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狐幻丸、ここに!  作者: 赤き狐
第一幕【最強の忍】
2/68

火具鎚忍軍 弐

「行くぞ!! 兄貴!!」

「来い!」

 竹林の奥から声がした。

「はっ!!」

 影は二つ。

 一方は華奢で小柄な体格……子供だろう。眼にはいたずらっ子のような輝きがあった。

「甘い!」

 もう一方は細身ではあるが全く弱々しさを感じさせない青年。子供とは対称的に、鋭いその眼は油断無く子供と周囲の様子を伺っている。

「くっ……まだまだぁ!!」

 二人は組手をしていた。

 と言っても、力の差は歴然で、先程から子供から青年への攻撃はかすりもせず、逆に青年から子供への攻撃は幾度となく寸止めされていた。

狸鼓(りこ)、お主の攻撃は直線的で単調過ぎるでござる」

「くう~……っ!」

 狸鼓と呼ばれた子供は悔しさのあまり、顔を真っ赤にして歯噛みする。

「……だったら、これならどうだあ!!」

 狸鼓は一旦距離を取ると、青年に向かって突進を始めた。

「む!?」

 突進しながら、狸鼓は右へ左へとステップを繰り返し、青年の目の前に迫って最後に左にステップをして


 右から蹴りが来た。


「これは……」

 ガッ!! と、初めて狸鼓は蹴り足に手応えを感じた。

「どうだぁ!!」

「……驚いたな、『陽炎(かげろう)』を会得していたでござるか」

「げっ」

 狸鼓の蹴りは完璧に防御されていた。のみならず、受け止めた一瞬の隙に足首を掴まれていた。

螺旋焔(らせんほむら)……!」

「ちょっ…待っ……!!」

 制止を促した狸鼓だったが青年は聞く耳持たず、足首を掴んだまま身体を回転させる。

「う…わ……!?」

 遠心力で狸鼓の身体は自由を奪われ

「はあっ!!」

 その勢いのまま天高く投げ飛ばされた。

「っ────────────────げふうっ!!」

 きりもみしながら宙を舞った狸鼓はそのまま受け身もとれずに地面に叩きつけられた。

「陽炎を会得していたのは予想外だったとは言え、まだまだでござるな」

「うう~ひでえよ兄貴……」

 ごろりと身体を起こすと、けらけら笑う青年に悪態をついた。

 けっこうな勢いで落ちたように見えたが、狸鼓にそれほどのダメージは無いようだった。

 青年の手加減もさることながら、狸鼓もまた、ただの子供ではないということだ。


「む……」

 ふと、青年が竹林の隙間から見える空を見て何かに気づいた。

「狸鼓、今日はここまでだ。親方様の呼び出しでござる」

 狸鼓も空を見た。

 空には一羽の鳥が飛んでいた。

「子の弐? ……何だろ?」

 あの鳥は狼煙のようなもので、離れた場所にいる仲間に連絡をとるために飛ばされる。

子 丑 寅……と、十二種類おり、さらに飛び方が壱 弐 参…と、多数仕込まれている。

 子の弐はそこそこ急ぎの呼び出しだった。



「来たか」

 何の音もしなかった筈だが、立派な髭を蓄えた老人は後ろを振り返ることなく呟いた。

狐幻丸(こげんまる)、ここに」

 先ほどの青年『狐幻丸』が老人の後ろにかしこまっていた。

「来たよ」

 狸鼓はあっけらかんと答えた。

 全くもって目上の人間に対する態度ではないのだが、老人は特に咎めることなく続けた。

「間もなく殿が参られる。その方等で迎えに行ってはくれぬか?」

「殿が!?」

 狐幻丸は驚く……が、

「また!?」

 狸鼓の態度からして、驚きの意味が若干違うことが解った。

 普通は一国一城の主がおいそれと忍の里になど出向く事など考えられないのだが…どうやら此処の城主は普通ではないらしい。

 事有るごとに里に来ては親方と世間話をして帰っていくという、殿様らしからぬ人間だった。

 ただ、火具鎚の里は人目を忍ぶ忍の里であり、普通に入っても里には決してたどり着けない仕組みになっている。

 殿様と言えども例外ではなく、里の者の案内無しには里には来れないのだ。

 一応、普段から護衛の忍は着いており、案内ならばソレで事足りる筈なのだが……

「今日は(そら)姫様もお見えになる」

「なんと!?」

「おいおい、父親の悪癖が遺伝したのか!?」

 殿様に続いて姫まで来るとなれば、警護を強化しなければならない。

 狐幻丸が駆り出されるのも納得だった。

「では、行って参ります」

「うむ、くれぐれも用心するようにの……」

「はっ!」

「あいよ」

 返事と共に、狐幻丸と狸鼓の姿は音も無く消えた。



 霞がかった山道を数人の人影が歩いていた。

 一人は先導で、一寸先すら見通せない道を、しかし危なげ無く歩いていた。

 その後に続く人影が三人。一人は身なりの整った…身分の高そうな侍。

 後の二人は庶民的な出で立ちの父娘。

 しかし、格好こそ庶民ではあるものの、立ち振舞いや言葉は誤魔化せないようで、何処と無く気位の高さを感じさせていた。

「そろそろ着きますか?」

 娘が父親に尋ねた。

「いや、もう少しかかる……と思うんだが、いやすまぬ……毎度道筋も変わっておるようでな、確かな事は言えんのだ」

 父親はカッカッカッと笑う。

「頼りになりませぬな、父上は」

 そう言いながら娘もくすりと笑う。

「…………」

 その様子を眺めながら、侍は軽くため息をつく。二人の緊張感の無さに呆れている……と同時に諦めてもいる。

 侍はこの父親に対して幾度となく苦言を呈してきた。が、聞き入れられた事など極僅か。

 さらに今日に至っては娘まで着いてくると言い出したのだ。

 この親にしてこの娘有り……自分が何を言っても聞きはしないだろう。

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