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狐幻丸、ここに!  作者: 赤き狐
第一幕【最強の忍】
50/68

決着……? 肆

「……遅いな」

 月夜の屋敷を監視している男──ヤンは、そう独りごちる。

 実行班が屋敷に侵入してから既に十分は経つ。

 その間、実行班は元より、屋敷の人間も外に出た様子は無い。

 成功にしろ失敗にしろ、何も起きないというのは異様な事である。

 一度だけ通信は有ったが、それきり何の音沙汰も無く、何の用件だったのかも解らず終いだ。

(こちらから連絡してみるか?)

 そう思い、通信機に手を伸ばした矢先、

《──正面玄関、動きあり》

 通信が入った。

(動きあり?)

 ソレは予想もしていなかった言葉だった。

 何せ、今回の実行班の中にはあのグゥウェンがいる。失敗などあり得ない筈だ。

 故に、次に入る通信は《任務終了》だと疑ってもいなかった。

(何が有った!?)

 ヤンは正面玄関を注視した。

(………………)

 閉められていた戸が開いていた。

 位置的に、玄関の中までは見えないのがもどかしい。

 そこから出てくるのは……

(グゥウェンだろ!?)

 スコープを持つ手に力が入る。

 じっと待つこと数秒……ソコから出てきたのは、


(!?)


 グゥウェンだった。


 ただし、玄関の中から投げ捨てられる様に……である。

 グゥウェンは糸の切れた操り人形の如く、ダランとしたまま横たわり微動だにしない。

(どういう事だ!? まさか殺され──)

 そう思ったと同時に、続けて玄関からカイルとエバンスも投げ捨てられた。

「ぐえ!」

「お……っふ…!」

 二人は続けざまにグゥウェンの上に放り投げられる。

 そして先に投げられたグゥウェンは一番下になった事で、二人分の体重をモロに受け止める形になり、

「げふぅ!? ……ぐふぅ!?」

 苦悶の叫びを上げた。

(あ、生きてはいる……か)

 ヤンはほっと胸を撫で下ろした。

(しかし……)

 状況は最悪だ。

 何せ、今投げ捨てられたのは実行班の三人全員だ。


 つまり、失敗したという事である。


(馬鹿な……)

 事前に調査した際、桜華家の子供達──特に月夜には手練れの護衛等はいない筈だった。

 今日陽向が連れてきた護衛についても、多少腕は立つ程度だと認識しており、グゥウェン達ならば苦戦すらしない筈だった。

 唯一、最近月夜の所に来た護衛? の男についてだけは判らないのだが……

(まさか、そいつが……?)

 それこそ悪い冗談だ。

 諜報員の話によれば、その男は──いや、男という呼び方は相応しくないかもしれない──高校生くらいの少年だと言う。

 しかし高校には通っておらず、休日を除けば毎日月夜の送迎をしているらしい。

(妙と言えば妙だが……)

 今時、高校に通わない子供などそう珍しいものでもないだろう。

 ただ、それにしたって財閥令嬢の護衛というのはどうなんだ? とは思った。

 中卒……あるいは中退の子供が就ける職業なんてたかが知れている。

 飲食か接客……工場等も考えられるが、やはり護衛は無い。

(せめて警備員くらいならばまだ解るが……)

 ソレだって身体ができていない子供には厳しいものがある筈だ。

 故に、ヤンはその少年は護衛と言うよりは執事……いや、小姓(こしょう)のようなものだと認識していたのだ……が、

(確か……『こげんまる』とか言ったか?)

 結局、諜報員が掴んだ情報はその偽名だけだった。

 一応、『狐幻丸』は本名なのだが、ヤン達は偽名だと疑わなかった。

(まず、名字が無い。この国で名字が無い奴などいるわけがない。一応、その名前で調べてはみたらしいが、戸籍も何も無かった。それに『こげんまる』だぞ!? 何なら『こげん』でも良かっただろうに、何故『まる』を付ける!? 戦国時代じゃあるまいし……)

 少し論点がずれたが、とにかく狐幻丸などという人物は戸籍上は存在しないのだ。

 他にも、諜報員は写真を撮ろうと試みたのだが、何故か(・・・)一枚も撮れなかったらしい。

 (いわ)く、カメラを向けるとその場にはもういなかったり、ここだ! と思った所でシャッターをきっても必ずブレてしまうのだという。

 その時は何とも……いや、下手くそ! とさえ思っていたが、それら全てに加えて今のこの状況……ヤンは何かうすら寒いモノを感じた。


 存在しない筈の少年……


 得られぬ情報……


 任務の失敗……


(偶然……か?)


 ヤンは息を飲む。


 やがて……玄関から出てきたのは……



 鬼のような形相の仮面と巨大な鐵の四肢を持つ白い獣だった。



「何だ……ありゃ……!?」

 てっきり(くだん)の少年が出てくると思っていただけに、その異様はヤンの度肝を抜くには十分だった。

《化け物……》

 通信機から他の監視が漏らした声が聞こえてきた。

 無論、中身は人間だということは理解している。

 だが、グゥウェン達がやられた姿を目の当たりにしているだけに、その姿がハッタリだとは思う者はいない。

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