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狐幻丸、ここに!  作者: 赤き狐
第一幕【最強の忍】
20/68

此処で生きる 肆



……無事!?


 皆一瞬、何を馬鹿な……と思っただろう。

 ガラスは粉々、テーブルは真っ二つどころか数えきれない、椅子はひしゃげ、ソレを成した物ですら鉄屑に成り果てているのだ。

 ソレに巻き込まれて無事でいられるなど……それこそ奇跡でも起きなければあり得ない。

「だ……大丈夫ですか!?」

「とりあえず救急車!」

「怪我は!?」

 奇跡を目撃するためか、本気で心配してか、ようやく皆駆け寄っていく。

 無事と言っても生きてるというだけで、大怪我をしている可能性だって有るのだ。


……が、目撃したものは……



「あ……大丈夫……です」


 店内に設置されているスチール製のゴミ箱とゴミ箱の隙間にすっぽり収まっている月夜だった。


 全ての店員、客に囲まれて気恥ずかしそうに自身の無事を伝えている彼女の身体には……



 傷一つ無かった。



「お、おおぉ……!」



 集まった人は目の前で起きた奇跡に、誰からともなく、拍手をし、喝采が巻き起こった。

「いや、あの……」

「うおおおおおおお!! すげー!」

「あり得ねえだろ!!」

「ちょっと……待っ」

「良かった~!!」

「き…奇跡だ……!」

「あまり騒がな……」

「やべ……何か光って見える……!」

「幸運の……いや、強運の女神だ!!」


 次第に大きくなる拍手喝采に、彼女にしては珍しく狼狽え、赤面する。


「お名前は!?」

「あ、握手を……」

「写メ良いっすか!?」


 もみくちゃにされ、パシャパシャ撮られ、なすがままの月夜は、珍しく……本っ当に珍しく、涙目で叫んだ。


「や、やめ……やめてぇ!!」




 その後瞬く間に、東村大和市では『コンビニの奇跡』『強運の女神』の話題が駆け巡り、月夜は行く先々で握手やら写メやらをせがまれ、お年寄りからは拝まれたりした。

 何せ東村大和には娯楽が少ない……退屈していた住民達がこぞって祭りに乗っかるのも無理からぬ話なのだ。



「御無事ですか!? お嬢様!?」

 怪我は無かったが、念のため検査と事情聴取を兼ねて月夜は病院に搬送されていた。

「雛……」

 検査を終え、廊下で事情聴取を受けている月夜のもとに雛が駆けつける。


「それでは、お気を付けて……」

 とりあえず事件性は無いとして事情聴取はすぐに終わり、警察は帰っていった。

「御無事で何よりです」

 雛は改めて月夜の無事を確かめた。

「…………………………」

 安堵の顔を浮かべる雛とは対照的に、月夜の表情は曇っている。

「お嬢様……?」

「直前か直後に逃げたのか……ドライバーはいなかったらしい」

 雛の心配には応えず、月夜は警察から聞いた事故について語った。

「……ただの事故だと思うか?」

 今来たばかりで詳しく事情を聞いていないであろう雛に対して、しかし月夜は本題を切り出した。

「……………………まだ断定はできませんが……」

 対する雛もまた、月夜の言わんとする事を理解して答える。

 雛の勘は『事故ではない』と告げている。

 月夜も同じ考えなのだろう、雛の態度に頷く。

「コレを警告と見るか……あるいは……」

 その言葉の先を考え、雛はゴクリと緊張感を高める。

 ソレを察してか、「ふぅー……」と大きく息をついた月夜は、

「まったく……私にはその気(・・・)が無いというのに、何処の誰かは知らないが御苦労なことだな?」

 やや大袈裟に肩を竦めてみせた。


「……お嬢「ところで!」


 雛の言葉を遮るように、月夜は大袈裟に声を出す。

「!?」

 まだ何も言われていないにも関わらず、雛は叱られた子供のようにビクッ! とする。

 そしてソレを見た月夜もまた、己の考え(・・)が正しいのだろうと確信する。

 何について言われるのか自覚しているのか、雛は既にばつが悪そうに視線をあちこちにさ迷わせている。


「あれほどの事故に巻き込まれたにも関わらず、この通り私は怪我一つ無い訳だが……」


 月夜はやや芝居がかった口調で語りだす。


「偶然だと思うか?」


 答えは分かっている。

 だが聞く。


「正直、私は動けなかったよ。猛スピードで突っ込んでくる車に気づいていたのに……」


ゴクリ……


 雛の緊張感は再び高まっていく。


「だが私は無傷だ。ゴミ箱の隙間にハマるというミラクルのお陰でね?」


 直立不動で固まる雛をじっくりねっとり

ねめつける。


「こんな偶然有るのかなぁ……?」


「ソレは……あの……」

 もうやめて! 雛のライフはゼロよ!! と止めてくれる者はいない。


「雛……狐幻丸はどうしてる?」


 ビクーン! と、今度こそ雛の身体は目に見えて弾けた。

 月夜はあの時、全く反応できなかったのだ。椅子から立つことすら。

 それがどうなったらゴミ箱の隙間という安全地帯に退避できるというのか?

 月夜にはあの忍者しか思い当たらない。

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