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狐幻丸、ここに!  作者: 赤き狐
第一幕【最強の忍】
29/68

牙を剥く悪意 漆

(あれ? いないねぇ)

(まだ来てないのかな?)

 そんなひそひそ話が聞こえてくる。

 だが、月夜には確信があった。


 絶対何処かにいる──!


 何せ狐幻丸だ。

 教えてもいないのに五分前行動を徹底しているような忍者に遅刻など有り得ない。

 ただ、今ここで呼んでしまっても良いものだろうか……大勢の注目が集まっているこの中で。

 いつぞやのように影から出てこようものならたちまち騒ぎになるに決まっている……何せ、


(この街は話題に餓えているのだからなぁ!!)


 当事者(コンビニの女神)が言うのだから間違いが無い。

「………………………………」


 いっそ、それでも良いんじゃないか?


 月夜の心に悪魔が囁いた。

 世間を賑わす話題が無かったが故に、自分はコンビニの女神という全く欲しくもない称号を(たまわ)ってしまったのだ。

 ここらで新しい話題を提供してやっても良いのではあるまいか?


 狐幻丸の事情も何も有ったものではない……汚名返上という大義名分を前に、月夜は冷静な判断を失いそうになっていた。


(いやいや、何を考えている!? 話題になればあいつの素性も調べられるかもしれないんだぞ!?)

 月夜の心に天使が戻ってきた。

 別に犯罪を犯した訳ではないのだから警察等が出張ってくる事は無いだろうが、 目立たぬに越したことはない。

 とはいえ、出てきてもらわなければ帰るに帰れない。

「むう……」

 少し悩んではみたが、良い案は浮かばない。こんなことなら携帯でも持たせておくんだった。

 って言うか、自分がこうして出てきているのに何故姿を現さないのか……

 それでなくとも今日は色々あって気を揉んだのだ、早いとこ帰って雛のコーヒーでも飲んでほっとしたい。


 だんだんムカついてきた。


 仮にも主であるというのに、待たせるとは何事か!

 狐幻丸の『忍』に引っ張られているのか、月夜の思考はもはや戦国武将のようになりつつあった。


「えーい……狐幻丸!!」


 どうにでもなれ! いないお前が悪いのだ!

 月夜は開き直って大きなで呼んだ。

 普段は聞かないような苛ついた声だっただけに、周りの生徒達は一瞬ギョッとする。


「ここに!」


 更にギョッとする。

 門の柱の影から狐幻丸がひょっこり現れたのだ。

(え……何処にいた!?)

(柱の影にいたっぽいね)

(なんだ……見えなかったよ)

 例のごとく影から現れたのだろうが、それほどの騒ぎにならない。

(……こいつ……!)

 月夜は狐幻丸のやった事(・・・・)に舌を巻いたと同時に、その小賢(こざか)しさに、そして自分が心配していた事態をなんなく回避してみせた事に(お門違いであることは解っているが)更に苛ついた。

 狐幻丸がやった事、ソレは……


 『周囲の全ての人間の死角から現れた』


 である。

 ある者からは柱。ある者からは駐車中の車。何なら立っていた生徒ですら、そうであるとは気づかず死角として利用されていたのだ。

 そうして、全ての人間から絶妙に何か(・・)の影から現れたように見せることによって『自分は気づかなかったけどソコにいたんだ』と思わせたのである。

 後日、狐幻丸は語る。


「素人相手なら三十人程度まではいけるでござる」


 そんな訳で、無事現れた狐幻丸だったが、月夜は面白くない。

「何故待っていなかったんだ?」

 いたのなら最初から出て待っていればこんなに気を揉む必要は無かったというのに。

「いや、今日は朝から妙な気配を感じていた故、今の今まで家に戻らずに警戒していたのでござる」

「……ここにか?」

「いや、ずっと近くを廻っていたでござる」

「……そうか」

 少しホッとした。

 もしかしたら門の所から一歩も動かずに八時間近くも潜伏していたのかと本気で心配してしまった。

 月夜の為に警戒していた結果とあらば、それ以上は責めることはできない。

 振り上げた拳の落とし所を無くしてしまい、どうにもモヤモヤしたものが残ってしまっている月夜だったが……

「あー……で、その妙な気配とやらは?」

 まずはソレの解決が先決だ。月夜は頭を切り換える。

「いや、そっちは気にするほどの事ではござらんかった」

「え、ああ……そう」

 せっかく切り換えたシリアスな雰囲気もこれまた無駄になってしまい、月夜は更にもにょる(・・・・)


 朝。妙な気配を感じた狐幻丸は月夜と別れた後、その気配を追っていた。

 結果、見つけたのはここの生徒である何だかおかしな三人の男子生徒だったのだが……

(ま、害は無かろう……)

 敵意も無ければ月夜と接触する気配も無さそうだったので放置しても問題無いと判断した。

 まさかその三人の敵意が狐幻丸自身に向けられていたとは思いもせなんだ。


「まあ、それなら良い。帰るか」

 いい加減チラチラと好奇の目に曝されるのには飽きてきた。

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