此処で生きる 参
此処で生きる 参
「ほう……また新しい製品が……」
コンビニのスイーツコーナーで立ち止まった月夜は新製品に目を着けた。
買い食いと言っても、月夜が寄るのは大抵コンビニである。
月夜が住んでいるこの東村大和市は東京であるとは言え、どちらかと言えばベッドタウンであり、こう言っては何だがオシャレな街とは言い難い。
よって、ウィンドウショッピングとかできるような都会の若者が集まるスポットは無いに等しい。
だがそれでも、中学までは箱入りで育った月夜にとってはコンビニエンスストアは魅惑のスポットであり、高校に進学するまでは入った事が無かった所為も有ってすっかりハマってしまったのだ。
特に最近のコンビニには飲食スペースが設けられていて、ほぼ毎日のように寄って帰るようになってしまった。
ただ、家に帰れば雛が夕食の用意をしてくれている。基本的に買うのはコーヒー一杯とたまーに新作のスイーツぐらいのもので、あまり長居はしない。
今日も買ったのはコーヒーだけだ。
新作スイーツも気になったのだが、今日は少々帰りが遅くなってしまった……今食べると夕飯に差し支えると思い、泣く泣く諦めた。
実は以前、誘惑に負けてスイーツ全制覇を決行した事が有るのだが、その時は当然夕食はろくに喉を通らず、訝しんだ雛に詰め寄られたのだ。
で、白状した所……
『へー……そうですかお嬢様は私の用意した食事よりもコンビニエンスストアのスイーツのほうが良いと仰られるのですね? そうなんですね?』
と、ハイライトの消えた瞳で拗ねられてしまった。
しかも次の日から、夕食にはコンビニのスイーツしか出てこなくなった。
さすがにコレは不味い……と、月夜はすぐさま土下座を敢行。
なんとか平穏を取り戻したのだった。
とまあ……スイーツも好きなのだが、月夜にとって重要なのはこのゆったりとした時間なのだ。
ぼんやりと(特に見所は無いのだが)街並みや行き交う人を眺めているだけでリラックスできるのである。
だから気づいた。
(あの車……妙にスピードが……)
出しすぎだ。
あのスピードだとコンビニの前のこのカーブは曲がれないんじゃ──そう思いながらも、月夜は目の前の光景をどこか……映画でも観ているかのように眺めていた。
車体が横を向き
停められていた自転車を弾き飛ばし
駐車場の車止めに乗り上げ
車体を宙に浮かせ
気づけば車の底部が眼前に……
そういえば車の底って見たの初めてだな……と、この期に及んで他人事のように観ていた。
が……
ピシッ──
車体が窓に接触し、ヒビが入った瞬間。
「──────っ!?」
ようやく月夜の脳は状況を把握し始めた。
すなわち……
絶体絶命
次の瞬間、車はけたたましい音と共にコンビニの窓を突き破り、その身に巣くう破壊衝動を存分に月夜に向けてぶちまけた。
一瞬の静寂の後……
「きゃあああああああああ!!」
「じ、事故だ!」
「救急車!」
「おい、大丈夫か!?」
「何やってんだ! ふざけんなよ!!」
悲鳴と怒号が飛び交う。
そんな中、店員の一人が気づく。
「た……確か、そこに女の子が……座って……」
青ざめた顔で、少し前まで窓とテーブルがあった場所を指差した。
え……!?
その場の誰もが同じ事を思っただろう。
店員の指差した先にはもはや形を留めていないテーブルと、この惨状を引き起こした鉄の塊しか無いのだから。
「お…お客……様……お客様!?」
それでも店員は己の職務を果たさんと、ソコに駆け寄っていく。
皆、固唾を飲んで見守る。
遠巻きに見守るばかりで近寄ってこないのはやはり……発見したくないからかもしれない。
「…………あ」
程無くして、店員が何かを発見した。
唖然としているその表情から、周囲の人は「ああ……やっぱり……」と、失墜感を抱いた。
が、直後。
「だ……大丈夫ですか!? あ、ああ……良かった!無事です!! 生きてます!! 誰か手を!!」
店員が驚きと喜びの声を上げた。




