針を投げると同時、相手からは見えない背中越しにもう一本の針を飛ばしていたのだ。

 その針は部屋の壁を反射して反射して、相手の後ろへと回り込み、無防備な首筋めがけて飛び、


キィン──!


 弾かれた。

「……………………………………………………はあ!?」

 阿綺は一瞬、何があったのか理解ができなかった。

 間違い無く命中すると思った必殺の一撃は、しかし奴の首筋に到達する前に空中で火花を散らして落ちた。


 奴が最初に弾いた一本目の針に当たって。


 たまたま!? そう思いたい阿綺だったが、

「当たらなければどうという事は無いでござる」

 マスクを付けた赤い誰かが言っていたような台詞によって、ソレが偶然では無いのだと悟った。

「嘘だ……!? 初見で俺の影飛針(かげひばり)を見切れる筈が無え!」

 ましてや、自分の攻撃を逆に利用しての……である。

 衆の中でもそんな事ができる者がいるだろうか?

(いや、長代理ならできる……できる筈だ!)

 できてもらわなければ困る。

 ソレは確信でも信頼でもなく、願望。

 阿綺が生まれてからずっと信頼し、憧れてきた最強の人物が何処の誰とも知れぬポッと出の奴に劣るなどと言う事があってはならないのだ。

「中々の腕でござるな……あと十年も修行すれば一人前になろう」

 純粋な称賛に、しかし阿綺は、

「……十年? 一人前?」

 怒鳴りそうになる。

(何様のつもりだ!? 俺はとっくに一人前だ!)

 しかし、そう言えないのは目の前の男の未だ底知れぬ強さにあった。

 奴の動きも見えず、自慢の天穴針も影飛針も、全て軽くあしらわれてしまっている。

 そんな阿綺が「一人前だ」と吠えた所で何の説得力も無いだろう。

(コイツには勝てそうも無えってのは解った……けどよぉ!)

 阿綺は両手の指の隙間全てに持てるだけ天穴針を持つと、

「勝利条件はテメェに勝つことじゃねぇ!」

 ソレ等全てを続けざまに天井に向けて放った。

「む!?」

 阿綺の秘技『降御雨(ふるみさめ)』。

 原理は影飛針と同じ跳弾ならぬ跳針を利用しての多角的な攻撃だが、その数が尋常ではない。

 その本数はおよそ千本以上。

 これ程の数を一気に投げるとなると影飛針のように上下左右に跳針させてピンポイントで狙うことはできない為、全ての針を天井に投げた後、真下に跳針させる。

 ソレはさながら、針の雨……細かい狙いは必要無く、その範囲に在る全てを蜂の巣ならぬ針ネズミへと変える狂気の雨である。

「どうせテメェは避けるんだろうが……俺の目的はテメェじゃねぇ! 仕事を果たせば俺の勝ちだ!」

 阿綺の仕事、ソレは


 月夜の暗殺。


 そして佳苗の口封じ。


 奴には躱されるだろうが、足止めにはなる筈だ。

 そうなれば倒れている佳苗は(起きていたところで変わらないが)なす術も無く針の餌食となるだろう。

 その瞬間に窓から飛び出し、月夜を追う。

 かなりの時間が経っているが、依頼者は始末した後なので別に焦る必要は無い。

 月夜を殺るのはあくまで面子の為……特に必要は無いのだが、与えられた任務である以上は遂行せねばならない。

 敵に背を向けるのは業腹だが、私怨に拘って任務を放棄するなど、それこそ長代理に顔向けできなくなる。


カカカカカカカカカカカカカカカカ──!


 無数の針が床や机に突き刺さっていく。

「良し!」

 阿綺はすかさず飛び退いて窓に──


「────!?」


 いや、飛べなかった。

「なっ……何だ!?」

 まるで縫い付けられたように、足が床から離れない。

「はっ!」

 阿綺はすぐに辺りを見回し、自分の影を探した。

 窓から差す月明かりによって伸びた阿綺の影……その影には阿綺の予想通り、一本のクナイが刺さっていた。

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