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狐幻丸、ここに!  作者: 赤き狐
第一幕【最強の忍】
40/68

白い影 弐

 しかし月夜はソレを片手で制する。


「兄上」


 まるで小さい子供に言い聞かせるように、優しく、しかし何処かしら威圧感を感じさせるような声で月夜は陽向を黙らせる。


「あいつはプロです」


「…………プロ? まさか……」

 あの少年が殺し屋だとでも言うつもりか? 陽向は眉をひそめる。

「少し違います。詳しくは言えませんが……ただ、あいつにとっては敵は『素人』だそうです」

「!?」

 狐幻丸の素性を明かさない事を訝しむ陽向だったが、ソレよりも殺し屋を素人と言い放ったという事実の方が陽向にとっては気がかりだった。

「何だそれは? どういう……」

 月夜が助かったのは彼が殺し屋を『追い払った』からではないのか?

 陽向は自分が何か勘違いをしていた事に気づき、月夜に詰め寄ろうとするが、

「時間が有りません、その話はまた今度にしましょう」

 月夜はソレをピシャリと打ち切った。

「おい……ってか、時間が無い?」

 陽向は自分の疑問がいとも容易くシャットアウトされた事もさることながら、月夜が何やら聞き捨てならない事を口走ったのが気になった。

「はい、よく聞いてください」

 月夜はコホンと軽く咳払いしてからこれからの事について語り始めた。

「まず、暗殺というものについてですが……」

「ソコから始めるのか」

 陽向のツッコミを華麗にスルーしつつ

「暗殺というものはチャンスは一度しか無いそうです」

 何処か(・・・)から仕入れた情報を聞かせる。

「ソレは……まあ、そうなるか」

 一度失敗すればターゲットは以降、警戒してしまい、当然ながら成功率は激減する。

 言われてみれば当然の事かもしれない。

「今回のように、ターゲットが複数となると、更にチャンスが減るだけでなく……同時に仕留めなければならない」

「同時?」

 流石に全く同じ時間は無理だろうと思うが、

「まあ、もう一方に情報が伝わる前に……という事でしょうが」

 すかさず補足する。

 伝わる前にとは言うが、()とは違って今はインターネットも在れば携帯電話も常識な世の中。

 実質、同じ日……しかも近い時間帯しか無いと言えるだろう。

「これも一方が、狙われたと知られればもう一方は警戒を強めてしまうからです」

 つまり、チャンスは『ターゲット一人につき一度』ではなく、『一つの暗殺に対して一度』しか無いのである。

 そう言われてみれば、陽向と月夜、一応麻昼も襲われたのは同日だった。

「なるほど……で?」

 未だ月夜の真意が読めない陽向は先を促す。

「なので、本来ならば前回失敗したことでほとぼりが冷めるまでは手を出してこないと考えたいところですが……」

「依頼人がソレを許さない……か?」

 月夜は頷く。

「そして、今回もできる限り同時に始末したいと考える」

 ただでさえ襲撃されたばかりで警戒心マックスなのだ。

 ここでもう一方が再度襲われたとなれば、もう片方は今度こそ完全防御体勢に入り、手出しができなくなるだろう。

「ただ、私の所の警備は以前と変わらずザルですが、兄上は既に警備を強化した上に引きこもってしまい、迂闊に手を出せなくなっていた」

「誰が引きこもりだ!」

 警備が薄いのに月夜が再度の襲撃に会わないのも、ソレが理由だろう。

 月夜を先に始末してしまうと陽向襲撃のチャンスは無くなってしまう。

「焦る襲撃者(と依頼人)。期を伺うもチャンスは来ない」

 まるで落語でも話しているかのようにリズミカルに言葉を紡ぐ月夜。

「そんな中、遂にチャンスは訪れる」

 扇子でも持っていたらベンベン!! と鳴らしていただろう。

「…………おい」

 ここまで来て、陽向にもようやく解ってきた。

 そんな様子を見て、月夜はまたもニヤリと笑う。

「堅牢な城に引きこもっていた筈の兄が最小限の護衛でザル警備の妹の屋敷に現れた……同時に始末したいターゲットが一堂に揃う、またとない機会だと思いませんか?」

「お前が目立たないようにそうしてほしいって……!」

 笑顔の月夜とは裏腹に陽向の顔はどんどん引きつっていく。

 なんて妹だ! 陽向はもはや怒りを通り越して呆れてきた。

 何せ、陽向だけでなく自分自身の命すら襲撃者を誘き出す為の餌としてベットしているのだから。

「お、俺は帰るぞ!」

 ガタン! と席を立つ陽向だったが、


「兄上」


 まるで小さい子供に言い聞かせるように、優しく、しかし何処かしら威圧感を感じさせるような声に、陽向はギクリとする。

「な、何だよ……」

 それ以上はいけない! ……本能はそう訴えているのに、律儀に聞いてしまうのは陽向の人の良さ(甘さ)故か。

 そんな陽向に対して告げられる月夜の言葉は……


「手遅れです」


 無慈悲な告知。

「ああああああああああああああああ!」

 予想通りの言葉に陽向は叫びながら頭を抱える。

 そして、ソレを合図にしたかのように



「!?」



 電気が消え、視界が闇に染まった。

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