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第9話

 それでも俺は今や東洋チャンピョン。油断さえしなければナイフなんか怖くない。

 奴等の動きは全て見切れる。俺は頭に血がのぼったが冷静さは失っていない。

 ボクシングで鍛えた腕で、あっという間に奴等を半殺しにしてしまった。

 奴等にとって俺がプロボクサーである事を知らなかったのが災いした。

 俺は倒れた三人を容赦なく蹴りつけた。あの時以上にだ。三人とも複雑骨折している筈だ。

 奴等はなんとか命は助かったが、三人ともかなりの重傷を負った。当然長期入院だろう。

 多分、退院しても後遺症が残るだろう。二度と手が出せないほど半殺しにしてやったのだから。

 ワルの時代の俺が顔を出したようだ。そこには極悪非道と自負していた当時の俺が蘇っていた。


 近くで見守っていた統子が、心配そうに駆け寄ってくる。

「優ありがとう。でも警察に知れたらどうなるの? 私の為に貴方が……」

「良いって。これで統子が救われるなら刑務所に入ったって平気さ」

「バカ! そんなんじゃ私、喜べないわ。歌手を辞めてもいい。覚悟しているの」

「よせやい。俺はお前が輝いているのを見たいんだ。カッコをつけさせろよ」


 その時だった。バタバタと数人の警察官が血相を変えて走って来た。

 騒ぎを聞きつけた誰かが警察を呼んだようだ。俺は現行犯で緊急逮捕された。

 統子を見た警官はハッとして統子の顔をマジマジと眺めた。

「もしかして貴女は歌手の麻野七星さんでは?」

 俺は不味いと思った。いくら警官でも過去をほじくり返させたくなかった。

[違う! この人は俺の恋人だ。別人だ」

 だが誤魔化せなかった。あまりにも有名過ぎて隠しようがなかった。

 統子は俺を制して言った。

「いいのよ。こうなったら命がけで優の弁護をするわ」


 こうなると音楽プロダクションにも隠し通せなくなった。

 ただ悪質なファンに襲われた所を助けてくれた人物を救うという建て前で事は進んだ。

 統子は最高の弁護団を揃えて俺の為に尽くしてくれた。

 裁判でも俺は統子の強姦事件は口を閉ざした。頑として法廷には証人として呼ぶ事を拒んだ。 

 しかし何かを隠して居ることを検察側はすでに調べ終えているようだ。

 仕方なく俺は最後の願いを裁判所に託した。裁判では事件(強姦)のことを考慮し願いを聞き入れてくれた。


つづく

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