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狐幻丸、ここに!  作者: 赤き狐
第一幕【最強の忍】
27/68

牙を剥く悪意 伍

 結局、狐幻丸はチョコレートケーキ一つでいっぱいいっぱいだった為、残りのキャラメルエクレアとロールケーキは月夜が責任を持って仕方なく(・・・・)食べた。

「なんと……まあ……」

 ケーキ一つでギブアップした狐幻丸としてはあんな甘い物を二つもペロリと平らげた月夜に驚くばかりだった。

 ただ、二つも三つも食べるのは論外としても、『すいーつ』と言うものはコーヒーと合わせると存外悪いものでは無かった。

 何より、甘い物を食べている時の月夜は普段の威厳は何処へやら……とても幸せそうだ。

(いや、こちらの方が年相応と言えるでござるか)

 この顔が見られるのならば、たまーになら付き合うのも(やぶさ)かでは無いか……とも思えた。

「良し! 明日はゼリーに挑戦すると良いぞ!」

 たまにはだ! たまには!



 ただ、その晩。

 二つのスイーツを平らげた月夜の夕食の進みは非常に悪く、雛の眼がとても恐ろしかった。

 自分も間食し過ぎて夕食に差し支える事が無いよう、肝に命じる狐幻丸だった。



 翌朝。


 昨日言った通り、狐幻丸は登校時も月夜の隣で護衛するようになったのだが、昨日の帰りと同様……いや、それ以上に周囲が騒然としていた。

「昨日といい今日といい……いったいどうしたんだ?」

 普段は聡明な月夜も、自分の事となると割と鈍い。

「ふむ……皆、月夜殿の動向が気になるのでござろうか……?」


 違う。二人共だ。


 狐幻丸は狐幻丸で周囲の人間に完璧に溶け込んでいるという自負が有るため、よもや自分が注目されている等とは露程も思っていなかった──実際、狐幻丸一人ならば誰一人注目しなかったろう。

 だが、月夜と()が一緒にいるというだけで否が応にも注目されてしまうのだということは頭に無かった。

 周囲の喧騒を他所に、二人は通学路を急いだ。


「では、また下校時刻に来るでござる」

「ああ、解った」

 校門の前で月夜は狐幻丸と別れた。


「……行ったか?」

「……ああ、あの男は帰ったようだ。彼女は教室に向かった」

「……良し、我々も向かうぞ」

 物影から月夜の様子を伺っていた三人の男達は登校してくる生徒達に何食わぬ顔で紛れ込み、月夜の後を追った。


「おはよう」

 教室に入り、いつものようにクラスメートに挨拶をした月夜だったが、

「お、おはよう桜華さん……」

 今日はいつもと様子が違った。

 やはり自分は何かをしてしまったのだろうか?

「むう……」

 正直、自分が騒がれているのに当の本人が理由を知らないというのは気分の良いものでは無かった。 


 良し、聞いてみよう。


 一人で悶々考えたところで答えは出ない。ならば聞いた方が手っ取り早いというものだ。

 解らない事、気に入らない事が有るのならば自ら動く。

 こういう所が月夜の月夜たる所以か。


 そう決めて誰に聞こうかと教室を見回すと、一人の女生徒が近づいてきた。


「ちょっと宜しくて? 桜華さん?」


 月夜の前に立ったのは、金髪碧眼立て巻きロールで、露にしたおでこがチャームポイントのラノベに有りがちな『ザ・お嬢様』と言った感じの女生徒だった。

白百合(しらゆり) フラン 薫子(かおるこ)

「フルネームで呼ばないでくれます?」

 薫子と呼ばれた女生徒はムッとした。

「いや……なに、知らない人の為にも一応紹介しておいた方が良いかと思ってな」

「知らない人って誰ですの!? 毎日教室で合っているでしょう!?」

 月夜の意味不明な説明に薫子は更に憤慨する。

「まあ、それはそうと……何か用か?」

「いきなり脱線させたのは貴女ですのよ?」

 何か釈然としないが、コホンと気を取り直すと、薫子は両手を腰にして胸を張って改めて、

「で、聞いても宜しいかしら?」

 訪ねる。

 月夜は頷いて先を促した。

「貴女が当校以外の殿方と仲睦まじく歩いていた……という噂を聞いたのですが?」

 その質問に、何故か月夜よりも周囲の生徒達の方が聞き耳を立てている。

 そう言われて思い当たるのは一人しかいない。

「ああ、あいつか」

 と同時に、皆が色めきだっているのはソレか……と納得した。

「認めますのね!」

 バァン! と月夜の机に両手を叩きつけた。

 他の生徒達(主に女子)もキャアキャアとはしゃぎだした。

「認めるも何も……あいつは私のボディーガードだ」

 その答えに周囲からは「なぁんだ……」と、あからさまにガッカリとした空気が溢れだした。

 何だか自分が期待を裏切ってしまったような感じがして申し訳ないような気になる。

 が、薫子はソレでは納得いかないらしく、

「噂では貴女とその殿方が実に親しげに戯れていたと聞いておりますが?」

 詰め寄る。

「?」

 その点については心当たりが無い。

 首を傾げる月夜の態度がしらばっくれているように見え、薫子は更に追及する。

「往来で殿方の髪を優しくな……撫でていたとか、腕を組んでいたとかですわ!!」


(やっぱり……!)

(年下かな?)

(主人とボディーガード……有りね!)


 薫子の追及に、消沈していた生徒達は改めて色めき立った。

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