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狐幻丸、ここに!  作者: 赤き狐
第一幕【最強の忍】
24/68

牙を剥く悪意 弐

「桜華さん、またねー」

「ああ、また明日」

 授業が終わり、月夜は校舎を出て正門に向かった。

 今日も狐幻丸が向かえに来る筈なのだが、


「………………」


 門には今日も(・・・)誰もいなかった。

 少し憮然とした顔を浮かべるも、月夜はそのまま門をくぐって外へ出た。

 しばらくはいつものように帰宅コースを歩いていたのだが、突然コースを変え、人気の無い通路に入り込んだ。

「……誰も…いないな……?」

 周囲を見回し、誰もいないことを確認すると、

「出てこい」

 虚空に声をかけた。

 漫画ならばここで

『何故分かった!?』

 とか、

『流石だな?』

 とか、殺し屋だのライバルだのが物影から姿を現したりするものだが、現実はそんな事は起こらない。

 リアルでそんな事を言えるのは厨二病くらいのもので、いざ言ってみるとめちゃくちゃ恥ずかしい。


「いかがいたした?」


 しかし、応える者がいた。

 いや、ソレが判っているからこそ月夜は声をかけた訳だが……

「出てこい」

 月夜はもう一度同じ台詞を言う。さっきよりもドスが効いている。

「いや、しかしそれでは「速く!!」承知……」

 渋る声を遮り、月夜は声を荒げる。

 直後、声の主は音も無く月夜の背後に現れた。

「いったいどうしたでござる?」

 言わずもがな……狐幻丸である。

「護衛としてお前を雇うことにし、登下校中の送り迎えをする事にも了承はした」

「うむ、だからこうして護衛しているではござらぬか」

 何かおかしい所が有るのか? と、狐幻丸は不思議そうにしている。

 何故だか、月夜はその態度が無性に気に入らない。

「護衛は良い。だが、何だこのやり方は!?」

 バン! と、地面を踏みつけた。

「何だ……とは?」

「姿も現さずに影からこそこそと付け回す陰湿なやり方だ!!」

 何か言葉の端々に棘……と言うか毒が有るような気がする。

「陰湿とは心外でござる! 忍たるものおいそれと人前に姿を現すなど愚の──」

「姿も現さないで送り迎えをする護衛が何処にいるか!!」

「こ、ここにいるではござらぬか……」

「ここにしかいないわ!!」

 普段の月夜を知る者が見たらそれはそれは目を疑う様な光景であろう。

 冷静沈着。クールビューティー。頼れる委員長(委員長ではない)。できる上司(無論、上司ではない)。鉄壁のガード。革命の乙女(革命など起こしてはいない)。

 ソレがクラスメートの桜華 月夜に対する印象である。

 一応、月夜の名誉の為に言っておくと、校内での月夜の評価は生徒、教師、男女共にとても高い。

 成績優秀、容姿端麗、威風堂々と、まるでラノベにでも登場しそうな見事なヒロイン像なのである。

 それゆえに一見近寄りがたい雰囲気は有るものの、月夜は家柄等を鼻にかけたりはしないので、話しているうちに懐柔されてしまう……委員長等の役職に着く事はしないものの、生来のリーダー気質と言えよう。


 だが、だからこそ月夜はぼっちなのである。


 リーダー的存在として人に囲まれ、輪の中心になることはあっても、決して輪の中には馴染めない。

 月夜にその気は無くとも周りが自然と中心に祭り上げてしまうのだ。


 それが今、目の前の忍者に向かって怒鳴り散らしているのである。

 忍者を叱りつける大和撫子という図はクラスメートでなくとも目を惹く事だろう。

 だが、高校生ならば……このリアクションはむしろ当たり前と言っても良い。

 気心知れた仲とは言え、使用人である雛相手では決して出すことの無い……『普通の高校生』らしい顔を月夜は我知らずのうちにさらけ出していた。


「良いか? 私は犯人探しをするつもりは無いんだ。お前を護衛にしたのはどちらかと言えば抑止効果を狙っての事だ。なのにその姿が見えないのでは意味が無い!」

 つまり『私を餌にして犯人を釣ろうとするな』という事である。

「む……う、ならばどうすれば?」

 狐幻丸にしてみれば……というか忍の護衛というものはこういうものなのだ。

 直接的な護衛は側近の武士達の領分だったのだから。

「だから、普通に出てきて私の隣で歩いてくれれば良いんだ」

「隣……」

 そう言われて、狐幻丸は思い出す。

 かつて穹姫とした……最後の散歩の時を。

(ああ……ああいうのか)

 理解した、と同時に穹姫の事を思い出し、胸を詰まらせた。


「…………………………………………………」


 一方、月夜はと言うと、その様子に何となく面白くないものを感じた。

 実際に狐幻丸が何を思っていたのかまでは当然判りようがない……ないのだが、女の勘とでも言うものが伝えてくる……


『他の女の事を考えていやがる』


 ただ、当の月夜にはそんな自覚など無く、何とな~く気に喰わないといった感情に首を傾げるのだった。


「で、解ったか?」

 まあ、何でそんな風に感じたのかはよく

解らんが一先(ひとま)ずその感情はしまっておこう。

 そういう事に決めた月夜は狐幻丸に改めて理解を求めた。

「うむ、承知した」

 月夜のモヤモヤに気づくこと無くあっさりと了解すると、月夜と連れ立って通りに戻るのだった。

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