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ボクは仕事につかれました。  作者: 新京極宮子
7/22

第一章⑥

読みにくかったので修正しました。

 新入生も仮入部期間ということで、部活動に入っている人は忙しいのだろう。

 部活動に向かう人たちは多かったが、部活前に少しだけ参加する人もおり、過半数の人が集まっていた。その中、こそっと廊下へ出る。

 盛り上がっているところ悪いんですけど、今日は家でゆっくりする予定なんだよな。

 うん、目立たない人物というのは教室を出てもわからないんだよ。一人誰かいないってなっても、三十分は気付かれないだろうな……なんか哀しくなってきた。

 階段に差し掛かり二段飛ばしで降りていくと、下駄箱の横でさや姉が待っていた。


「あれ、さや姉、委員会は?」


「今日はないよ。だから一緒に帰ろっか」


 三年生もクラス替えはあるというのに、新しい友達と帰ったりしなくてもいいのだろうか。

 いつも心配をされている分、こっちも心配になる。

 上履きから外靴へと履き替えていると、下駄箱の奥から声が聞こえてきた。

 この状況を避けるべく素早く逃げてきたのに、まさかここまで早いとは。

 靴のかかとを踏んだまま慌てて前に進むが、間に合わなかった。下駄箱の脇から、ついさっきまで話していた松宮さんが現れた。


「あれ、三国君……んー、あ、そっかそっかぁ」


 かわいらしい笑顔で僕とさや姉を交互に見て言った。


「ゆうくんのクラスメイトさん?」


 さや姉は松宮さんを見ると、笑顔で言った。


「ゆ……同じクラスの松宮です」


 ちょっと、さや姉? クラスメイトの前で「ゆうくん」は止めてくんない? 子供扱いされているみたいで不愉快だよ?

「これから一年間、ゆうくんをよろしくお願いします」


 ご丁寧に頭まで下げて、あんたは僕の母親かよ。


「いいえ、こちらこそ」


 松宮さんも軽く頭を下げた。二人に何か不穏な空気が漂って感じるのは僕だけだろうか。


「じゃあね、三国君。また明日」


 そう言って松宮さんはクラスメイト数人を引きつれて校舎を出て行った。幹事ということで、こんなところで時間を使っていられないのだろう。

 クラスメイトが歩く後姿を見ていると、その視線に気づいたさや姉が、声をかけてきた。


「かわいい子だったね」


 その一言に何の意味があるんですか。かわいい子ではあるけれども。

 さや姉は何やら嬉しそうな顔で見ている。


「いや、別にそういうんじゃないから」


「そういうのってなに?」


 ぐ……出た。さや姉のこういうところは面倒くさいんだよね。お節介というか。姉に恋愛話を聞かれている様な歯がゆい感じだ。


「席が前なだけだって」


「ふふ、頑張りなよ」


 もういいよ。思い込ませておこう。面倒くさいだけで特に被害はないんだし。

 松宮さんとは少し遅れて下駄箱を出る。普段は立ち止まることのない校門だが、僕たちは足を止めてしまった。というのも、なにやら校門前に人だかりができている。

 なにかあったのかな。始業式の後といえども何かおかしい。

 下校するには校門を通るのは必然となる。僕とさや姉も校門前に集まる視線の人物に目を向けると、周囲の視線を集めていたのは、誰もが振り向く美貌を持つ女が校門に立っていた。

 その横には横長い高級車が一台と還暦を越えているであろう、お爺さんが一人。高級車も下校中の生徒が足を止める要因になっているのかもしれない。

 生徒が足を止めるほどの人物に興味はあるものの、一目見るだけでよかった僕は人の隙間をぬってその女性を見る。

 だがこの行動は間違いだったのだろう。隙間から見えた人物は確かにとてつもないほどの美人だった。茶色よりも明るい髪に白い肌。膝あたりまであるロングコートに大きなサングラスを上げて、おでこあたりで止めている。


 …………あれ……? どこかで見たことあるような。


 学校の名前が記された正門に背中をつけて、女王様気取りで腕を組んだその女と目があった。

 女は、何かに気づいたように歩いていく。いや、歩いてくる。

 ん? あれ、こっちに誰かいるのかな。

 後ろを振り向くも背後にはそれらしき人物は見当たらない。目的が僕の背後ではないと思い、前を向いた瞬間、その女は僕の目の前に立っていた。

 僕は自然と身体を震わせて驚いた。あまりにも近すぎて、声さえ出なかったのだ。

 この女性の探していた人物が見つかったようだが、その視線の先には僕しかいない。この女性と面識なんて……あれ、この目って確か、今朝の……

 その女性の目はとてつもなく綺麗な蒼い目をしている。僕の脳内が記憶の捜索活動を始めるも、その作業はすぐに中断されることになった。


「いくわよ。三国悠斗」


 彼女はそう言って、僕のネクタイを強く掴んだ。

 ん? デジャヴ? なんかこの光景、この感覚、今朝にもあったような気が。


「え? あの、ちょっと……」


 まるで言うことを聞かない犬のように強く引っ張られる。抵抗することもできずに、足だけはゆっくりと進んでしまう。身体は全面的に拒否しているのに。

 抵抗する間もなく力に負ける。周りも何が起きているのか分からず呆然としていた。

 あの、誰か助けてください。待ち合わせとかではなく、これは拉致なんですよ。

 目で訴えるも、綺麗な女性に連れて行かれる僕をうらやましそうな目で見ている男子ばかり。

 男ってやっぱりバカだ。


「ちょっと!」


 誰もが他人事と思い、見て見ぬふりをする中、救いの声がする。これは救世主の言葉。聞き覚えのある声。引っ張られて歩く足がぴたりと止まる。僕のネクタイの先は静止していた。


「何かしら……」


 女はゆっくりと声の方へと振り返る。同じく僕も首を絞められてはいるものの、必死で首だけを背後へ向ける。

 もちろん声の主は先ほどまで横にいたさや姉だった。怒ったような形相で、女を睨みつけている。何やら背後にメラメラと聞こえてきそうな、熱いものが見える。なんとなく雰囲気的に。

 今朝も見たこの二人の対決に不謹慎ながら期待してしまう。今朝はこの女の圧勝だったけれど、第二ラウンドはどうだろうか。

 女は僕のネクタイから手を離すことなく、無表情でさや姉を見つめている。というより睨みつけている。全てを見透かすような冷たい視線で。


「ゆうくんが嫌がっているでしょ」


「また、あなた……あなたは、この子の何?」


「えっと……」


 頑張れ、さや姉。


「幼馴染よ。お姉さんみたいなものだし」


「血縁関係もない、恋人関係でもない。幼馴染という口先だけの友情というものなら、それは他人と同じね。私は今朝、この子に何でもすると言われたの。二人の約束よ。それを止める資格があなたにあるのかしら?」


……すみません確かに言いました。


「う、それは……」


 弱いよ、さや姉。そこはもう少し頑張って反論して、助けてください。

 黙り込んださや姉を見つつ、女はようやく掴んだネクタイを放してくれた。それも急に解放された僕は今朝と同じくバランスを崩し尻餅をつくようにして後ろへと座り込んだ。

 あれ? 解放してくれたってことは、帰ってもいいんですか?


「じいや」


 女は一言、呟いて背中越しに、指先を立てた。


「かしこまりました。お嬢様」


 女はそのまま校門前に停車していた車へと乗り込んだ。そして、第二陣。今度は横に立っていた還暦のお爺さんがこちらへ向かってくる。というより古希と言ってもいいんじゃないだろうかというくらい白髪のお爺さんだ。

 なんか、さっきと違う……なんか、殺気がある。えっと、一言で言うと……怖い。

 ゆっくりとこちらへと近づいてくる。僕は座り込んだままそのおじいさんを見上げる。目の前で立ち止まると、にっこりと七福神の恵比寿様のような神々しい笑顔をした。


「な、なにか……」


「失礼いたします。三国様」


「へ? 失礼しますって何?」


 というかさっきから何で名前を知って……死神とかと何らかの契約でもしたんですか。

 そのじいやはそっと腰を曲げると下からすくい上げるようにして僕を持ち上げた。疲弊することなく軽々しく持ち上げる。

 お、お爺さんその歳で腰とか大丈夫? すぐ降ろしてもいいんだよ。でも優しく降ろしてね。

 見た目は七十近いお爺さんに軽々しく担がれてしまった。じいやは反転すると、校門前に駐車されている高級車へと向かっていく。


「あ、ちょ、ちょっと」


 後ろからかかるさや姉の声に、じいやは軽く会釈して車の扉を開け、頬り投げるようにして僕を車へと乗せた。


「へ、ちょっと? これ誘拐、拉致じゃないんですか? もしもーし」


 最後は乱暴に扱われたが、車のシートは何分柔らかく、そこまでのダメージはなかった。

 ちょ、乱暴だ……この車って、え? 中こんなに広いんですね。ちょっと感動。

 車の窓からは慌ててこっちへ向かってくるさや姉の姿が見えた。


「じいや、出して」


「かしこまりました。お嬢様」


 じいやあんた、さっきからそれしか言わないな。アンドロイドじゃないんだからもっと人間の言葉を話しなさいよ。

 運転席に座ったじいやはシートベルトとエンジンを同時にかけると、一気に車を発進させる。

 窓の外から見えるさや姉は心配そうな顔をしている。離れて行く車を何もできずに見ている姿が遠くになってもはっきりと見えていた。

 あと関係ないのだが、校門前にいた生徒たち全員が口を開けた馬鹿面でこっちを見ていた。

 さや姉以外誰一人助けなかったな。誘拐未遂が目の前に行われていたというのに、この安全国家日本に正義の心はないのか。


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