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狐幻丸、ここに!  作者: 赤き狐
第一幕【最強の忍】
10/68

開戦 参

「親方様」

「うむ、話は聞いた」

 日が暮れてから、忠守の警護をしていた親方が一時的にだが戻ってきた。

「狸鼓はいったい……」

 狐幻丸の質問を手で制すると、

「失礼」

 親方は穹姫の顔を覗き込んだ。

「? ……なんじゃ? 妾の顔に何が……」

「御覧くだされ」

 親方は手鏡を出して、穹姫に自分の顔を見させた。

「…………は!?」

 穹姫はポカンと口を開けたまま、鏡の中の自分の顔に見入った。

「?……御免」

 狐幻丸も鏡を覗き込んで確認してみる。

「!?…これ……は!?」

 穹姫の両目には奇妙な紋様が浮かんでいた。

「なんじゃ……コレは!?」

「太陽と……月の様な……親方様、コレはいったい……?」

 親方は軽くため息をつくと、

「『太極眼(たいきょくがん)』だ」

「太極眼……!?」

「噂では陰陽道の起源とも言われている。森羅万象を司り、その瞳力は時をも征すると」

「時…でござるか……!?」

「そんな力が…妾に……!?」

 その力が有ればこの状況を覆すことも可能ではないか?そう考えた矢先、

「もっとも……」

 親方の言葉が遮る。

「完全に使いこなせた者などいないらしいが」

「む」

 出鼻をくじかれた穹姫はむくれた。

「親方は、他の太極眼の持ち主を知っているのでござるか?」

「むう……」

 親方は穹姫の顔をじっと見つめ、

「姫様の祖母、(あまつ)様だ」

「おばあ……様が!?」

 初耳だった。

 もっとも、祖母は穹姫がまだ幼い頃に亡くなっている故、それほどの思い出は無いのだが……

「天様も若くして開眼し修練を積んだらしいが、晩年においても思うように力は使えなかったと聞く」

 あまりにも不安定だったため、結局その力は国の為に使われる事は無く、太極眼の事は門外不出となったのだ。

「先刻開眼したばかりの姫様ならば尚のこと……その力は今は忘れておくのが吉でございましょう」

「して……狸鼓はいったい……?」

 穹姫の力が凄いのは解った。だが、ソレと狸鼓がいなくなった事に何の関連が有るというのだろう。

「うむ、恐らくは……飛ばされたのだろう」

「飛ばされた?」

「無意識のうちに発動させた太極眼によって……な」

「妾の……力が!?」

 親方は頷く。

「太極眼は時空をねじ曲げ千里の道すら超えるとも聞いた。姫様が狸鼓を助けようとしたのであれば……あるいは」

「もうなんでも有りでござるな」

 とはいえ、確かにあの時、狸鼓の身体は虚空に消えた。

 狐幻丸の眼ですら一瞬たりとも追えなかったのだ。ともなれば、これはもう瞬間移動どころではない。

 空間転移としか考えられないかもしれない。

「ふむ……して、いったい何処に?」

「ソレは判らん」

 親方はキッパリ言い放った。

「ついでに言うと、飛ばされたというのも憶測に過ぎん」

「おい」

「仕方あるまい、持ち主ですら全てを把握できなかった力なのだからな」

「むう……」

 それはそうだ。持たざる者は与えられた情報から推測するしかない。


「で、あるならば……姫様」


 親方は改めて穹姫に向き直り、真剣な面持ちになった。

「なっなんじゃ……」

 その迫力に気圧され、穹姫は身構える。

 が、親方は深々と頭を下げだした。

「あんなんでも息子夫婦が遺した大切な孫です。お助けいただき感謝つかまつりまする」



「………………………な」



 あまりにも予想外な言葉に、穹姫は呆気にとられ……しかしみるみる顔を紅潮させていく。

「ふ……ふざけるなぁ!!」

 怒りを露に立ち上がった。

「いつの何処に飛ばされたのかも判らんのじゃぞ!? もう二度と会えぬやもしれぬのじゃぞ!? そんなもの妾が…っ…妾が…っ……!」

 穹姫は言葉を詰まらせる。

「姫……」

 穹姫の肩は震えていた。

「……妾が、こ…殺したようなものではないか……っ」

 その瞳には涙が滲んでいる。



 二度と触れ会えない、声も聞けない、文も届かない、確かに人が死ぬということはそういう事かもしれない。

だが、親方は首を振る。

「姫様、ソレは違います」

「……?」

「我ら忍はいつ果てるとも知れぬ運命(さだめ)。ましてやこれから戦が始まろうかという時。正直に申せば、今生の別れを覚悟していなかったと言えば嘘になります」

「だから……もう会えぬと」


「違う場所、違う時代であっても、例え二度と会えぬとて、愛しい者が何処かで生きているのであれば……他に何を望みましょうか?」


「親…方……」

 穹姫はその場に崩れ落ちると、すまぬ……すまぬ……と声にならない声で謝り続けていた。

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