Side olderNo.1
Side older.
同期が倒れた、という連絡を受けたのは、取引先のドアをくぐり、やっと解放されたところだった。1番気に入りのバラードがいつもよりもこころなしかけたたましく鳴り、慌てて電話をとるとまくし立てられた。
「ただの貧血だ。本人は大丈夫だと言い張ってるが…部長の目の前で倒れてくれたからな、まさか仕事に戻すわけにもいかない。ったく面倒な…そんでお前、この後…」
散々迷惑を掛け、部下に睡眠不足を強要しているのは誰だ、と言いたい気持ちは抑え、任された、というか押し付けられた仕事を片付けるために急遽路線を変更。溜息がついて出る。
倒れたというその同期は、部署内で最もあっさりとしたヤツだ。
情が薄い、というわけではない。それだったら電話先の上司が筆頭である。
仕事の手が早いというわけでも、話が巧いわけでも、面白いわけでも、歌が上手いわけでもないのに、というかそれらはどちらかというと劣っている方なのに、社に長くいるというだけでよくあんなに大きな顔が出来るなと、常々感心させられる。そして今回のように仕事を押し付ける時の感情の籠らない顔は天下一品だ。
それに比べ同期の方の情は厚いと言っても過言ではないと思う。
先月の誕生日に貰ったハンカチの品のいいデザインは好みドンピシャで、もちろん愛用させてもらっているし、酒の席で彼女にフられた話をした記憶もないほど悪酔いしてから、一週間もたたない内に開催された、女性の多い部署との飲み会の幹事は確かアイツだった。
気がきく、人当たりは良い、仕事も早い、即ち人に好かれる、しかし女にはモテない…なんて笑いをとっていた。
その原因は、やはりそのあっさり感だと思う。
人付き合い、仕事、恋愛もきっと
「こなしている」だけ。
斜に構えている訳ではないが、そんな気がする。
そうだとしても良いヤツなのだが。
「女性にはモテナイんだよーお前らは可愛がってくれてんだけどねー……ね?」
「残念ながら俺はノーマルだ。他を当たってくれ。」なんてやりとりも交わしたが、待てよ…あいつ彼女いなかったk…
その時、天と地というかホームが逆転した。
改札階から下って下って、ずっと階段を下りていたその勢いのまま足を下ろしたところに段差はなく、その床は湿っているという、アンラッキー二重構成の末に大の大人が
コケた、という詳しい状況を知るのがそれから数ヶ月後のことだとは誰も予想さえしていなかっただろう。