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9、鎧う者[決まりごと]

 望むと望まざるに関わらず、面倒事に巻き込まれる男。

 単にそういった星の下に生まれてきただけなのだろうか。記憶が無いにも関わらず「俺の人生大体こんなもんだ」と不自然なほどに様々な状況を享受する己の心持ちを特に違和感なく受け入れる。そんな感情はもしかすると記憶を取り戻すきっかけになるかもしれないと淡い期待を抱く。そういった元々持っていた感情は研究者の女との会話で触発されたのか。

 あるいは、目まぐるしいほどに状況が流れていくので難しいことを考えることはやめたほうが楽なことだと思っただけなのかもしれない。





9、鎧う者[決まりごと]





「おい、光ってるぞ。これってなんのためなんだ?」

「どうして」

 そう問うも研究者の女ヤブチは答えるどころではないようで、赤く光るランプを凝視している。


「粒子センサーが改良された?ピンクパウダーを透かすほどの?そんな頭を持ったのが居るのか」


 ピンクパウダーってなんだろう。


「それとも」

「な、なんだ」


 ぐるっと音がしそうな勢いでヤブチが俺のほうへ向き直った。


「粒子漏れ、もしくは奇人特有の物質か?でもリクドウの時は確か……」

「おい……?」


 俺の顔を見ながら、わけのわからないことをぶつぶつと呟くのはやめてほしい。


「大変です!大変です!」

「待て。落ち着け」


 取りあえずさっきから同じことしか繰り返さないサナを止める。


「でも大変なんです!」

「落ち着けって言っただろ。何が大変なんだ?」


 そう言うとサナはようやく落ち着いたのか話しはじめた。




「――――というわけです。だからどうしようかと」

「……」


 あの暗い中で目覚めてから色々なことがありすぎて、置かれている状況がいまいちわからない。だが今のサナの話を聞いて一つ、考えなければならないことができた。

 まずは確認するか。


「見間違いじゃないんだな?」

「あったり前です!わたしを誰だと思ってらっしゃるのですかっ!」

「ウザイ女」

「ガーンッ!」


 びっくりするぐらいなら聞かなきゃいいのに。あ、つい本音が。


「ちょ、ちょっと待ちましょう!なぜどうしてホワイ!?いつわたしのアダ名を知ったのですか!?自分で言うのもなんですがわたしは基本的におしとやかな女子なんですが!?」

「サナ」

「はい!」

「そういうところ」

「なあっ!?それ言われたらもう駄目じゃないですか!うわーん、ゴンベエさんの、ばか正直、鬼畜どエスっ!」


 泣き真似し始めて心底ウザいと思ったものの、話が進まなくなるので無視する。

 ともあれ、見て確認してみないことにはわからないな。


「行くのかゴンベエ?」

「ああ。位置もおそらく俺の時と同じだろうしな……サナを信じるなら、だが」

「ひどい!ひどすぎますよゴンベエさん!なんでわたしそんな信頼ないんですか!?」

「ウザイから」

「ひぃーん!」


 まあ、冗談はさておき。いくらこいつの性格がウザイと言っても人間性は信頼している。しかも、内容が内容のため嘘をつく意味がない。だから、少なくとも見たのは間違いない。


「だが、その場所。方角的におおよそはわかるだろうがお主が居たという所に間違いはないのだろう」

「そうだな」


 サナの話はこうだ。

 見回り(という名の散歩)の最中に森のほうを見たところ、それまでになかった高い建物が見えたらしい。距離にして大体三km程度離れた場所であり、最初見間違えたかと思ったらしいが、俺が目覚めた場所もその辺りだったため、可能性としてはありそうな話だった。


 …あの暗い場所。あそこも暗かったため細部までしっかりと見ることができたわけじゃないが、風の入ってくる感覚ならかなりの高さの吹き抜けだったような気がする。


 …しかし。大きな疑問が一つある。


「そんなでかい建物が消えたり現れたりするもんなのか?」

 そんなわけないだろう、と至極当然の突っ込みが坊主から発せられた。


「だよな」

「ああ。だが考え方を変えれば、或いは可能性はある」

「なに?どういうことだナルジ」

「汎用性を無視すれば、と言ったほうがよいかもしれんな。大型の飛行船ならば高さに特化したものぐらいはあるだろう」

「飛行、船…?」

「うむ。儂の愛機は一人乗りの小型だが、あのざっと数百倍値が張るものでも家屋程度の大きさのものが流通している。だから寧ろあるほうが可能性は高い」


 儂は見たことがないがな、とさも当たり前のように言うナルジだが、そんな超技術の乗り物があること自体初耳なんだが。

 いやそう言えばナルジと初めて会ったとき小型のヘリみたいなものな乗ってたな――あれ?


「でも確かあんたはあれから飛び降りてたよな」

「おう。儂はあの程度の高さなら少々飛び降りようが意に介さぬからな」

「いやそうじゃなくて」


 ナルジの人間離れした身体能力はともかく。それよりも、いったいどうやってあのヘリ……じゃなく飛行船は動かしていたのだろう。一人乗りと言っていたが。

 そう訊くと。


「自動操縦のものは珍しいかもしれぬな。しかし儂のような生業の者にとっては不可欠なのでな、値は張ったが組み込んでいる」


 自動操縦機能まであるらしい。なるほど、便利なもんだ。


「しかし、サナの見たそれが飛行船だとすれば厄介かもしれぬな」

「どうしてだ?」

「……それほどまでに巨大な飛行船を所持できるほどの資金力、組織力、可能性があるとすればそれは『機構』の者と考えるのが妥当だからだ」

「ナルジ…?」

 さっきの話でもそうだったがこの坊主は機構って組織に大きな恨みを抱いている。だから、目に怒りの感情が灯っている。

「ともあれ、確認せんことには対処のしようもない。ここは一つ、儂の飛行船を貸してやろう。それに乗って確かめてきてはどうだ」

「っ!いいのか?」

「ああ。お主には借りがある。成り行きとはいえ法力を喰らわせたな。傷を負ってないが本来はに使うものでもないのだ。だからできれば償わせてくれぬか?」

まあ、まったく気にしてないと言えば嘘になるが、それでも厚意をありがたく使わせてもらうことにした。というよりも飛行船に興味があった。


「近い」


 ナルジに飛行船の操作方法を聞いてたら、赤色灯を見ていたヤブチがそう言った。


「近い?」

「ケイ粒子の反応が」

「ケイ粒子?って――」

 なんだろうと思って訊こうとすると、いきなり入り口の扉が吹き飛んだ。


「聖国機人(きじん)機構だ!」

「……」


 大声がしたので見てみると。入り口があったところに二人の男が立っていた。

 聖国……なんだって?


「この区域に大きなケイ粒子の反応が確認されたため改める!」


 聖国キジン機構……?

 なんだそれは?と思っていると、話を聞いた途端ナルジの顔が憎悪に染まった。


「ナルジ…?」


 坊主頭から凄まじい殺気が溢れだす。


「外道どもが……!」



 ――俺には記憶がない。

 それは俺個人にまつわるものだ。

 少なくともそう思っていた。

 しかし、今日だけで記憶がないだけでは説明のつかない事実がいくつもあった。


 法力。聖獣。聖戦。飛行船。あげくの果てには聞いたこともないような機構。


 そろそろ脳の容量がパンクしそうなぐらいに頭の中に疑問符が飛び交っている。あまりにも聞いたことがない、不可思議な話を聞いたために。

 そして極めつけは。


「…ほう。不遜な輩が居るな。しかもその法衣は、討ち漏らし(・・・・・)か…機武装を許可する。やってみろラウ」

「はっ!了解です隊長――――フルアームド!」


 それまで口を開かなかったほうの男がそう言い、威勢よく喋っていた奴が叫んだ瞬間、


「鎧?」


 突如そいつが鎧を身に纏った。



 ――それは確かに驚愕だった。しかしどちらかと言えばその鎧う姿を見たことで俺の記憶が大きく揺さぶられたことが問題だった






△▲△▲△▲








「ねえ嘘でしょ」

「なにが」


 追いつきすがるやつを半ば無視するように、俺は進む。


「なにがって…せっかくので、で、デートでそんなの観るなんてちょっとないって言うか、周りの視線が痛いっていうか、ちびっこたちの邪魔っていうか…」


 言葉尻がすぼんでいったのは俺がそいつを睨み付けたからだろう。


「お前の買い物に付き合ったとき俺は何て言ったっけ?」

「え。えーと、『ありがとうだいすき』だっけ?」

「ちがう。しかも何で俺がお礼を言ってんだよ」

「あ、あれ。じゃあ『おまえをあいしてる』だっけ?きゃっ」

「捏造すんなうぜえ」

「ひどいっ!」

 こいつはたまに…というかよくガキっぽいこと言う。勝手に俺が言った言葉を作ったりしてな。


「ええー。なんかそれっぽいことだったのにー」


 ぶーぶーうるさいので黙らそうとまた睨み付けた。


「えぅ。えーとぉ『俺と付き合って下さい』だった、よ…ね?」

 何で急に自信なさげなんだよ。


「言葉は大体合ってる」

「だよね、だよね!だからさっきのあれもそんな大した間違いじゃない――」

「だまらっしゃい!」

「ひぅ!ええ、なんで!?」

「意味が全然違うだろ!俺は『お前の用事に付き合ったんだからお前も俺の用事に付き合え』って言ったよな!」

「…………」

 懇切丁寧に説明してやってるのに見れば両手で耳を押さえつけて聞こえないふりをしてやがった。


「聞こえませーん。そんな色気のない言葉なんて聞いてませーん」

 ぐぅ…うぜえ。しかもこのやろうの見た目は美少女と言えなくもないので、知らない人から見れば何故か俺がひどいやつみたいに見えるのが納得いかない。


「昔からの約束だろ。何か一つ頼むなら逆に一つ頼みごとを聞くって、俺とおまえはそんな決まりごとを約束してたよな?」

「聞こえませーん。カップルなら一緒に買い物したり一緒に遊びに行くのは当たり前のことでーす」

 答えた時点で絶対聞こえてるだろ。何の嫌がらせだカップルて。


「わかったもういい。帰れ」

 一言そう言うと俺は踵を返して猛ダッシュで駆け出した。


「あああーっ!?」

 気づいたやつはしかし今日はめかしこんでおり、少しヒールの高い靴を履いていた。そのため追いかけてこようにもそれができない。


「待ってー!」


 少し走って置いてきぼりにし、しばらく反省させてから走る早さを緩めてやる。あまりひっぱらないのがコツだ。上映時間もあるしな。

 最近いつもあんまりふざけた生意気なことばっかり言うので俺の幼なじみに対する扱いは大体こんなもんだ。

 しかも、こいつは俺がそういう扱いをするととても嬉しそうな顔をする。

 だから俺の気質がエスなのは俺のせいではなく幼なじみのせいだと信じている。

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