表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狐幻丸、ここに!  作者: 赤き狐
第一幕【最強の忍】
63/68

真の敵 拾

 その時、佳苗の脳裏にあの男の声が響いた。


 催眠、偽装、事故、毒殺、暗殺──


 ソレは最初に男が提示した商品(・・)


「……あ……!?」


 そこで佳苗は気づいた。


「さ……い……みん……」


 少年は口の端を持ち上げてニヤリと笑った。

「ハハッ! 気づいたのか、少しはやるじゃねぇの!」

 いつの間に仕掛けられたのかはサッパリ判らない。

 いや、判らないからこその催眠か……佳苗がこうまであっさりと契約を交わしたのは……こうまで月夜達に憎しみを抱きだしたのは……

「そういう事だ。と言っても、完全に操ったって訳じゃねえぜ? ゼロからの傀儡化ってのは手間も時間もかかる……あいつがやったのはアンタが奥底に抱いていた憎しみを増幅させただけだ」

 増幅、と言うことはつまり

「解るか? アンタは元々そう思っていたって事だ」

 催眠はただのきっかけに過ぎない。

 日頃からそう思っていなければ感情を増幅したところで行動には起こさなかった筈なのだから。

「遅かれ早かれ、アンタの辿る道は同じ……この結果も自業自得ってやつだ」

 佳苗は己の薄汚さを呪う。

 妬み、憎んで、(本職とは言え)他人に手を汚させる。


 最低な人間だ。


 ソレを自覚しながらも、


「いや……死にたく……ない」


 なお生にしがみつく。

 ソレがまた、己のさもしさを浮き彫りにさせ、佳苗はどうしようもなく涙を零す。


「いいや、死ね」


 佳苗のそんな感情を知ってか知らずか……そんな事には興味は無いとばかりに少年は冷酷に、あっさりと告げる。


「────っ」


 少年の手が振り下ろされ、佳苗は眼を閉じ──



「全くもってその通りでござるな」



「!?」

 背後からの声に少年は瞬時に飛び退き、佳苗の前(盾にできる位置)に着地した。

「────?」

 ぎゅっと眼を閉じた佳苗だったが、何も起こらない事を訝しみ、恐る恐る眼を開ける……と、

「ひっ!?」

 目の前には先程までとは比べものにならない程の殺気を帯びた少年の顔があった。

 だが、少年は佳苗など見てはいない。

 その後ろにいる誰かを睨んでいた。

「??!?」

 振り返ろうとするも、天穴針による金縛りによってソレは叶わなかった。

 一瞬声がしたような気もするが、生死の刹那だった所為もあり、よく分からない。

「誰だ……テメェ」

 少年は怒気を孕んだ声を佳苗の背後に投げかける。

 そこには何時、何処から入ったのか、壁に寄りかかって腕を組んだ男がいた。


 見た目は少年──阿綺(あき)と同じか、少し年上と言ったところか。

 ただ、口元だけをマフラーの様に長い布で覆っており、(見る人が見れば判るのだろうが)正体を隠そうという意図が明確に感じられた。

(何だコイツは!? 何処から現れた!?)

 表にこそ出さなかったが、阿綺は内心動揺していた。

 佳苗からしてみたら自分もそういう登場をしていた事など棚に上げ、阿綺は不可解な状況に焦る。

 いや、阿綺だからこその動揺と言えるのかもしれない。

 何せ、そういう事(・・・・・)ができるのは自分達だけだと思っていたのだから。

 世間に溢れているような普通(・・)の殺し屋共とは違う。


 本物の『裏』──


 だと言うのに……

(俺が気づかなかった……あまつさえ、後ろを取られたぁ!?)

 ソレはつまり、奴がその気だったならば何時でも殺れたという事だ。

(ありえねぇ! 俺は『衆』の中でもトップテンに入るんだぞ!)

 間違っても一般人(・・・)になど遅れを取って良い訳が無いのだ。

 そこまで考えて、

「……テメェも同類か?」

 阿綺はソイツも『裏』である可能性に行き当たった。

「ふむ……」

 ソイツは少し考える素振りを見せると、佳苗の後ろに移動し、腕を振るった。

「っ!?」

 何が起きたのか理解する間も、声を上げる間も無く、佳苗はその場に崩れ落ちた。

 そして、ソレは阿綺にとっても同じだった。

 阿綺にはソイツが何をしたのか……は解っても、目で追う事が全くできなかったのだ。

 反応する事も、阻止する事もできず、気づいた時には佳苗は崩れ落ちていた。

(なん……だと……!?)

 ソレを見れば、否が応でも理解せざるを得ない。

(コイツは『裏』の人間だ。……しかも、俺よりも……)

 そこまで考えて、阿綺は残りの言葉を飲み込んだ。

 阿綺は自尊心が高く、自惚れがちな男ではあるが、馬鹿ではない。

 目の前の男と自分の力量の差は瞬時に理解した。

 だが、

(そんな事……死んでも認めてたまるか!)

 自分達こそが最強であるというプライドが退く事を許さなかった。

 阿綺が腕を微かに動かすと、上着の袖から極細の針──天穴針が僅かに顔を覗かせる。

 ソレを中指と薬指で摘むと、抜きざまに指のスナップだけでソイツに向けて射出した。

 ちなみに、今の動作が完了するまでに要した時間は〇,五秒にも満たない。

 頭に血が登り、多少なりとも冷静さを欠いた状態であっても阿綺の動きには一点の淀みも無い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ