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狐幻丸、ここに!  作者: 赤き狐
第一幕【最強の忍】
32/68

過去の VS 現代の 弐

「手を引くならそれで良し、追おうとは思わぬが?」

 一応聞いてみるが、

「……ふざけるな」

 予想通りの答えが返ってくる。

「……左様か」

 既に敵の実力は知れた。

 今の質問は最後通告のつもりだった。

 忍にしては甘い……と思われるかもしれないが、狐幻丸も現代の生活──社会というものを多少は学んできたのだ。

 つまりは、『人を殺すとめんどくさい』という事である。

 アレの処分とか、警察とか……いずれも狐幻丸にとってはどうとでもできる問題ではあるが、だからと言ってどうとでもして良いというものでもあるまい。

 何より、狐幻丸自身好き好んで殺しなどをしてきた訳では無いのだ。

 助かる命ならば助かった方が良い。


 だが、それでも忍は忍。


 ソレが任務であるならばと、割り切る心も持ち合わせていた。

「やむを得ぬな……」


 一方の男は、困惑からは立ち直っていた。

 狐幻丸をどうにかしたいという気持ちは消えてはいないが、そんな個人の感情よりも仕事を優先するべきだと頭を切り替えた。

 その辺はプロなのである。

(まずは隙を突いて女を殺る。ガキはその後だ)

 男はナイフを狐幻丸に向けて構える。

 これだけで相手の意識はナイフに向かうのだ。コレにさえ気を付けていれば大丈夫だと。

 だが、男にとってはナイフだけが攻撃手段ではない。

 むしろナイフは囮としての役割が強い。

 刃物を警戒して動きが堅くなった相手にはどんな攻撃でも当たり易くなるというものだ。

 勿論、隙有らば実際にナイフを喰らわせるつもりである。

(このガキも……)


「…………………………………………」


 眼が合った。

「っ!?」

 狐幻丸はナイフを全く見てはいなかった。

 緊張した様子も無い。

(何なんだ……このガキは)

 考えてみれば、指で白刃取りをするような奴だ。

 ナイフ等脅しにもならないのかもしれない。

(それでも)

 男には月夜を仕留める自信が有った。

「行くぞ!」


 ナイフによる突き。斬り。それらを躱される事を想定しての蹴り。肘打ち。

 フェイントを交えた無数の攻撃も、狐幻丸にはかすりもしない。

「くそっ!」

 しかも、狐幻丸からは一切何もしてこない。

 躱しながら、じいっ……と何かを観察しているようだった。

 向こうから攻撃してくるようにわざと隙を見せてみても、狐幻丸は誘いには乗ってこない。

「ハ! そうか、お前……攻撃はできねえのか」

 無論、そんな訳は無いのだが、手を出してこない故に男はそう判断した。

「なら……」


 男は攻めのペースを変えた。

 無理に攻めてこなくなった。

(時間稼ぎ? いや……)

 男としてはあまり時間をかけたくはない筈である。

 だとすれば、男の行動の意味する所は……


(この辺か……)

 狐幻丸を十分に引き付けたと判断した男は、一旦距離を取ると、指をくわえ……


 ピィ


 と鳴らした。

 男は単独で来たわけではない。

 基本的には直接手を下すのは男の役割だが、ターゲットの捕捉や経緯の記録、そしていざというときの為の保険がいるのだ。

(やれ……!!)


 その瞬間、目の前にいた狐幻丸が消えた。


「!?」

 と思った時には狐幻丸は月夜の背後にいて、何かを弾いた後だった。

「……え?」

「……あ?」

 男は元より、月夜も何が起きたのか理解していなかった。

 特に、月夜には自分の背後に移動された為に狐幻丸が消えたとしか解らず、キョロキョロと狐幻丸を探す始末だ。

「……あそこか」

 背後からの声に月夜はビクッ! として振り返る。

「こ、狐幻丸?」

 狐幻丸は遠くを見ていた。

 と思った次の瞬間には、ソコに向かって(よく見えなかったが)何かを投げた。


 ──ぎゃあ!


 遠くから何か(・・)が聞こえた。

「な、てめえ……まさか!?」

 男は焦りを露にした。

「まあ、そうだろうと思っていたでござるよ」

 男の疑問に狐幻丸は当然のように答えた。

「お主以外にもこちらを伺う気配を感じてはいたでござる。場所までは判らなかったがな」

 最初に月夜にあまり離れ過ぎないように言ったのはこの為であり、つまりはこの距離内ならばいつでも守れるという事なのだが……

(女から十メートル以上は離れてるんだぞ!?)

 そんな距離から女に向けて放たれた飛び道具を……しかも何処から来るか判らないものを防ぐなど……


(人間業じゃ……無い)


 ここに来て、男はようやく自分の認識が間違っていた事を知った。

 しかも、潜んでいた相方もやられた(殺られた?)。

 手を出せなかった訳ではなく、居場所を探るために敢えて手を出してこなかっただけだった。


 そして……


(次は……)

 狙撃者がいなくなり、そちらに気を回す必要が無くなったのであれば、

(俺……か)

 その矛先が男に向けられるのは必定である。

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