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狐幻丸、ここに!  作者: 赤き狐
第一幕【最強の忍】
26/68

牙を剥く悪意 肆

 一方の狐幻丸はと言うと、

「きゃ……きゃらめる? えくれあ?」

 何の事だかさーっぱり解らない。

「む……?」

  一人眼を輝かせる自分とは裏腹に、キョトンとしている狐幻丸に気づく。

「そうか、お前はまだ食べたことが無かったか?」

 狐幻丸が月夜の所に来てからおよそ二週間と言ったところだが、月夜が買って帰ったことはまだ無い。

 月夜が学校にいる間に雛と狐幻丸でお茶ぐらいはしているが、お茶請けとして出てくるのは煎餅や饅頭といったものしか出ていなかった。

 まあ、おそらくは雛が気を使ってなるべく和の物──狐幻丸の時代にも在ったであろう物を選んでいるからだろう。

 しかし、これからこの時代で生きていくのだ、洋の物にも慣れておかねばなるまい。

 うん、そうだ。これは狐幻丸の為なのだ。仕方ないのだ。

「そうだな、一度食べてみると良い」

「いや、しかし拙者は持ち合わせが……」

 まだ護衛として働き始めて数日、給料日でもないし、買い物も良く解っていない……と言うか欲しいものが無い、基本的に家に籠っている狐幻丸にはお金というものは必要無かったのだ。

「良い、私が奢ってやる」

 たかが数百円、それぐらいを渋る月夜ではない。

「さあ、好きなだけ選ぶと良いぞ!」


──うん?


「新商品のキャラメルエクレアは必須だが、こっちのロールケーキも定番だからな! この店を知る為にも是非とも抑えておかねばなるまい! ああ、それにただ甘いだけでは飽きてしまうか? ならばこのチョコレートケーキも良いぞ!」

 訂正しよう、数百円ではなく、甘い物をケチる月夜では無かった。

「いや、そんなには……」

 『えくれあ』やら『ろーるけえき』なるものがどのような食い物かは判らないが、どうやら甘い物だということは掴んでいる。

 狐幻丸は甘い物があまり得意ではなかった。

 小さい饅頭程度ならばいざ知らず、この得体の知れぬ物を二個も三個も食えるとは思えない。

 と言うか、月夜の眼が何か怖い。

「遠慮するな今日は特別だ! なあに、食べきれなかったら私が(・・)食べてやる!」

「……………………」


ああ、そういう事か……


 狐幻丸のスイーツデビューは建前で、こっちが本命のようだ。

「じゃあ……お任せするでござる……」

 何となくだが……今の月夜を止めることは狐幻丸にはできないような気がした。


「さあ、食べるが良い! どれからでも良いぞ!」

 レジでコーヒーを頼み、清算を済ませた月夜は店内の飲食スペースにスイーツを広げた。

「………………」

 とりあえず、コーヒーを手にした。

「む……」

 コレも甘いのかと思ったが、香ばしい香りが鼻を抜けた。どうやらコレは甘くなさそうだ、ちょびっと口をつけてみると、香りと苦味が口の中に広がった。

「ほう……」

 緑茶とはだいぶ違うが……まあ、飲めない程ではなかった。

「どうだ? 悪くはないだろう?」

 何故か月夜がドヤ顔をしている。

「そりゃあ、雛が煎れてくれるようなのとは比べるべくもないが、百円程でこのクオリティのコーヒーが飲めるのならば十分だと思わないか?」

「そうで……ござるか……」

 ぶっちゃけ、コーヒーを飲んだのはコレが初なのでクオリティについて問われても答えようが無い……って言うか『クオリティ』って何だろう。

 今一つリアクションが薄い狐幻丸にやや仏頂面になる月夜だったが、気を取り直すと、

「で、どれから行くのだ?」

 スイーツを狐幻丸の前に進めた。

(逃げられぬか……)

 やはりコーヒーだけでは月夜は満足しないようだ。

 いや、何も断固として甘い物は食べたくないと言うわけではないのだが……何となく……何となくだが、ここで付き合ってしまうと今後も同じような事が起きるような気がするのだ。


「──────」


 とは言え、ここまでキラキラした眼で見られたら無下にはできまい。

「……ではコレを」

 狐幻丸はチョコレートケーキを手に取った。

 確か、月夜がコレを選んだ時に「甘いだけでは飽きてしまうか?」と言っていたと思う。

 と言うことはコレは甘くない!? 明らかに甘い匂いが漂ってきているが。

 一縷の望みを賭け、狐幻丸はケーキを口に放り込んだ。




「…………あま!!」




 何だ!? コレは!?


 狐幻丸の時代では口にしたことの無い食感、甘味だった。

 一番近いものは玉子焼きだろうか? だが、ソレでもかなり遠い。

 それにほのかな苦味も有る。

「何でござるか……コレは……」

 思わず動揺が口から漏れてしまった。

「あ……その、美味しくなかった……か?」

 月夜が心配そうに覗き込んでいる。

 自信を持って進めたものの、狐幻丸の口には合わないものを強要してしまったのではないか? という不安が見てとれる。

「……いや、不味くは……ないでござる」

 確かに信じられない程甘いが、微かな苦味のお陰か食えない程ではない。

「そ、そうか、良かった」

 ほっと一息つき、安心したように微笑んだ。

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