ひねくれた性格の作者が【桃太郎】を書いてみた
昔、山の近く、川の下流付近にお爺さんとお婆さんが暮らしていた。(山の中ではない)
お爺さんは芝刈りの為に山の頂上目指して登山。お婆さんは近くの川まで二人分の衣類の洗濯をしに行った。
お爺さんは仕事量が明らかに自分の方が多い事がわかっていた。しかし自分の方がお婆さんよりも体力があると思っていたので不満も言わずに頑張っていた。
お婆さんがいつものように川で洗濯をしていると、川の中央から大きな桃……のような形をした不思議な物体が流れてきた。少なくともこの物体が桃では無いことだけはわかる。何故ならその桃は自分で脈動しているからだ。
お婆さんはその桃のような形をした謎の物体を取ろうと思った。理由は『好奇心』半分、『恐らく桃のような形をした謎の物体の浮力を上げるために物体の下に敷かれている葉っぱみたいなモノが大きすぎて洗濯の邪魔』が半分だ。
お婆さんが川の中に入ってその物体を手に取ると6kg以上はあった。お婆さんはそれを持ち上げて洗濯物と洗濯板が入ったタライの上に乗せると、それを持ち上げて自宅へと帰っていった。
夕刻、キリのいいところまで仕事を終えたお爺さんが自宅へ戻るとお婆さんの隣に奇妙な物体が鎮座していた。桃のような形をしているが脈動しているため美味しそうには見えないその物体が気になり、お爺さんはお婆さんに「what is this ?」と問いかけた。そこでお婆さんは、この日の出来事を話した。それを聞いたお爺さんは言った。「そんなに体力余ってるんだったら芝刈り手伝ってよ!明らかに一人で出来る仕事じゃないよ!!」
お爺さんの心からの叫びを華麗に無視したお婆さんの作った夕食を二人で食べた後、二人は奇妙な物体について調べてみる事にした。だけど、どんなに眺めても『気持ち悪い』という感想が出るくらいで何もわからなかった。そこでお婆さんは言った「割るか!」
お婆さんがお爺さんに包丁を渡すと、お爺さんは物体に包丁を入れた。すると中から大量の液体が出てきた。さらに包丁を進めていくと中には物体の内側に胎盤とへその緒で繋がって、産声をあげている赤ちゃんがいた。
そこでお婆さんが言った。「なるほど、密閉した空間では中の子が呼吸が出来ない。だから母体の中にいるときみたいに胎盤から酸素を受けとる必要があるが、そのためには胎盤が繋がっている物体が呼吸をしなければならない。呼吸をするのなら確かに物体が脈動していなければならないな。しかしそれ以外にもまだわからないことが………。」
「お婆さんや、知的好奇心を満たすのは後でいいからまずはこの子をどうにかしなければ…。わしら、医療免許も医療技術もありませんよ。」
「それがどうした!」
その後、お婆さんが赤ちゃんとへその緒を離した。
明らかに身寄りの無いこの赤ちゃんをこの老夫婦が育てる事になった。名前が無いこの子を、お婆さんは『桃のような形状をした物体より産まれた太郎』を略して【桃太郎】と名付けた。老夫婦の家に突如現れた子供の存在はしばらくご近所さんの間で噂になったがそれは別の話。
時が流れて、桃太郎は立派な男の子に成長した。お爺さんの芝刈りを手伝ってくれるからお爺さんも大助かり。
そんなある日、鬼が隣の村を襲っているという話を耳にした桃太郎が鬼退治に行くと決意した。お爺さんは反対した。大事な一人息子が危険な目にあう、それにお婆さんの尻に敷かれているお爺さんの味方をしてくれる人である。しかし、桃太郎の決意は固く最後はお爺さんが折れる事になった。
旅の準備をしているとお婆さんから何やら袋を渡された。
「これは?」
「吉備団子だよ。旅に行くなら食料くらい持っていかないとね。」
「……なんで旅の食料がおにぎりを差し置いて吉備団子?」
「いろいろなモノをまぜ込みやすいからだよ。」
いろいろなモノの正体は気になったが、隠し味程度だと思って深く言及はしなかった。
桃太郎は鬼ヶ島を目指して歩きだした。お婆さんに貰った吉備団子を食べながら歩くと「お腰につけた吉備団子、一つ私にくださいな。」と犬に声をかけられた。
ヒトが言語を理解し話す事が出来るのはヒトの脳が大きいからだ。何故ヒトの脳が大きいのかというと、ヒトは直立二足歩行をするため重すぎる脳を支える事が出来るのだ。
しかし犬は四足歩行で頭が体の前に出ているため脳が大きいと生活出来ない。そうなると、言語をしゃべる犬はどうすればいいのかというと脳を支える事が出来るくらい体を大きくすればいいのだ。
通常の犬の脳は100g。ヒトの脳は1375g。つまり、桃太郎が出会った犬は通常の13~14倍の大きさだった。
通常の13倍以上の大きさの犬を前に、桃太郎は言うことを聞かざるをえなかったため吉備団子を渡した。その犬は吉備団子を食べると「お供します。」と言って桃太郎の後をついていく事にした。
後ろから妙なプレッシャーを感じながら旅を進めると「お腰につけた吉備団子、一つ私にくださいな。」と猿に声をかけられた。
通常の猿の脳は81g。直立二足歩行をしない猿も犬と同じ理論で体を大きくすると、通常の約17倍の大きさだった。
通常の17倍の大きさの猿を前に、桃太郎は言うことを聞かざるをえなかったため吉備団子を渡した。その猿は吉備団子を食べると「お供します。」と言って桃太郎の後をついていく事にした。
後ろから感じるプレッシャーに押し潰されそうになりながら旅を進めると「お腰につけた吉備団子、一つ私にくださいな。」とキジに声をかけられた。
通常のキジの脳は4g未満。直立二足歩行をしないキジも犬と同じ理論で体を大きくすると、通常の約344倍の大きさだった。
もはや動物に見えない大きさのキジを前に、桃太郎は言うことを聞かざるをえなかったため吉備団子を渡した。そのキジは吉備団子を食べると「お供します。」と言って桃太郎の後をついていく事にした。
ふと、桃太郎は思った、「人間と犬と猿とキジが同じモノを食べたのだが、それはいいのだろうか?」と。
そして桃太郎は吉備団子を渡したお婆さんの『いろいろなモノをまぜ込みやすい』という台詞を思い出した。
━━いろいろな動物が食べたがる、巨大動物がたった一つで満足する、食べた後に服従する、いろいろなモノがまぜ込まれた吉備団子━━桃太郎はそこまで考えたところで『あれ?ヤバいモノがまぜ込まれてたんじゃね?』と思った。そしてそれを自分も食べていた事を思いだし、これ以上考えると心臓に悪いと考えた桃太郎は詮索をやめた。
出会う動物のサイズがおかしい世紀末な森を抜けると海が広がっていた。この海を渡れば鬼ヶ島がある。そこにちょうど都合よく船があった。しかし、問題が発生した。そう、規格外サイズの動物たちが乗ると船が沈むのだ。
そこで桃太郎は動物たちに「俺は船で向かうから、お前らは自力で来い。」と言った。数秒後、犬が泳いだ時の波により船がひっくり返ったので陸に戻って桃太郎は犬に乗せてもらったが。
平行では無い犬の背中に振り落とされないように必死にしがみついていたら鬼ヶ島に着いた。ちなみにキジは飛ぶ事に向いていない鳥だったが、規格外サイズのお陰でたどり着けた。そして鬼の元に行こうと思ったら、規格外サイズの動物たちに鬼は無条件降伏した。
桃太郎は鬼たちに村を襲わない事と、奪ってきた宝を返すことの契約書を書かせた。そして桃太郎は犬に乗って帰り、船に乗って鬼ヶ島に再び行って宝を持って帰って平和に暮らしましたとさ。
おしまい