黒幕は…… 参
やはり麻昼の母なのだろうか?
陽向もそう結論を出そうとした時、
「!?」
陽向のスマホが鳴った。
麻昼からか!? と思ったが、病院にいる筈の高嶺からだった。
「俺だ、大丈夫か!?」
《あ、はい。御心配をおかけしました。二、三日入院の必要が有るとの事ですが……》
ひとまずは無事だったことにホッとした。
《ですが……その……》
「?……どうした?」
高嶺の声は震えていた。
《こちらに……麻昼様が、搬送されまして……》
やはり、麻昼も襲われていた。
だが、搬送されるほどの怪我を?
高嶺の声から察するに、深刻な様子である。
カモフラージュにしてはやり過ぎではないか? そう思ったが、高嶺の口から伝えられたのは、予想外の事だった。
《お亡くなりに……なりました》
「は?」
一瞬、何を言われたのか解らなかった。
そして、月夜を見る。
「…………………………」
スマホの声が聞こえていたのだろう、月夜もまた、信じられない物を見たような顔をしていた。
「取り敢えず……すぐに行く」
電話を切ると、一旦深呼吸をした。
「当てが……外れたな……」
陽向は月夜を軽く睨む。
いや、身内を疑ったのは自分も同じか……陽向は首を振った。
「そのようです……が、事態はより深刻になったとも言えます」
「どういう事だ?」
月夜は既に次の事を考えていた。
「黒幕の検討がつかなくなりました」
唯一疑わしかった人物が違ったのだ。
月夜達にはもう心当たりが無い。
「こうなると、我々だけでなく、父上や兄上の母君も狙われる可能性が出てきました」
「!?」
身内ではないのなら黒幕は桜華財閥そのものに怨みの有る者という事だ。
それはつまり、財閥の人間全てが対象という事。
「母上達の警備を……強化してもらおう」
陽向は電話で何処かへと、てきぱきと指示を出していく。
ソレが済むと、
「病院に行くぞ」
自家用車を呼んだ。
◇
病院の裏口から中へ入ると、入口には高嶺が待っていた。
あちこちに包帯を巻かれ、松葉杖をついている。顔色も悪い。
入院の必要が有ると言われていたのだ、本来ならば安静にしていなければならないのだろう……側には看護師も控えていた。
「あ! こちらです!」
陽向達の姿を認めると、すぐに案内に来た。
「……もう一度聞くが、間違いないんだな?」
最後の最後まで、陽向は信じたくは無かった。
「確認……しました……」
そんな陽向の希望を打ち砕くように、高嶺は事実を告げる。
「……そうか」
やはり事実は変わらないようだ。
「佳苗さんは?」
「既に到着されています」
状況を聞きながら、遺体安置所の前まで来た。
「ん? 安置所?」
普通は病室か処置室だと思うのだが、
「発見された時には既に息を引き取っていたと……」
「なるほど」
これから詳しい死因を調べたりするのだろうか?
考えただけで不快になってくる。
「兄上」
「解っている」
月夜に促され、陽向は意を決して扉を開けた。
「……………………………………」
薄暗い部屋の中。
まず目に入ったのは中央のベッドだった。
白いシーツをかけられ、横たわる……麻昼。
ガーゼをかけられ、顔は見ることはできないが、体格やシルエットから、ソレが麻昼であることが理解できてしまう。
そして、すぐ側には麻昼の母 佳苗が座っていた。
入ってきた陽向達を一瞥した後は俯き、微動だにしない。
あまりのショックに現実を受け止められないのかもしれない。
「……佳苗さん」
佳苗は反応しなかった。
自分はこの人を疑っていたのか……そう思うと、さっきまでの自分をぶん殴ってやりたくなる。
「確認……させてもらいます」
陽向は顔のガーゼをめくる。
「………………っ」
紛れもなく麻昼だ。
今にも人懐っこい笑顔で「ひな兄!」と呼びかけてきそうだが……もうソレは二度と無いのだ。
「くそっ!」
誰がこんな真似を……!
母親同士の仲は良いとは言えないが、兄弟の仲は本当に良かったのだ。
許さない! どんな手を使ってでも黒幕を見つけ出してやる!
陽向は拳を握り、決意した。
「ちょっと、良いでござるか?」
その決意に割り込むように、狐幻丸が出てきた。
「え!? なんっ……!?」
「狐幻丸!?」
部屋に入ったのは月夜と陽向だけで、雛達は部屋の外に待たせていたと思ったのだが……
驚いている一同を後目に、狐幻丸は麻昼のシーツをひっぺがし、顔をペタペタと無遠慮に触っていく。
「な……何!? 貴方!」
茫然自失だった佳苗も黙ってはいられなかったようで、怒りを露にした。
「お、おい、狐幻丸!?」
さすがに月夜も焦って止めようとするが、
「死因は? 医者は何と?」
意に介さず、佳苗に質問を始めた。




