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狐幻丸、ここに!  作者: 赤き狐
第一幕【最強の忍】
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真の敵 陸

「別の奴等……ですか?」

「ああ、実は依頼人の目的は俺だったんだ」

 依頼をするふりをしておいて実は商売敵を潰してしまおうという事は珍しく無い。

「そ、それで……?」

 ヤンは息を飲んで先を促す。

 ボスに対する態度ではない、と長髪幹部がヤンを軽く叩く……が、先が気になるのは長髪幹部も同様……黙ってボスが話すのを待つ。

 まあ、目の前にこうしてボスがいるのだから、無事だったという事は言うまでもないのだが……

「さすがに多勢に無勢……俺は死を覚悟したんだが、奴等にとって、()は完全に想定外だったようだ……」

 ボスはニヤリと笑った。



「何だ!? 貴様等!」

 殺し屋の男──リウォは突入してきた男達に向かって叫ぶ。

 だが、男達は聞く耳を持たず、ナイフを構えて近づいて来る。

(くっ……最初から俺が目的だったな!?)

 リウォは己の迂闊さに舌打ちした。

 恐らくこの依頼は罠だ。リウォを誘き出すのが目的だったのだ。

(通りで……こんな家族が標的になるなんておかしいと思ったぜ)

 内容なんてどうでも良かったのだ。

 そして、巻き込まれた家族がどうなるか……ソレもどうでも良かったのだ。

(いや、もしかしたら依頼自体は本当に有ったのかもしれないな。ただ、俺の始末が最優先……家族はついでに始末できたらそれで良し……と言ったところか)

 失敗しても構わない様な依頼だったに違いない。

(そうなると)

 リウォは白い獣を見た。

(コイツは俺を始末する為に用意した殺し屋と言う訳か)

 これまたおかしいと思ったのだ。

 こんな何の変哲も無い、多少裕福なだけの家にこんな化物が居るなんて。

(何処から引っ張ってきたんだか知らないが……まあ、そうだな)

 この()に及んで、リウォは何だか笑えてきた。

(俺を始末するのにはこれ程の化物が必要なのだと思われていた……って事で、光栄だと思っておくか)

 リウォは腹を括った。

 こうなったら一人でも多くの敵を道連れにしてやる。

 いや、どうせならこの白い獣の方が良いか……雑魚をいくら殺ったところであの世で自慢にもなるまい。

 リウォは突入してきた奴等を無視して、白い獣だけに集中する事に……

「オイ」

 しかし、白い獣はリウォを見てはいなかった。

 今突っ込めば一太刀くらいは入れられるかも知れないが、きっと気の所為だろう。

 白い獣は突入してきた奴等を睨んでいた。

 そして人数を確認し終えたのか、呆れたように肩を落とすと、


「……無粋ですね」


 一言漏らした。

 と同時に、リウォは眼を見開いた。

(お……女!?)

 その見た目からは想像もつかないような、低いが艷やかでしっとりとした声。

 小声で聞き取りづらかったが、確かに女の声だった。

 多分、美人。

(しかし信じられん……)

 白い獣の出で立ちは白い仮面に白い装束……そこまでは良い、しかし異様なのはその四肢に嵌められた巨大な鋼の手甲と脚甲だ。

 よもやアレを自在に振るうような化物が女である等と……誰が思うだろうか。

 唖然としているリウォを他所に、白い獣は歩を進める。

「お、おい……!?」

 戸惑うリウォの声を無視し、白い獣は新たな襲撃者達の中に躍り出る。

「何だコイツ!?」

「知らん! まとめて殺れ!」

 そんな声が聞こえてきた。

(奴等はコイツを知らない!?)

 てっきり奴等が用意した殺し屋かと思ったが、様子が違う。

 白い獣は奴等を殴り飛ばし、蹴り飛ばし、かと思えば四方八方から繰り出されるナイフを紙一重で躱し、いなし、奴等の間をすり抜け、また吹っ飛ばす。

 ソレは戦いと言うより、まるで演舞のようだった。

「……………………………………」

 リウォは自分の状況も忘れてその動きに魅入ってしまった。

 外から見ていると改めて格の違いというものが解る。

(コイツは……俺達とは違う所から来た奴だ)

 格闘技とか暗殺術とか、そういうのでは無い……今、目の前で繰り広げられているのは何と言うか……


芸術(アート)だ……!)


 リウォがその結論に辿り着いた時……時間にしてみれば僅か数分。

 あれだけいた襲撃者達は全て倒れ伏していた。

「ぐうう……」

「化……物……ぐぇ!」

 最後に呟いた者を(あの脚甲で)踏みつけ、白い獣は優雅に戻って来た。

「全員生きている……か、ますますもって化物だな」

 抵抗する相手を生かしたまま無力化させるのは殺すよりも難しい。

 相手が殺す気で来ているのなら尚の事……ソレが複数ともなれば、もはや天と地程の実力差でもなければ不可能とも言えるだろう。

(つまりコイツとは天と地程の実力差が有るって事か……)

 笑えてきた。

「次は俺の番か?」

 リウォはナイフを構えた。

 せっかく覚悟を決めたのだが、どうやらコイツは俺等を殺す気は無いらしい。

 とは言え、気絶させられて目が覚めたら病院か警察だろう。

 ソレは困る。

 きっとどうにもならんが……困る。

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