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ボクは仕事につかれました。  作者: 新京極宮子
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第一章②

読みにくかったので修正しました。

 桜が舞い、こんなにも明るいお天道様が見守っているのに、新学期からこんな憂鬱な気分で学校に向かうなんて、思ってもみなかった。


「どうしたの? これ見よがしにため息なんかついて」


「え? ため息なんてついてた?」


「悩んでいるんで、聞いてくださいってくらいのため息だったよ」


 長い付き合いもあるとそこまで見透かされるのか。幼馴染とはある意味危険な存在なんだな。

 僕の悩みはたった一つ。


「昨日、帝国大学のオープンキャンパスに行ったんだけど、散々でさ……」


 そう、憂鬱な気分は春休み前に緋山先生から紹介してもらったオープンキャンパスに昨日行ってきたのだ。結果はというと散々なものだった。何でかって?

 本来、大学側が大学に来てほしいためのオープンキャンパスなのだが、この学校には優秀な生徒を入学させるため、模擬面接が行われるのだ。

 もちろんそこで優秀な学生がいればスカウトするだろうし、劣等生なら爪弾きにされる。

 平凡な学生も例外ではなく。

 僕は優秀な生徒ではないが、ここまで卑下にされるとは思っていなかった。成績は上の下、目標もある。でも提出した自己紹介シートと面接では志願することさえ摘み取られてしまった。

 結果だけを言うなら模擬試験とはいえ不合格。圧迫も圧迫、面接官に詰め寄られ、全ての解答を論破され、未来も過去も現在も否定されるほどの結果だった。

 緋山先生の言うとおり、過去に何をしてきたか、現在何をしているか、未来に何をする予定かを問い詰められ、撃沈。オープンキャンパスの模擬面接に不合格など普通はないのだが、この大学だけは例外で、遠まわしに受けるな、受けても不合格だと宣告された。

 それでも僕の未来予想図をここで脱線させるわけにはいかない。必ず、帝国大学に合格して面接官を見返してやる。そして、エリートな女性をお嫁にして主夫になる。

 昨日のオープンキャンパスのおかげで、俄然やる気になったのだ。


「って、昨日いないと思ったらオープンキャンパス行ってたの? そっかぁ、ゆうくんも進路考える時期かぁ」


 進路っていうか、将来の夢だけどね。将来働かないためには、いい大学に入って、働くお嫁さんをゲットするのが一番だと思うんだ。エリートな女性をね。


「ま、まぁね。勉強していい大学に入れたらなぁって考えてるんだ」

 

 嘘は言ってないよな。


「ゆうくんは働きたくないから、大学なんてどこでもいいとか言ってるんだと思ってたよ」

前半ほとんど合ってるよ。読心術でもあるのかこの女。


「さや姉はもう来年受験でしょ? 志望校決めてるの?」


さりげなく話題を逸らした。さや姉は昔から頭もいいし結構上の方を目指しているんじゃないのだろうか。


「私は……」


 さや姉は回答に躊躇した。

 どうしたんだろう。まだ志望校決まってないのかな。受験勉強に追われているのかな。

 学年でも優秀なさや姉なら推薦も取れる位置にいると思っているんだが。


「ゆうくんが心配で、心配で。小中高はずっと一緒だったけど、大学だと離れ離れになっちゃうかもしれないし。一人で起きれる? ちゃんと授業出れる?」


 さや姉? いろいろお世話になっているから文句は言えないけど、もう高校生だよ? 身の回りのことくらい一人でできるよ。


「心配性だな、さや姉は」


 もう一人立ちできる歳だし、さや姉の手を借りなくても大丈夫だよ。


「ゆうくん、よくボーとしてる時あるし、危なっかしいのよ」


 ボーって。確かに花火に見惚れていて橋から川に落ちたことあるし、入学式の日、間違えて中学校に行ったこともあるけど、もう大丈夫だよ。

 それに目標もできた。絶対帝国大学に受かってやる。それで、馬鹿にした面接官や緋山先生を見返してやる。来てくださいって言われるくらいになって合格してやるんだ。僕をコケにした奴らをこの手で、見返し平伏させてやる。

 あれ、なんか今のやられるキャラの台詞みたいだったな。三流キャラの。

 そういえば、えっと何だっけ、面接官が言っていた言葉。


『最後のアドバイスとして言っておこう。もしまだ受験する気があるのなら、受験までの残り二年で胸を張れる貴重な体験をしてきなさい』


 だっけ……貴重な体験って言われてもなあ。


「…………う……く……あ……」


 今から自分を変えるって簡単にできるもんなのかな。たかが高校生の行動力なんて限度があるし、できる限界というのがある。金銭的にも時間的にも。

 でも入学していい彼女を見つけ、いいお嫁さんを見つければ、みんな僕が正しかったって認めるんだ……と言うより、さっきから何か聞こえたような気がするけど気のせいか?


「ゆうくん、危ない!!」


「へ?」


 その声に反応してゆっくりと声の元へと振り向いた。

 何? どうしたの、さや姉、そんなに慌てた顔して。あれ? 横断歩道にいつ入ったっけ? 

 振り向いた背後に立つさや姉の頭上には信号機と呼ばれる電光掲示は赤く光っていた。小学校低学年でも知っていること。赤信号は止まれ。

 僕は赤信号であるにもかかわらず横断歩道へと入り込んでしまっていた。

 横断歩道の信号が赤だということは当然、車道の信号は青だということになる。背後から首を四十五度動かすと、黒い車が一直線にこちらへと向かってきていた。

 その車は確実に僕のほうへと向かっているのに、ゆっくりと向かってきている。

 何か聞いたことあるな、周りがスローモーションに見えるっていう、あれ。走馬灯ってやつかな。それが見える時って、えっと確か……これって……


「死…………」


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