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狐幻丸、ここに!  作者: 赤き狐
第一幕【最強の忍】
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火具鎚忍軍 伍

「なっ……お前!?」

 先導をしていた忍が声を荒げた。

「あんな馬鹿に付き合うつもりか!? 殿と姫様もいるんだぞ!?」

「まあまあ……落ち着くでごさるよ」

 先導の言うことはもっともなのだが……

「あやつは本当に我等と戦うことしか考えておらぬよ」

「何故そう言い切れる!?」

「勘……でござる。恐らく、此処に来たのもあやつの独断でござろう」

「…………………………」

 確かに、辺りには他の気配は無い。

 忍が単独で任務を行う事は珍しい事でも無いが、ソレが城主の暗殺ともなれば…考えにくい。

 あるいは余程の手練れであれば納得はできるが…

(強さの程は判らんが……こんな奴一人に重要な任務を任せたりは……しないか)

「……好きにしろ。俺は一応護衛に着く」

「かたじけない」

 一応の了解を得た狐幻丸は改めて相手の忍と向かい合う。

「待たせたな」

「ふ……てっきり二人がかりで来るものと思ったが……なかなかどうして……話の解る奴」

「まあ、何だ? ……常日頃、日陰を歩き、騙し騙され、後ろ暗い生き方をしていると……時にはこういう武士の真似事でもしてみたくなるのでござるよ」

「ふ……そうだ。忍の世界、不意討ち騙し討ち暗殺毒殺罠は当たり前……だがな」

 そこで一旦区切ると、


「正々堂々戦ってはいけないなどと誰が決めた?」


 言い放った。

「………………………ふ」

 狐幻丸の口から思わず笑いが漏れた。

「では……いざ!」

「尋常に!!」



「「勝負!!!」」



 声と同時、狐幻丸と敵忍は同時に手裏剣を抜き放った。

「!!?」

 その動きは穹姫にはまるで解らなかった。

 二人の身体が一瞬、僅かに動いた? と思ったと同時に二人の間で火花が立て続けに弾けていく。

 互いに手裏剣を投げ合っていると気づけたのはソレが十撃、二十撃と続き、辺りに手裏剣が散らばっていくのを見たからだ。

(これが忍の戦い!?)

 二人とも当たり前の様に行っているが、飛んできた手裏剣を手裏剣で落とす…ソレを何十撃と続けるなど、穹姫には及びもつかない光景だった。って言うか、これだけの手裏剣を何処に持っていた!?


 ソレは一分程続いたが互いに手裏剣が尽きたのか、突然終わりを迎えた……瞬間に二人は突っ込んだ。


キィン──!!


 と、甲高い音が響く。

 敵の手にはクナイ、狐幻丸の手には小太刀が在り、つばぜり合いとなった。


キチ…キチ……


 金属の擦れる音。

 激しい動の後の静。

 互いに動かない。


 つばぜり合いというものはただ力が強い方が勝つ訳ではない。

 力任せに押せばすかされる、かと言ってソレを警戒し過ぎて力を弱めれば当然押しきられる。

 押すか引くか……その駆け引きである。

 さすがに『圧倒的な力の差』というものが有れば話は別だが……


 この二人は


(単純な力は……)

(ほぼ同じ……でござるか)

 体格も力もほぼ互角だった。

 そうなれば勝負を決めるのは技と駆け引きである。

「…………………………」

 一見動きが無いように見えるが、二人の頭の中では目まぐるしい攻防が繰り広げられている。

(この者……)

(やる……!)

 駆け引きも互角だった。

 このままでは

(らちが開かない)

(消耗していくだけだ)

 同時にその考えに至ったのか……互いに一際強く押し込むと、同時に後ろに飛んだ。


「ふ……はぁー……!!」


 穹姫が大きく息を吐いた。

 どうやら二人の息詰まる攻防に、文字通り息を止めていたらしい。


「ふ……やるな」

「お主も……な」

 二人は呼吸を整える。

「だが……火具鎚はこんなものではあるまい……!」

 頭巾で表情は見えないのだが、敵忍は確かに笑っていた。

「見せてみろ、最強と目される火具鎚の力を!」

「……………………………そう言われると見せたくなくなるでござるなぁ」

 人とはえてしてアマノジャクなものである。

「ふ……まあ、そうだろうな……忍がおいそれと秘術を晒したりはすまい……」

 しかし例外が此処にいた。

「しかしコレを見ても出し惜しみなどできるか!?」

 言い終わると同時、敵忍はクナイを納めると両手で印を結んだ。


「『紫電(しでん)』!!」


バチィ!!


 敵忍の身体から電気が迸った。

「なっなんじゃあ!?」

 相対している狐幻丸よりも先に穹姫が声を上げた。

「ひ、人の身体から雷が走ったぞ!?」

 その光景は穹姫(世間知らず)ではなくとも驚愕したことだろう。

 なにせ自然現象である雷。

 空から落ちてくるアレだ。

 ソレを人体が発するなど…青天の霹靂と言うより他無い。

「……『五行(ごぎょう)』……か」

 一瞬は驚いた狐幻丸だったが、すぐに落ち着き呟いた。

「ふ……さすがに驚かんか……で、あれば……在るのだろう? 火具鎚にも!」

「…………………………」

 狐幻丸は動かない。

「まだ見せぬか……ならば『技』を見せるまで!!」

 敵忍は腕を顔の前まで上げると、貫手を作った。

「『一閃』!!」

 雷を貫手に纏わせ、猛然と突進してきた。

 紫の雷を纏った高速の……しかし小細工無しの真っ向からの突き。

 忍の技としてはあまりにも愚直で未完成としか言えない技である。

 だが、単純であるが故に迷いが無い。


 『眼前の敵を貫く』


 信念を込めた一撃はまさしく『紫電一閃』だった。


「こ…………っ!?」

 見ていた穹姫には驚く隙も心配する隙さえも無い。

 まばたきする間も無く敵忍は狐幻丸を貫き通り過ぎていた。

「狐……っむがっ!?」

 思わず名前を叫ぼうとした穹姫の口を先導忍が慌てて塞ぐ。

「慌てないでください」

「へ……?」

 そう言われて、改めて狐幻丸を見ると…

「む」

 敵忍も気づく。

「手応えが……無い!?」

 貫かれた狐幻丸の身体が大きく揺らいだと思うと、すぐにその姿は虚空へと消えた。

「ふ……ようやく見れたな。それが『火具鎚』か」

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