出荷と覚醒
ここは暗い暗い土の中、俺はいつものようにそこに埋まっていた。
いつからここにいるのだろう、物心ついた時には既に此処にいた気がする。
水をかけられ、そして日がな1日中土の中に埋まり続ける。そんな変わらない毎日が今日も続くと思っていた、そんな時急に俺の体は引っ張り上げられた。
なんだろう。と思うよりも早く俺の顔は土から出された、今まで頭上に降り注ぐだけだった陽光が俺の顔に注がれる。
あまりの眩しさと美しさに思わず惚けていると俺の体は猛烈な浮遊感とともに飛ばされる。
そして、何か硬質なモノに衝突しそこで停止した。
そこは、何故か地面が振動しており辺りを見渡すと俺と同じ姿形をした奴らが俺と同じように積まれていた。
暫くすると、遠くからザッザッと足音がして目の前に巨大な生物が現れる。
その生物は俺たちを見て一言、
「今日も良い出来だ。」
そう呟くと何処かへ歩き出す。数秒後、ガチャッという音の後にバタン!と何か大きな音がして、地面が動き出した。
正確には地面ではなく軽トラなのだが。
そう俺たちは大今日出荷される大根である。
そうして軽トラはまともに舗装されていない田舎道を進んでいく…
10分ほど走った頃だろうか、相変わらずの田舎道でガタガタと揺れていると、ガタンッ!と大きな音がして、俺は空中に投げ出され体を打ち付ける。
痛いな…
どうやら荷台から落ちてしまったらしい、どうにかして戻らないと…
そう思い必死に体を動かそうとするが所詮は大根身動き1つ取れない。
その時、轟音とともに俺は後ろから来ていた軽トラに踏み潰された。
ああ、だんだん意識がなくなる…どうして俺はこんな目に遭っているんだ?もしも俺が動けたなら…軽トラに踏み潰されても砕け散らないような丈夫な体ならば…そこで俺の意識は完全に途切れた。
ん…?おかしいな…まだ意識がある?
目を覚ますとそこは見慣れない森の中だった。
慌てて俺は辺りを見渡し次に自分の体を手で触れる。
ん?手で触れる…?
視線を下に向けると、真っ白な手が2本と足が2本生えていた。
更に踏み潰されて真っ二つになったはずの体には傷1つ無いようだった。
「どうなっているんだ…?」
え?俺喋れてる…?
驚いたことに声帯まで手に入れてしまったようだ。
これってつまり…俺、覚醒しちゃったの?