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狐幻丸、ここに!  作者: 赤き狐
第一幕【最強の忍】
49/68

決着……? 参

「生憎と、私には使えそうもないのですが……」

 そこで雛はチラリと狐幻丸を見た。

「貴方なら使えそうですね」

 かなりの重量である筈の手甲だが、狐幻丸は苦も無く拳を繰り出し、手裏剣を投げてみせる。

「ふむ……問題は無いでござる」

 ソレを聞くと、雛は面を手渡した。

「では、コレを……」

「む……一つ、良いでござるか?」

 面を受け取りつつも、狐幻丸には気がかりな事が有った。

「これほどの物が……必要なのでござるか?」

 確かにこの装備は使える者が使えば絶大な効果を発揮するだろう。

 仮面も正体を隠すのに有って困る物ではない。

 ただ、それは敵の前に姿を晒すのであれば……の話だ。

 敵もこちらも……特に狐幻丸は敵の前に姿を晒すつもりは無いし、狐幻丸にはそれだけの実力が有る。

 何より、この面は正体を隠すにしては悪目立ち過ぎるのだ。

 これでは正体は隠せても、この面の方を覚えられてしまうだろう。

 それでも敵を皆殺しにしてしまえば情報の流出は避けられるだろうが、今回はソレも禁じられている。

「むしろソレが狙いです」

「何と?」

 訝しむ狐幻丸を他所に、雛はその目的を告げる。

「貴方にはコレを着けて敵の前に姿を晒してもらいます」

「雛、何を!?」

 どうやら雛の考えは月夜も聞かされてはいないらしい。

「できる限り派手に立ち回り、圧倒的に勝って、印象付けてほしいのです」

「……誰に何を?」

 ソレを答える前に、雛は軽く呼吸を整える。

 事前に話していれば、月夜に止められたかもしれない。

 それでも、月夜を守る為ならば……と、雛は敢えてこの土壇場でその考えを伝える事にしたのだ。


「お嬢様の敵となり得る全ての者達に……『桜華財閥に手を出す愚か者には、鉄槌が下る』という事を……!」


 今回の敵は身内だが、この先は判らない。

 その時の為に……こうならない為に、雛は狐幻丸の力を最大限利用し、ある意味広告としようと考えたのだ。

 何処かの不届き者が月夜を狙い、誰か(・・)に依頼したとしても、その誰か(・・)に月夜に手を出せばアレが現れる……割に合わない……と、思わせる為に。

「雛!」

 だがソレは、全ての敵を狐幻丸に押し付けるという事に他ならない。

 確かに今回の件は狐幻丸頼りだ。

 しかしこれから先もそういう訳にはいかないのだ。

 諌めようとした月夜だったが、


「解っています!」


 珍しく、雛が声を荒げた。

「解っているんです! お嬢様がソレを望んでいないのも、彼にどれだけの重荷を背負わせるのかも!」

 雛は拳を握りしめる。

「でも……私だけでは守れないのです……っ!」

 己の不甲斐なさに、雛は悔しさを滲ませる。

「お嬢様を守る為ならば、私はやれる事は何でもします!」

 そこまで言ってから、

「しかし……」

 雛は伏し目がちに狐幻丸を見た。

「決めるのは貴方です」

 雛や月夜が何を考えようと、結局狐幻丸がやらないと言ってしまえばこの話は終わりだ。

「左様か……なれば……」

 「お前をお嬢様にとっての避雷針にする。いざとなったら雷に打たれなさい」と言っているようなものなのだ、普通ならば断られて当然の話だろう。


「任せるが良いでござる」


「そうですよね……勝手過ぎますよね……」

 雛は己の浅ましさを恥じる。

「貴方にはお嬢様の為に命をかける理由なんて無いと言うのに…………って、良いんですか!?」

 言ってはみたものの……よもや、承諾されるとは思っていなかったのだろう。やや……いや、だいぶ経ってから、雛は狐幻丸の言葉を理解する。

「御主から持ちかけた話であろうに……何故驚く?」

 狐幻丸は「何を言ってんの?馬鹿なの?」とでも言いたげに首を傾げる。

「いや、だって、どれ程危険な事か……」

 割と覚悟しての事だったのだ。

 当の狐幻丸は元より、月夜からも拒絶、絶交、解雇される可能性すら考えたのだ。

 ソレがこれ程簡単に承諾されると……自分の認識が、常識が何か間違っていたのではないかと疑ってしまう。

 だが、そんな雛の胸の内などどこ吹く風……狐幻丸は拳をギュッと(ガチャリと)握りしめると、


「それほどのお役目を任せてもらえるのだ、拙者を信頼しての事でござろう?」


 誇らしげに胸を張った。

「狐幻丸……」

 どことなくキラキラしているように見える狐幻丸に、月夜も雛を諌める気が削がれてしまった。

「主の為に自ら汚れ役を買って出るその忠義、雛殿は誠に家臣の鏡でござるな!」

 キラリン! と純粋に雛に敬意を込めた眼で見られると、

「え……あ、ありがとうございます……」

 逆にかしこまってしまう。

(私は……酷い事を頼んでいるというのに、この者はなんて真っ直ぐに私を見つめるのでしょう)

 何故だか、雛は自分の体温が上がったような気がした。

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