決着……? 弐
まず最初に目に飛び込んできたのは面だった。
過去に起きた戦いの所為か、片角の折れた白い面。
観る者によっては鬼……と映るかもしれない。
いや、◯ンダム?
いや、エ◯ァ?
とにかく、悪鬼の如き形相の面である。
次に見えたのは手甲。
ただし、コレも普通の手甲ではなかった。
明らかに大きい。
太さだけ見ても、狐幻丸の腕の三倍程は有る。
拳部も同様に大きく、通常、前腕部から手の甲迄を覆う程度であるのに対し、コレは掌迄完全に覆うように出来ている。
それも、全て金属でできた爪付きのだ。
「いくらなんでもコレは……」
悪ふざけが過ぎる……と狐幻丸は思った。
どう考えても手甲ではない。
指の長さも常人の倍近くになっているので、コレに腕を通したとしても指を動かせないと思われる。
例えるなら……五本指のボクシンググローブを想像してほしい。
指全部をあの分厚い生地が覆った状態で満足に動かせるだろうか?
握るか開くかがやっとだろう。
なので、狐幻丸はコレが腕にはめて使う鈍器のような物であると認識した。
(コレは使わないでおこう)
狐幻丸であればこの手甲のみで殴り倒す事も可能だろうが、ソレは狐幻丸の流儀ではない。
「え!?」
……が、試しに腕にはめてみた月夜が思わず声を上げた。
「いかがいたし……た……」
言いきらぬうちに、月夜がはめた手甲に目が止まる。
月夜は手甲の指を握ったり開いたり……だけではない、グーチョキパーと、自在に動かしていた。
「ちょっと……凄いぞコレ」
なんなら字も書けるぞ? とでも言わんばかりにペンも持ってみせる。
「なんと……!?」
面食らった狐幻丸は自分でも付けてみる。
「お」
付けてすぐにわかった。
外から見た腕部のこの太さに反して、実際に腕を通す穴は普通の人の腕の径しか開いていない。
それに、中にはクッション状の物が有り、ピッタリフィットするようになっていた。
更に驚いたことに、拳部……いや、掌部か……指で触れる部分が何やら動くようになっており、ソコで指を動かすと中の実際の指の動きが外側の手甲の指にトレースされる仕組みになっていた。
「む……!?」
いや、少し違う。
指の動きが拡大されてトレースされている。
つまり……中の指を一センチ動かすと、外側の指は二センチ動く……といったぐあいだ。
脚甲も同様だった。
慣れが必要だろうが、一度慣れてしまえば最小限の動作での戦闘が可能となるだろう。
武骨な見た目とは裏腹に、実に緻密で合理的な機巧甲だった。
「こんなの何処から……」
狐幻丸は元より、コレには月夜でさえ驚いた。
恐らく、現代の機械工学を極めた人間であってもコレを再現するのは困難だろう。
機巧だけなら可能かもしれないが、コレは実戦を想定……いや、実際に使用されてきたのだろう……実用兵装である事を考えると、再現は不可能と言っても過言では無い。
そんな物が(少なくとも忍がいたぐらい)昔に造られたとはにわかには信じられなかった。
「この装束は以前、美月様より預かっておりました」
「母上から!?」
雛の言葉に、月夜は目を丸くする。
当然だ。
月夜の生まれ……菖蒲家は歴史こそ有れど、決して大きい訳ではない。
「……忍装束なんて……」
菖蒲家が忍の家系だったという伝承は無いし、忍を召し抱えていたという事も
「いたそうですよ?」
「いたの!?」
月夜の思考を読んだかのようなタイミングで雛は衝撃の真実を語る。
「母上からはそんな話は……」
「ええ、言っていないそうです」
「何で!?」
「今はいないからではないですか?」
雛も詳しい話は聞いていないのだろう、割とぞんざいな返事が返ってきた。
「この装束も倉の奥に眠っていたらしいですし……数百年前の話でしょう」
「ぬぬぬ……」
何だか自分だけ除け者にされたようで、月夜は歯噛みする。
「まあ……良い、母上は何故コレを?」
忍がいないのに装束だけ有っても意味が無い。これだけの代物だ、まさしく宝の持ち腐れと言えよう。
鎧兜のように飾って自慢しろ……とでも言うのだろうか?
「どうやら……美月様は私が使うことを期待していたらしいのですが……」
顔を赤らめつつ、雛は俯く。
「…………母上……」
月夜も呆れる。
この装束ははっきり言ってコスプレの領域である。
こうして「凄いものだ!」となっているのは、今の状況と狐幻丸が揃ってこその事であって、これが平時の時であれば「ちょ……コレは……凄い(笑)」となっているだろう。
変身ヒーローが受け入れられるのは物語の世界だからであり、現実に存在しても困惑の対象にしかならないのだ。
「やれ」と言われても、ごめん被りたいというのが大衆の意見だろう。