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狐幻丸、ここに!  作者: 赤き狐
第一幕【最強の忍】
30/68

牙を剥く悪意 捌

 流石の月夜も今日はコンビニに寄る元気は無いようで、大人しく家路に着いている。

(ふむ、またコンビニに寄るのかと思ったが……どうやらまっすぐ帰るようでござるな)

 狐幻丸は密かに胸を撫で下ろした。

 たかがコンビニに寄る程度とは言え、不特定多数の人間がひっきりなしに出入りする所というものは護衛する身からすればなかなかに厄介なものなのだ。

 特にコンビニというのは客層というものが絞れない……どんな人間が入ってきても違和感を感じないのだ。

(いつもこうなら多少は楽になるんでござるが……)


 一方の月夜は普段から多くはない口数が更に減っていた。

 数歩歩く度にチラチラと狐幻丸を見てしまう。

 そういえば……あまりじっくりと見たこと無かったな。

 初めて会った……と言うか、発見した時こそジロジロと見回したが、落ち着いてからはまともに顔を見ることなんて無かったと思う。

(意外と……幼いな……)

 戦国時代の忍というイメージから、厳ついという想像だけが勝手に膨らんでいたが、改めて観ると狐幻丸は思った以上に若く見えた。

(十六歳……だったか?)

 そうなると、月夜の一つ下ということになる。

 普通の十六歳ならば高校に通っている筈だが……

(高校生……か)

 月夜は高校に通う狐幻丸を想像する……

 もし、狐幻丸が戦国時代ではなく現代に生まれていたら……


 そこまで考えて、月夜は首を振った。


 もしそうであったなら、狐幻丸は狐幻丸ではなかったろう。

 こうして巡り会い、隣を歩くことなど無かったに違いない。

(ならば……これはこれで……)

 悪いものでは……なかった……のでは……?


「月夜殿」


「!?……な何だ!?」


 不意に呼びかけられ、思考は中断された。

 今自分は何を思っていた!? 月夜は己の考えていた事に赤面し、狐幻丸にばれぬよう慌てて取り繕った。

 が、そんな事をするまでもなく、狐幻丸は月夜を見てはいなかった。

「狐幻丸?」

 狐幻丸は月夜を片手で制すると、前方を見据えていた。

 いつの間にか人気の無い通りに来ていたようだが……今日はいつにも増して人気が無い。

 不自然なほどに。

「?」

 明らかに変わった狐幻丸の雰囲気に、月夜もやや緊張しながら前方を見る。


「……………………」


 狐幻丸の見据える先には一人の男がいた。

その男は……上はラフなジャケット、下は黒いチノパンで、何処にでもいるような凄く普通の格好をしていた。

 だが、何故だろう……普通の格好をしているのが逆に不自然に見える。

 まるであえて(・・・)目立たないように(・・・・・・・・)そういう格好をしているのだと言わんばかりに。


「………………」


 男は何も言わず、一歩踏み出した。


 ……トクン……


 それだけの事に、月夜は自分の鼓動が早まるのを感じる。

 一歩、また一歩と男が近づいてくる。

 別にその男が何か(・・)をしてくると決まった訳ではない。

 決まった訳ではないのだが……何故か動けなかった。

 足が(すく)んでいる訳ではない……と思う。

 確かに、ちょっとビビってはいる。

 だが、動けない理由は恐れとは違うような気がする。

 何と言うか、こう……


 逃げたくない。


 アレが何者かはまだ判らないが、ただ怖いからといきなり背を向けて逃げ出すのは『桜華 月夜』ではない気がする。

 この状況を仕組んだ誰か(・・)がいたとして……そいつは月夜が不様に泣きわめき逃げ出すことを望んでいる筈だ。

「全く……」



 気に入らない!!



 月夜は背筋を伸ばし、臆すること無く眼前の男を睨み付けた。


 お前が何者かは知らないが、私に手を出すつもりならただでは済まさない!


 その決意の表情に、狐幻丸は口の端を微かに上げた。


 男はリラックスした様子で近づいて来る。

 そして、ごく当たり前のように……スムーズな動作で内ポケットに手を入れると、



「あ、もしもし? 俺だけど──」



 スマホを取り出した。



「…………え……?」

 月夜の口から気の抜けた声が漏れた。

 男は電話をしながら月夜の横を通り過ぎ──


 ──月夜の首筋めがけてナイフを振り下ろした。


 ゾン──!


 月夜は微動だにできなかった。


 する必要さえ無かった。


 何故ならば、月夜の傍にいるのは戦国時代最強の忍『火具鎚忍軍』であり、その最期の御頭 ──


 狐幻丸なのだから。



「────!?」


 男は眼を疑った。

 確かにガキがいない方から女を狙った筈だった。

 スマホを取った瞬間、警戒が薄れた筈だ。

 その瞬間を突いた筈。

 だからこの女は唖然とした顔のまま倒れていなければならない筈なのだ!

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