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狐幻丸、ここに!  作者: 赤き狐
第一幕【最強の忍】
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真の敵 玖

「……あぁ!?」

 反省するどころか、少年の声は怒気を孕んだものに変わる。

「勘違いしてんなよ? オバサン!」

「オバ……!?」

 少年の声に一瞬気圧された佳苗だったが、オバサン呼ばわりにカチンときたのか、反射的に平手打ちしようと腕を振り上げた。

「──!?」

 だが、その手を振り下ろすことはできなかった。

「あ……何……で……!?」

 佳苗は振り上げた手を降ろそうとするが、降ろせないばかりか、一歩も動けないし、声すらまともに出せなかった。

「良いか? オバサン。俺等は別にアンタの部下じゃねぇんだ。ただ金払いが良いから俺等のパトロンとして使えるかも……ってだけなんだよ」

 少年はそのパトロンに向かって、臆面もなく言い放つ。

「だが、ソレも今日までだ。こうなっちまったらアンタにはもう期待はできねぇ。一応、前回の失敗が有るから受けてやるが、コレで終いだ」

 少年は佳苗の眼前で細い細い針をヒラヒラさせた。

(針……コレが……天穴……針とか言う!?)

 何処をいつの間に射たれたのか、佳苗は全く気づけなかったが、おそらく今佳苗が体験しているものこそが麻昼を仮死状態にした技の一端なのだろう。

「……で、だ」

 針をピタッと止めると、先程までの怒りの表情が途端に消え、少年は眼を細めた。

「仕事は仕事としてやるとして、問題はその後だ」

「あ……と……?」

 佳苗は俄然、嫌な予感がしてきた。

「そう、依頼は達成するが、アンタは捕まる。俺等はアンタとは手を切る訳だが、捕まったアンタから俺等の事が漏れるのは良くない訳よ」

 少年は動けない佳苗の背後にゆっくりと回る。

「ま……って……」

「アンタが言わないって保証が有るんなら良かったんだけどな……残念ながらアンタは喋る」

「い……わな……い」

「邪魔だから、気に入らないからってだけで安易に暗殺を考えるアンタならきっと喋る」

「ソレ……は……あんた……達が」

 佳苗は必死に言い訳をする。

「俺等はあくまで『こういう事もできますよ』って提案しただけだ。実際に暗殺を決めたのはアンタ自身だ」

 ソレは紛れも無い事実。

 事実ではあるが、佳苗はなにも最初から暗殺だの死の偽装だのと物騒な考えを持っていたわけではない。

 ある日突然、見知らぬ男が接触してきたのだ。

 あからさまに怪しく、佳苗も話を聞くつもりは無かったのだが、その男は佳苗の心情を見抜いていた。


 このままでは後継者は陽向に決まる。

 陽向が辞退、いなくなったとしても麻昼が選ばれる事は無い。

 月夜にその気は無くとも周りが月夜を奉り上げる。

 ならば佳苗は何の為に?

 麻昼は?


 そこで男は言ってきたのだ「ちなみに、私共はこのような事もできますが?」と……

 催眠、偽装、事故、毒殺、暗殺──まるで新作のバッグでも勧められるように……ソレは本当に当たり前の様に、何でもない事の様に告げられた。

 そしてその言葉は佳苗にストンとハマった。

「あ…………じゃあ、ソレ……で……」

 そんな風に言われたものだから、佳苗も「ソレいただこうかしら?」と、オススメ商品を買うが如く気軽に答えてしまった。


 ソレが泥沼への第一歩だったとも知らずに。


 鮮明な夢でも見ていたように、現実感が湧かなかった佳苗だったが、数日後、実際に月夜が事故に巻き込まれたと知り、自分の交わした契約が真実であったのだと急速に実感する事になる。

 ただ、ソレは何故か(・・・)失敗に終わった。

 終わったのだが、佳苗の心に修羅が生まれた瞬間でもあった。

 あの場で気軽に交わした契約で、こんなにも簡単に(失敗したが)人が死ぬのだと。

 佳苗はその事実に恐れるどころか、高揚感に包まれる。


 自分の一言であの子供達の生死が決まる。


 生殺与奪の優越感。


 そして失敗した事に対する雪辱。


 元々、月夜達のことは好意的に見てはいなかったのだが、そこから佳苗は何かに取り憑かれたかのように月夜と陽向に対して私怨を抱くようになった。

 佳苗はすぐに男と連絡をとり、月夜の暗殺が失敗した事に対して詰め寄ったが

「急いては事を仕損じると言います。しばらくは様子を見た方が良いでしょう」

 と、取り合ってはくれなかった。

 そんな悠長にしていて良いのか? ならばと、佳苗は今まで大して使ってはこなかった自分のコミュニティを最大限駆使し始めた。

 佳苗とて、殺し屋等という職業はフィクションの中だけにしか存在しないと思っていたのだ。

 が、こうして目の前にいると判ったからには、他にもいると考えるのは当然と言えば当然である。

 果たして、他の組織とコンタクトを取ることに成功した。

 そうして佳苗はずるずると、転げ落ちるが如く、外道に手を染めていく事になったのだが……その企みは悉く失敗に終わる事となる。

 今にして思う、自分は何故こんなにも憎しみを抱いていたのか、焦っていたのか……と。

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