火具鎚忍軍 陸
「紫電一閃か……確かに、出し惜しみしていたら殺られていたやもしれぬな」
敵忍が貫いた場所から少し離れた場所に狐幻丸が立っていた。
「されど、今の一撃で仕留められなんだは致命的でござったな……もう今の技は喰らわぬ」
「だろうな……」
いかに速かろうと一直線に突っ込んで突くだけの技など一流の忍ならば対処できる。知っていれば。
故に紫電一閃は一撃必倒を義務付けられた技なのだ。
「まあ、おかげで火具鎚の技を一つ見れた……おあいこだ」
「ふむ…確かに」
出さざるを得なかったとは言え、まんまと技を見せてしまった。
「では、そちらにもう一つ見せてもらうとしよう」
狐幻丸は少し距離をとると少し腰を落とし、構える。
「『陽炎』」
敵忍に向けて突進する。
「笑止! 似たような技で紫電一閃を上回れるとでも思っているのか!?」
「似ているのはここまででござるよ」
言葉と同時、狐幻丸は右に左にステップをする。
「ふ……その程度の攪乱!」
敵忍はカウンターを狙う…が……
左右のステップは更に加速、狐幻丸の姿が先ほどのように揺らぐ。
「お……!?」
その姿が二人にも三人にも見え、更に距離感も狂っていき
「ご……っ!?」
狐幻丸の蹴りが敵忍の側頭部に直撃した。
(何処から来たのか……判らなかった!?)
蹴りの出所が判らないばかりか、攻撃の体勢に入ったことすら気づかなかった。
「くっ」
敵忍は吹っ飛んだ勢いのまま転がり距離をとると、素早く身を起こし、
「はっはっ……!! 驚いたぞ!!」
声を上げて笑った。
「まともに喰らってしまったが……見えてきたぞ、貴様の技が」
「ほう…」
「まあ、『火』具鎚と言うのだから、おおよその検討はついていたが、こういう使い方もあるとはな」
実は狐幻丸がやったのは先刻の稽古で狸鼓がやった技と(練度こそ違うが)同じ技である。
だが、ここまで差がある訳は……
「蜃気楼……だな?」
火具鎚の里の由来ともなった秘術 『火具鎚』とはその名の通り、火を操る術である。
だが、焼き討ちでもするならいざ知らず…ただ火を出して投げつけたところで大して有効な攻撃にはならないのだ。
何故なら火には質量が無い。熱くはあっても痛くはない。
一応、拳や蹴りや手裏剣に纏わせることは可能だが、(知らない人間なら威しにはなるだろうが)ぶっちゃけ火無しと威力は大差無い。
ならばどう使うのか?
その答えの一つが生み出した熱による『蜃気楼』である。
何も無い所に己の姿を投影+狐幻丸の身体能力によって、二重三重に相手を惑わせるのだ。
タネがバレようが、コレに即座に対応するのは容易な事ではない。
「さあ、コレをどう破るでござる?」
「ふ……そうだな」
敵忍は再び印を結び
「こんなのはどうだ!!」
両腕を振るう。
「『紫電樹』!!」
両腕 全指から雷の枝が伸び、拡がる。
「なるほど……」
「蜃気楼で多少位置を誤魔化そうが!!」
周囲全てをなぎはらってしまえば関係無い。
「さあ! どうする!?」
「こうするでござる!」
狐幻丸は両手にクナイを持つと、敵忍…にではなく、敵忍を避けるように投げつけた。
「何処を狙って……!?」
訝しんだ敵忍だったが、答えはすぐに出た。
「あ゛!?」
両手から発している雷が全てクナイに引き寄せられてしまったのだ。
「雷は高い所や『金属』に引き寄せられるものでござる」
もっとも、雷が飛んでいくクナイに引き寄せられている時間などほんの一瞬である……が、一流の忍……特に狐幻丸はその一瞬に反応する。
「『紅蓮陽炎』!!」
一瞬で辺りは炎の海と化し、その中を炎を纏いながら狐幻丸が突っ切ってくる。
「これが……!?」
幾人もの炎の狐幻丸が敵忍に同時に蹴りを放ち
(本当の火具鎚か!?)
通り過ぎると同時に……辺りの炎は幻であったかのように消え、後には立ち尽くす二つの影。
「……ふ…ふ…これが火具鎚忍軍…か……」
そのまま、敵忍は膝から崩れ落ちた。
「…………お…おお……!」
穹姫は驚嘆の声を漏らす。
今観たものが現実のものだと信じられなかった。
「……ひはい…」
自分の頬をつねってみた。
やはり痛い……夢ではないようだ。
これが忍………いや、狐幻丸の戦いなのだ。