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20、野望

 突然現れた、機構との因縁深い坊主。そしてその場に居た坊主にとって見知った顔、見知らぬ顔。更には聖獣。

 そんな来訪者に対してどこから説明したものかと頭を悩ませるも、全てを上手く説明できる言葉を思い浮かばず。そんな中、口をついて出た言葉は先ほどまでの会話の内容だった――







20、野望








「同郷だと?あの男がか」

「確定じゃないけど。多分な」


 突如この場に現れたものの一旦、距離をとって俺のほうへと来たナルジ(俺を庇うように立っているのはマゲツ達を警戒しての事だろう)

 その背中に向けて会話の流れで得た推測を口にする。今までここであったことへの説明と共に。

 まあ、俺の記憶が完全じゃないんでそれも確定してないのは事実だが。


「そうか。機構への勧誘と聞いて、お主の正気を疑うところだったが…そのような事情があるのならやむをえん、か」

「別に着いていく気はなかったんだけどな」

「それは当然だ。それとこれとは別の話であろう。いかなる事情があれどあの外道どもに心を許すなど言語道断」


 いやはや。この坊主の機構への恨みときたらすごいもんだ。昨日から話した感じじゃこの坊主はどちらかといえばお人よしのの部類に入る。けど、こと機構絡みになると人が変わったように激高する。


「それで、だ」


 距離を保ちつつマゲツとヒロキのおっさんを睨みつけるナルジ。


「奴らの――」

「グルルルルッ」


 と坊主が更に口を開いた瞬間、俺たちの間に立ちはだかっていた聖獣?メリナが突如吠えた。


「っ!」

「うおっ!」


 機構の二人へと。


「ふむ?」


 襲い掛かることはないものの、こちらに背を向けて、まるで俺やナルジの味方であるかのような立ち位置、振る舞いに軽く困惑するナルジ。


「お主…やはりこの者と何か関わりがあるのではないか?」

「そう言われてもなあ」


 強いて言うのなら、昨日この坊主の技で一緒に閉じ込められた間柄ってとこか?あとは俺がこいつの名前を付けたってだけだな。

 他には特に関係も何もない。


「グルル…」

「えっ」


 とそんなことを考えていたら当の本人?が何故かこちらを振り向いた。その金眼銀眼オッドアイを細め、心なしかどこか咎めるような目つきで。そのままこちらに近づいて俺の横でじっと見つめる。なんとなく目を合わせるのが憚られるので、俺もちらりと見るにとどめておく。


「グルル……」

「お主は……いや、今はいい。それよりも」


 何故か坊主にまでそんな目つきをされたのは納得いかないが。


「話は変わるがそこの男よ」

「あン?俺か?」


 メリナが居た空間が空いたためか、ヒロキのおっさんに話しかける坊主。


「お主は何故機構に与する?」

「わざわざ理由を教える必要があンのか?いきなり有無を言わさず襲いかかってきた坊さんによ?」

「必要はない。だが機構の所属、というその一点だけでお主は儂の敵とみなす」

「ほーん。それはそれは――」

「何故私を見る?」

「いやどう考えてもお前さんが原因だからだろ」


 と、そんな二人のやり取りを聞きながら考える。


「ぐるるる…」

 何か大事なものが抜け落ちてるようなこの感覚。勿論記憶がないのは間違いないんだけど、記憶とは別に感覚的に何か必要なものがないような――


「どちらにせよ機構の関係者は潰すッ」

「ふん。もう昨日のことを忘れたか」


 そうだ。あまりにも普通に会話してるから忘れてたけど、昨日ナルジはこっぴどくやられていた。右腕も折れていて――ん?


「…忘れるものかよ。だが、祖先の御霊の鎮魂のため…!そして今後の聖国の為、機構の輩を今以上にのさばらせるわけにはいかぬ!」


 治ってるな?いやそれを言い出したらマゲツもそうか。


「熟練の法術師だけはある。『治癒』までも可能か」

「…その法術師への理解度もまた癪なものよ。その知識を得るために…おぬしらは幾人我等が同胞を犠牲にしたというのだ!」


 あれだ。もう何を言っても機構の奴らに関して、この坊主が落ち着くことはなさそうだな。


「ふん…いくらか勘違いをしているようだ」

「勘違い、だと?」

「そうだ。勿論すべてではないがな。法術師、特に位階六以上の熟練者は確かに機構で何人かは屠ってきた。が、それ以上に数多くの法術師を滅したのは貴様らの首魁――ヨハン・カゲクラということだ」

「っ!」


 まただ、その名前を聞くのは。昨日ナルジから聞いた頭のおかしい法術師の名。


「私は無益なことは好まぬ。なのでもう一度だけ問う。ヨハン・カゲクラについて貴様が知り得ることを話せ。そうすれば…私の権限において貴様は生かしておいてやる」


 そう言いながらマゲツは右腕を鎧う。

 おそらく。交渉?がどちらにころんでもいいように。というかどう聞いても脅しだけどな。


「断ると言った…!」

「ふん。最早手心は加えんぞ」


 そうして、昨日の焼き直しのように見る見るうちに全身を鎧うマゲツ。まずいな。


「元より無用。儂も昨日のように油断はせぬっ!」


 確かに。昨日はもう一人の奴を倒した勢いでそのままマゲツへと突っ込んだナルジだが、今は距離を保ったままにらみ合う。

 でも…昨日みたいになるのは勘弁だな。


「なあマゲツ」

「む。奇人か、なんだ」


 しょうがないので口を挟む。あと当たり前のように呼ぶその呼び名はなんとかならないのか。


「俺があんたに着いていくからこの場は収めてくれ、って言ったらどうだ?」

「なっ!ゴンベエ!」

「ほう?そうすることで私にどのような益があるのだ?」


 驚いたナルジはほっといて続ける。


「そうだな。そうすれば、あんたの嫌いな無駄ってのが省けるんじゃないのか?それに正直、俺にとってはナルジのほうが世話になってるんでな。もしまたその坊主を害するんなら、俺は完全にあんたを敵とみなす。勿論あんたに着いていくとかあんたの希望に沿うようなことは今後何一つしない」


 実際は大して変わらないけど。

 それでもあれだ。ナルジに対しては昨日の一宿一飯の恩ってやつだ。


「ふん…ミナツキ、貴様はどう思う?」

「ああ。いいンじゃねえか。そもそも俺はその予定だったしなア」

「だ、そうだ。あとは貴様だ法術師」


 どうやら、俺は争いごとがあんまり好きじゃないようだ。さっきはなし崩し的に戦闘になってたが、それを避けられるのなら尚更だ。俺には特に勝ち負けとかこだわりはない。


「断る…!」


 と、思っているとナルジが叫んだ。

 おいおい。決して良い条件とは言えなかったかもしれないが、落としどころとしてはそれなりだった筈だ。どちらかと言えば昨日よりも悪いこの状況で、そこまで拒絶するもんだろうか。

 …いや、それだけナルジにとっては機構との関わりは根が深い、のか?というかなんで勝手に俺の意見が断られたのか。


「後悔するぞ法術師」

「…するものかよ。お主こそ、古い・・割には我等との確執を甘く見過ぎではないのか?」

「甘く見たつもりはない、が。私が目こぼしすることなどそうそうないことだぞ」

「ま、そうだなア」

「お主らの事情などはこの際どうでもよい。そもそも機構――聖国機人機構の輩とは疾うの昔に道を違えている…!例えそれが大法術師ヨハンが大きな要因だとしてもだ。飽くまでもそれはきっかけに過ぎぬのだ!」


 凄い剣幕だな。恨みつらみってのは俺にはわからない。だが、そう言わずにはいられない今までの関係性があるのはよくわかる。

 でも困ったな。あまり乗り気じゃなかったとはいえ俺が機構の奴らについていく目は既になさそうだ。


「お主らは歩みよった法術師に対して何をした。振り上げた拳を下ろした者たちへ牙を剥いたのは最初期の機人であろうが!」


 大気が震える、ような凄まじい気迫。もうここまでくれば言葉だのでどうにかなる段階じゃあなさそうーー


「ーー何を言おうとも、貴様が納得することはないか」

「そう言っておるだろうが!」

「ならば死ね」


 駄目なのか。いくら言葉を尽くそうがナルジが歩みよることはないとあいつらも確信したのだろう。躊躇いなくそんな言葉を吐く機人ってやつは確かにナルジの言うような奴らなのかもしれない。

 なら俺はーー


「おい隊長」

「貴様は口を出すな…ついでに手もな」

「隊長、あんた…」


 そうだろうな。ヒロキのおっさんも俺と同じく無用な争いを避けたいクチだろう。それはなんとなくわかってた。


「外道ども。お主らは死して償う以外何もするな」

「……これも宿命か。機種(きだね)の発見故の」


 機種。機人に備わっているーー技術か、あいつらの言葉からすれば。

 だが何かがひっかかる。俺は何に違和感を感じているんだ?


「お主らの都合でほざくな。我等を踏みにじってきたことは純然たる事実。機種の発見をその利己的な感情で利用したのは我等にとっては、意味のない言い訳だ」

「……国の発展には犠牲がつきものだ。むしろ、その礎となれたことを誇るがいい」

「っ誰が!」


 法術。機種。この二つを聞いて、それぞれ扱う奴を目の当たりにして何か腑に落ちないような、もどかしいような。


「こい、粒子共よ」


 っ!そうか。粒子か。ようやく分かった。

 法術師、機人。こいつらはどちらも粒子を扱う。


 ならば粒子とは?そもそもがなんなのか。


「今度は遊ばん。致死量の粒子を浴びるがいい」

「ほざけえ!(へき)!」


 マゲツがどこからともなく収束させた粒子を、これまた同じく収束させ前方に壁を作って防ぐナルジ。

 どちらも同じような力のぶつかり合いに見える。


「っ!」

 なんだ、こんなときに。また凄まじい頭痛が急に俺の頭に!


 ーー奴らを止めろ


 誰、だ。


 ーーそんなことはどうでもいい、止めるんだ!


 もう無理だろ。あそこまで揉めてたら


 はっきりと聞こえる声。これは俺の頭痛からくる幻聴なのか…?律儀に応えてみたものの、その可能性も捨てきれない。


 ーーおいマナっ


 やはりおかしい。俺に呼び掛けていのかと思ったが知らない奴へと呼び掛けているような声だ。その名前は何となく女みたいな名前だと思った。


 ーー世界を変えるんだろうマナ!


 だから俺の名はそんなんじゃーー


 ……世界を、変える?

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