白い影 肆
(ターゲットに動き無し……捜索を続ける)
グゥウェンは後ろの二人にサインを送る。
(了解)
(了解)
二人もサインを返したのを確認すると、屋敷の探索を再開する。
(しかし……妙だな……)
屋敷に潜入してから、グゥウェンは違和感を感じていた。
事前に調査して、この屋敷に警戒するべき人間は少ないことは知っていた。
侍女が一人と、最近雇ったという護衛。
加えて、今日の陽向付きの護衛が二人だ。
この屋敷は平屋ではあるが、そこそこの広さが有るので、その少ない人間とかち合う可能性はそこそこ低いと言える。
潜入する方としては楽ではあるのだが……
(それにしても、誰も出てこないというのは……)
普通、停電となればブレーカー等を確認するだろう。
ソレで駄目なら電気会社やらに電話をしたり、懐中電灯を探すとか……ともかく、何かしらのリアクションが無ければおかしいのだ。
(しかし、これは何だ?)
誰かが出てくるどころか、物音一つしない。
既に屋敷から逃げた可能性も考えたが、二箇所有る出入口はどちらも監視しており、もし逃げたのであれば、連絡がくる手筈になっているのだが……グゥウェンは通信機をチラリと見る。
(逃げたわけでは……無いか)
となれば、中にいるのは間違い無い筈なのだが。
(警戒されている……か?)
やはりこの短期間に再度の襲撃と言うのは無理が有った。
グゥウェンは依頼者に対して、内心舌打ちした。
考えてみれば、このザル警備の屋敷に対象が二人集合するというのは都合が良すぎる気がする。
(待ち伏せでもされているかもしれんな)
護衛一人一人なら大したことはないが、四人を一度に相手にするとなると少し厄介だ……と思ったが、
(ああ……いや、今日はこいつらもいたんだったな)
グゥウェンは後ろを振り返った。
護衛の腕がどれ程かは判らないが、三対四ならば問題は無いだろう。
そう考えたグゥウェンだったが……
「…………………………!?」
後ろには一人しかいなかった。
(おい、あいつは何処行った!?)
(え!?)
グゥウェンに指摘されてから、もう一人の男──エバンスも振り返り気づいた。
すぐ後ろにいた筈の男──カイルがいなくなっている。
(まさか、手柄を独り占めしようと!?)
グゥウェンは舌打ちした。
(馬鹿め! 勝手な真似をして仕事を達成したとしても手柄どころか、上には悪印象しか与えないと言うのに)
若い血気盛んな新入りには、時折こういう奴が出てくる。
功を焦ってスタンドプレーに走るのだ。
元々単独で任された仕事ならば別に良い、失敗したとしてもそいつが死ぬだけだ。
だが、チームプレーの最中にソレをやられると、そいつだけでなく、組んでいる人間全てが危機に晒される事になる。
当然、チームを組みたがる人間はいなくなり、組織としてもそんな奴は置いておきたくない。
ただまあ、そいつが単独でも突出した能力を持つような人間だったら話は別だが……カイルはそうではない。
あらゆる面でグゥウェンやフェイに及ばないのだ。
さて、そんな奴に価値は有るのだろうか?
グゥウェンは少し考えてから、
(もういい、放っておこう)
(良いのか?)
エバンスはカイルが下手な事をして足がつく事を恐れたが、
(それならそれで、奴を切れば良い)
グゥウェンは罪の全てをカイルに被せてしまえば良いと考えた。
いや、むしろそうなってくれた方が楽ではないか。
証拠隠滅の手間も省けるというものだ。
そうと決めてしまえば、さっきまでの憤懣とした気分も和らいできた。
(こっちはこっちで完璧にこなせば良い、行くぞ)
二人は奥へと進んだ。
(ここにもいない……)
五つ目の部屋を確認したところで、グゥウェンは確信した。
(やはりおかしい)
停電になってから約十分経つ。
果たして十分もの間、何の行動も起こさないということが有るだろうか?
グゥウェンは真っ暗な部屋の中で無言のままじっとテーブルを囲む一同を想像した。
何と言うか……もはやオカルトじみた狂気を感じる。
だが、事前の調査から月夜も陽向にもそういった気が無い人間であることは判っている。
(いよいよ待ち伏せを警戒した方が良いな)
もうこの停電が意図的なものだと感づかれていてもおかしくはない。
そして護衛にしろ侍女にしろ、異常事態に様子を伺いに出てこないのは職務放棄と言うものだ。
(おい、気をつけ……)
グゥウェンはエバンスに警戒を促すべく、振り返ったが、
(!?)
誰もいなかった。
ゾッ────!!
グゥウェンは全身が総毛立つ感覚に襲われた。
(違う……違うぞ!)
さっきの話からして、エバンスがスタンドプレーに走る可能性は低い。
そのエバンスがいなくなったということは……
ここにきて、グゥウェンはカイルの失踪にも違和感を覚えた。




