第一章⑦
読みにくかったので修正しました。
車の中に拉致され、半ば強制的に入れられるも、いまだ状況が呑み込めていない。車は快活に進み続けるも目的地もわからない。広い車内には運転手のじいや、女と僕の三人。
音楽などもなく静かで、自然と緊迫した空気になっている。まるで、今から葬式でもあるかのようだ。
「あの……この車どこへ向かっているんでしょうか? えっと……」
「リリ」
「え?」
「私のことはリリでいいわ、悠斗」
はい? リリって、いきなり下の名前で呼べと? ハードル高いな、おい。
そのリリはすぐにタブレットに目を向け、目にも止まらぬ速さで操作している。話が通じそうな、じいやに助け船を送るも運転に集中していて、一切こちらを見ない。
「あの、リリさん。この車は……」
「…………」
いや、僕の声、聞こえてますよね。無視しないで答えてくれませんか。
リリはポケットから何やら取り出すとこちらに投げてきた。僕の胸元に当たり、膝の上へと落ちる。
なにこれ、って僕の生徒手帳じゃないか。
「これって……」
リリはこちらを見ることなく、再びタブレットへと視線を戻した。
生徒手帳あんたが持っていたのかよ。だから名前を知っていて、僕は校門で怒られたんだね。
リリは横にある肘掛を指先で二度叩いた。静かな車内の中ではその音さえも鮮明に聞こえる。
その直後、綺麗に整った眉が不自然なほど歪むと、不機嫌な顔で睨まれた。
え? 何かしましたか? 急に睨まれても何が、何だかわからない。
リリは呆れた顔をして、小さくため息をついて呟いた。
「そうだった……」
え? 今のやり取りの中に何が!? 僕何かやりました? 意味のある行動なんて一つでもありましたか? なんか失望された目で見られたんですけど。
学校を出て一〇分ほどで、車はようやく停車した。ということは目的地なる場所に到着したということなのだろうか。
窓の外を覗くとそこは見るからに巨大なとある国立病院だった。車はタクシーなどが並ぶロータリーへと止まり、ハザードをたいて停車している。
じいやは素早く外へ出て、車の周りを小走りで歩き対角にある後部座席の扉を開けた。その光景を黙って見ていると、動かない僕に気づいたリリがこっちを向いて言った。
「早く降りなさい。何をもたもたしているの。あなたは命令されなければ動くこともできない動物なのかしら?」
「は、はい、すみません」
今朝といいこの人の罵倒は天才的だ。よくそんな余計な言葉が口から次々に出てくるもんだ。
リリはじいやが開けた扉から降りると、頭にかけていたサングラスをすっとかける。太陽の光に弱いのか、かけたことにより、セレブ感が増した気がする。
僕も慌てて別の扉から車を降りて、リリの近くへと寄る。ここに何の用なんですかね。
「お嬢様、お一人で大丈夫でしょうか?」
じいやはすかさずリリに問いかける。
「ここは病院よ。人の命を救う場所。死なない怪我なら大丈夫よ」
へ? どういう意味ですか? その言葉おかしいよね。僕これから拷問にでもかけられるんですか? なんでもするとは言いましたけど、何でもされるとは言ってませんけれども。
「かしこまりました、お嬢様。お気をつけて」
じいやはペコリと深くお辞儀をして、見送るようにその場で静止している。
僕はここに何しに来たのか、何をされるのかわからない状態に足が動かせずにいる。
「あ、あのこれから僕は何を……」
「あなたの前世はカラスか何かなのかしら? ギャーギャーとうるさいわね。もう少し静かにできないの?」
一応、僕には知る権利があると思うんですが、さっきから何一つ教えてくれませんよね。
リリに連れられ病院に入ると、受付を通らず、そのままエレベーターへと直行する。
このまま霊安室に向かったりしないよね。
エレベーターには僕ら二人しかおらず、ほんの数秒なのだが、とてつもなく気まずい時間を過ごした。人生で一番長い二〇秒だ。
チンと音を立てて着いた先は四階。さすがに四階には霊安室なんて置いてないだろうと安心するも、目的のわからない行先に不安を拭いきれないのも事実。リリはエレベーターを出ると、無言ながらもヒールの音を響かせながら廊下を歩いていく。
その後を追いかけるようについて行くが、数秒もしないうちに、リリの足が止まる。たどり着いた先は、四〇六号室と書かれた普通の病室だった。
扉の前に立ち止まったリリはこっちを向いて言う。
「ここから先はあなた一人で行きなさい。私はもう時間がないの」
そう言って、リリは台風のごとく、来た道を戻り、去って行った。
「ちょ、え? ええ?」
説明を省き過ぎでしょ。何、ここに何かあるの?