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狐幻丸、ここに!  作者: 赤き狐
第一幕【最強の忍】
18/68

此処で生きる 弐

「よほど小さかったか……残念ながら、君がいたという国は史実には載っていない。だから火楽がどうなったのか……という事は判らない」

 月夜は一応の補足をする……が、狐幻丸の耳には届いていないようで、

「天正十年……本能寺……?」

 眼を見開いて固まっている。


(火楽での戦から……たったの三年ではないか……!!)


 驚愕は怒りへと変わっていく。


「天下統一等と大々的に掲げておいて……火楽を滅ぼしておいて……このザマか!?」


 狐幻丸は拳を畳に叩きつけた。

「ひゃっ!?」

 その剣幕に一瞬、屋敷全体が揺れたかのように錯覚してしまい、雛は息を飲んだ。

「フォローする訳じゃないが、一応言っておくと、彼の起こした事がこの国に多大な影響を与えたのは間違いないよ? 現にこうして名を遺しているしな……」

「…………………だが…」


(つわもの)どもが夢の跡……ってね。星の数程の英傑達が己の野心の為、大切な者の為、文字通り命懸けで戦い……生き抜き……散っていった……そういう時代だったのだろう?」


「………………………………………」

 多くの散っていった者、国が在って…五百年後の今が……平和がある。

 火楽もまた、その礎の一つとなっているのだろう。

「解っている……でござる………されど!」

 ならば良し! とはならない。

 理屈ではないのだ。

「ふむ……」

 狐幻丸の気持ちも解る。解るのだが……

「ちょっとコレを見ろ」

 月夜は携帯端末を取り出した。

「む……ソレは『すまほ』でござるな! 知っている……知っているでござるよ!」などと何故かどや顔の狐幻丸をさらっと流しつつ、月夜が見せたのはとある動画だ。

「なんでござるか?」

 とある少年が一面の氷の上で跳んだり回ったりしている動画だった。

「コレはフィギュアスケートというものでね、技の難度と芸術性を競う競技なんだが……」

「ソレがいったい……?」

「彼がその末裔だ」




「は?」




「だから、彼がうつけの末裔なのだ」




「………………………………………」




 狐幻丸の顔から表情が消えた。

「いやいやいや……コレは無いでござろう……」

 いくらなんでもあのうつけの末裔がこんな軟弱な(誤弊)事をしている筈が無い。

「いや、間違いない。TVでも何度も取り上げられているしな」

「馬鹿な……」

「戦の無い世界になってから何百年も経って代変わりもすれば……その末裔がフィギュアをやったって不思議では無いさ」

フ……と、どこか悟ったように遠くを見つめた。

「えええええええええ………」

 狐幻丸は何と言うか……泣きそうな顔だった。

一族を、国を滅ぼした怨敵の末裔がコレェ!? とでも言わんばかりだ。


「さて、話を戻すが……」


 コホンと月夜はわざとらしく咳払いをすると、


「君は彼を殺すのかい?」


ズバリ核心に迫った。


「………………………………………………………………………」


狐幻丸はその様子を想像してみる。



『貴様がうつけの末裔でござるか!?』

『(TVでも言ってるし)はい、そうです』

『五百年前の恨み!! 思いしれ!!』

ズバーッ!

『わああー』

バタッ

『皆、やったぞ! コレで皆


 浮かばれない断じて浮かばれない。


 五百年前の恨みって何だ!? 今のこの少年には知りようもない話ではないか。

 フィギュアスケーターが突如現れた忍者の格好の時代錯誤者に襲われるというショッキングなニュースになるだけだ。

 そんなものが仇討ちと言えるのか?


(ただの辻斬りではないか……)


 動画の中では少年の舞に対して観衆が笑顔で喝采を贈っていた。

(天下泰平が此処には有る……かつての火楽が求めたものが……)

 例え火楽がもたらしたものではないとしても、ソレを自分が壊すなど火楽の想いを否定するようなものではないのか?


「…………やめだ」


 もはや小太刀を握る手には力は入らなかった。

 小太刀をしまうと、「一人になりたい」と、そのままトボトボと部屋を出ていってしまった。

「ゆ……夕飯には戻って来るんだぞ?」

 初めて会ったときの歴戦の猛者のような風格はどこへやら……

 決意の忍装束がいっそう痛々しく写るのだった。

 ちなみに、夕飯にはちゃんと帰って来た。



「また明日ー」

「桜華さん、またねー」

「ああ、またな」

 クラスメイトの挨拶に応じながら、月夜は校門をくぐった。

 門の外には高級車が何台か停まっている。月夜の家のものではないが。

 月夜の通う高校『私立 (すめらぎ)学園』には多くの名家の子供が通っている。

 月夜もまた、桜華財閥の娘である。他の生徒同様、月夜にも迎えが来ていてもおかしくは無いのだが……


 月夜には上と下に兄弟がいて、月夜の継承権は第二位だ。

 兄は大変に優秀な人物であり、自分が継承する事は無さそうだ……と考えた月夜は卒業したら家を出るつもりだった。


 故に、一般的な庶民の生活を知るために月夜は送迎を拒否し、買い食い(社会勉強)をしているのだった。

コレでストックが尽きました。

頑張ってはみますが、更新速度はかなり低下するでしょう。

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