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狐幻丸、ここに!  作者: 赤き狐
第一幕【最強の忍】
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真の敵 弐

 そうと解れば簡単だ。何も言わなければ良い。

 佳苗自身は手を下していないのだから、証拠なんて有る訳が無いのだ。

「何か言ったら?……襲撃犯が判ったんじゃなくて?」

 余裕ができた佳苗は自ら月夜に話しかけた。

「はい、判りました。あなたです佳苗さん」

「ぶ────っ!!」

 佳苗は紅茶を吹いた。

(この娘、言いやがった!)

 疑っている相手に「私はあなたを疑っている」と言って、果たして相手から何か重要な証言など出てくるだろうか。

「……あなた、ふざけてるの?」

 佳苗は怒気を孕んだ声を月夜にぶつける。

「いいえ、大真面目です」

 対する月夜は柔らかいソファーにゆったり腰かけ、足を組み、紅茶を片手に実にリラックスした様子で返す。

 まるで自分の家かのような振る舞いに、佳苗のこめかみにピキッと青筋が浮かぶ。

(いや、落ち着け……コレは挑発よ。この娘は私を挑発して怒った私が何か口走らないか待っているのよ!)

 ふぅ〜と一息ついた佳苗は、しかし確信する。

(やっぱり、何も掴んではいないんだわ)

 佳苗は心の中でほくそえむと、

「そこまで言うからには、証拠は有るんでしょうね?」

 自信たっぷりに聞いてやった。

「………………………………」

 月夜は何も答えない。

(ふふん、そうでしょそうでしょ! 何も無いんだから!)

 こうなってくると、佳苗としてはただ帰すだけでは飽き足らない。

 月夜の悔しがる顔が見たくなる。

「ねえ? どうしたの? こんな深夜に人の家に来るからにはよっぽどの自信が有ったんじゃないの?」

 ニヤリとしながら月夜の顔を覗き込むと、

「ふふ……ええ、有りますよ。話してあげましょう」

 ニヤリどころでは無い。

 人を見下す冷たい瞳に三日月のように鋭利に歪めた唇──魔王の如き嘲笑がそこには有った。

「っ!?」

 証拠を得ていない月夜と証拠を持っていない佳苗。

 どちらが有利かは言わずもがな……であるが、二人の態度はまるで逆だった。

 余裕たっぷりに笑みを浮かべる月夜と驚きに目を見張る佳苗。

 コレを観て、どちらが有利かと聞かれたら誰もが月夜と答えるだろう。

 ただし、どちらが悪者か? と聞かれても月夜と答えられるだろうが。


「そうですね……兄上には話したのですが、今回の同時襲撃を指示した者──佳苗さんですが、致命的なミスをいくつかしているんですよ」

「致命的なミス?」

 いちいちツッコんでいたら話が進まないので、この際佳苗は自分が黒幕扱い確定しているという事は放っておく。

「はい。第一が最初の、事故に見せかけた襲撃で私が助かってしまった事です」

 月夜はコンビニで起きた一件を思い出した。

「おい、ソレは聞いてないぞ」

 陽向がツッコむが、月夜は構わず進める。

「アレで私が死んでいれば、ただの事故として処理され、兄上も警戒はしなかったでしょう……で、あれば、後の殺し屋達の襲撃も容易く成功したに違いありません」

「お前、兄の事を容易くとか……」

「しかし、私が助かってしまい、事故にも疑問を持ってしまった事で、早くも計画に支障が生じた。そのまま兄上を襲撃する事はできなくなってしまった」

「………………」

 佳苗は黙って聞いている。

「仮に兄上を亡きものにできたとしても、そうなれば今度こそ私は完全に警戒し、再度の襲撃は厳しくなる……だけでなく、事件性を疑われてしまい、尚かつ誰がソレを画策しているのか……という事を浮き彫りにしてしまう」

「月夜が事故に遭い、すぐ後に俺が死に、また月夜が襲われれば、ね」

 陽向はチラリと佳苗を観る。

 佳苗はそっと眼を逸らす。

「かと言って、私の警戒が薄れるまで待っていては、後継は私に決まってしまう……だからあなたは急ぐ必要が有った……まあ、急ぐ理由はソレだけではないのでしょうが?」

 今度は月夜がチラリと佳苗を観る。

 佳苗はその視線からも逃げる。


 実は佳苗はとある事業に手を出し失敗しており、ソレによって生じた損失を早急に補填する必要が有った。

 麻昼が後継になったとしてもすぐに遺産等は入らないものの、桜華財閥の後継という肩書きが有れば取り敢えず融資を受ける事はできよう。


「焦ったあなたはここで強攻策にでる。三兄弟全員の殺害。これが第二のミス。結果はご覧の通り、私も兄上も無事……焦り過ぎましたね。そして第三のミス、麻昼の死の偽装です。我々が殺し屋と言う直接的な手段だったのに対し、麻昼だけが麻酔による仮死……というのはあからさますぎますよ?」

 佳苗はギリ……と歯ぎしりする。

 ソレに気づいてか、陽向はため息と共に肩を竦めた。

 ちなみに、佳苗の策略のほぼ全てを失敗へと導いたのは狐幻丸である。

 今、この場に佳苗を擁護する者はいないが、彼がこの時代、そして月夜のもとに現れたこのタイミングに決行したという事こそが佳苗にとっての最大のミスであり、知りようの無い不運であった。

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